【小説】まおとプラネタリウムーぼんやり見えるその先に 第2話 お兄さん、帰りたい
見知らぬ高校生くらいの男の子に話しかけられて、戸惑っているまおに、男の子は続けて話しかけてきた。
「ぼくは、ここでバイトしているスタッフだよ。きみ、小学生くらいだけど、一人?迷子になったの?」
「友達と先生がさっきまでここにいたはずなんだけど・・・みんながいないようだけど・・・」
見知らぬ年上のお兄さんと話すことのないまおは、小さな声で緊張しながら声を絞り出した。
「友達と先生・・・?学校のみんなできたの?」
「はい・・・社会科見学で。たくさん来てるでしょ?小学生」
「いや・・・今日は、親子連れはいっぱいいるけど、小学生の団体は来ていないはずだけど。」
「え?!」
まおは、訳が分からなかった。確かにまおは今日4年生の3クラス90人ほどと先生たち数人でここに来たはずだ。それなのに、このバイトのお兄さんは何を言っているのだろう?
「みんなは、どこ?」
「とりあえず、受付に確認してみるから、心配しないで待っててね。」
そう言うと、バイトのお兄さんは、上着のポケットから何かを取り出し、耳に当てて話し始めた。
「はい。そうですか、わかりました。」
お兄さんは取り出したものを上着のポケットに入れ、まおに言った。
「やっぱり、今日は小学生の団体は来ていません。」
「そんなわけないのに・・・どうしよう。」
まおは怖くなって、涙が出てきた。
ーこのバイトのお兄さんは嘘をついているの?どうしたらいいの?ー
震えながら泣いているまおを見て、お兄さんは困った顔をしている。泣いているまおをじっと見つめているうちに、お兄さんはハッとした。
「きみ、今年が何年かわかる?」
「え?今年?いまは・・・1996年でしょ?」
「・・・」
この人はいったい何を言っているのだろう、とまおは思った。まおは、1986年生まれの10歳。いまは、1996年。何年かわかる?だなんて、小学生のまおに聞くなんて・・・小学生をばかにしているの?とまおは嫌な気持ちになった。
ちょっとムッとした表情を浮かべているまおに、お兄さんは言いにくそうにつぶやいた。
「あのね、言いにくいんだけど・・・いま、2032年だよ。令和14年。」
あまりにも信じられないような、物語の世界のような、おかしなことを真顔で言われて、まおはびっくりした。からかわれているのか?それとも、本当はまだ社会科見学に来ていなくて、これは夢なのか?まおは、何もしゃべれなくなった。そんなまおの様子を心配そうに見つめながら、お兄さんは続けた。
「ここでバイトしていると、たまに来るんだよね・・・きみみたいに。このプラネタリウムにかぎってなんだけど。ドラえもんのアニメってきみの時代にもあったと思うんだけど、ドラえもんのタイムマシーンみたいにさ。こことつながっているのかな。ぼくもよくわからないんだけど。」
お兄さんの話し方がどうも嘘をついているようには思えない真剣なトーンで、まおはますます怖くなってきた。
ーわたし、このお兄さんに騙されて何かされるんじゃ?それとも、やっぱり、すごい未来に来ちゃったの?ー
「あの、戻りたい、です・・・」
絞り出すような声でまおは言った。
「受付に聞いてみる。」
お兄さんは、またポケットから何かを取り出し、それに向かって話し始めた。そして、話し終わると、まおのほうを向いて言った。
「きみみたいに、どこからか来た子が元の時代に戻る方法はわからないらしいんだ。でも、数時間したらいなくなっていることがほとんどらしいから、きっと帰れるよ。」
「数時間・・・きっと・・・どうやって」
いなくなっていることが多いからと言うけれど、それは本当に元の場所に戻れているのか?数時間どうしていればいいのか?まおはまた泣き出した。「大丈夫だよ。他のスタッフもいるし、ひとまずプラネタリウムを出て、館内を探検してみる?」
お兄さんはにっこり笑ってまおに言った。
「まおちゃん。いい?知らない人にはついていっちゃだめよ。」
お母さんがまおにいつも言っていることを思い出す。でも、いまこのプラネタリウムには、子どもたちや先生の気配がない。目が見えにくいまおにだって、それくらいはわかる。この薄暗い空間にじっとしていることのほうが怖い。お兄さんは知らない人だけど、館内のなかを移動するくらいなら大丈夫。とりあえず、このプラネタリウムから出て、さっき過ごした宇宙ステーションのエリアや、地球儀のエリアを通り抜け、スタッフが沢山いるはずだし館内に行ったほうがいいよね、とまおは考えた。
お兄さんがさっきまおが一生懸命開けようとしても開かなかった重たいドアを開け、二人はプラネタリウムを出た。
「・・・さっきまでと違う。」
まおは驚いた。さっきまで友達や先生といたはずの子ども科学館の館内の内装が全く違ったのだ。壁も天井も全てが見たことのないデザインで綺麗でかっこいい。壁一面にテレビみたいに映像が流れている。大きな大きな恐竜が、いまにも目の前に飛び出してきそうな迫力で目の前にいるように見える。
ーほんとうにここ未来?そんなことってある?ー
〈第3話につづく〉
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