「◯年に一度の大雨」が頻発する今、気象ビックデータとSNS情報でリアルタイムに災害を捉える(抜粋)
2023年7月の九州豪雨から見る、SNS情報のメリットと弱点
2023年7月10日には、気象庁が福岡県と大分県を対象に大雨特別警報を発表する大雨となり、多くの被害がありました。JX通信社では、リアルタイムにSNS上に投稿される被害情報を検知し、位置情報とともに提供する「FASTALERT」を提供しており、この大雨に関する被害状況は、速報としてこちらのレポートでもご紹介しています。
「FASTALERT」では災害対応に関わる方々向けに、様々なビックデータを地図上で重ね合わせて、面的、かつ定量的に確認することが出来る機能を提供しています。
実装されているデータは、河川ライブカメラ、道路渋滞情報、各種ハザードマップなど多様ですが、今回は特に、豪雨災害に役立つ、最新の気象ビックデータについてご紹介します。
今回のnoteは、抜粋版です。詳細なご紹介はFASTALERTのHP上で取り上げておりますので、ご興味のある方は、是非以下をご覧ください。
FASTALERTのHP:
「「◯年に一度の大雨」が頻発する今、気象ビックデータとSNS情報でリアルタイムに災害を捉える」
防災科研 × JX通信社 気象ビックデータの活用
JX通信社は、我が国の防災研究の最前線である、国立研究開発法人 防災科学技術研究所(以下、防災科研)から生まれたベンチャー「I−レジリエンス株式会社」と連携し、FASTALERT上で防災科研が研究開発した気象に関するリアルタイムの定量データを、民間企業の有償サービスとして初めて実装しています。
FASTALERTでは2022年6月に第1弾として、防災科研が研究開発した「大雨の稀さ情報」を実装、2022年10月には第2弾として、「半減期1.5時間実効雨量」と「半減期72時間実効雨量」を追加実装しました。それぞれの情報について、まずは解説していきます。
「大雨の稀さ情報」で、経験のない災害のリスクを知る
よく、テレビの災害報道で「この地域では、◯年に一度のレベルの大雨が降り続いており…」と言っているのを最近耳にしないでしょうか。それも毎年言っているように感じます。
この「◯年に一度」というのは、降雨量そのものを指しているのではなく、その地域における「降水量の再現期間」、すなわち「今観測されている降水量が、平均してどのくらいの期間に一度起きる確率のあるものか」を計算したものです。
この指標を使って、「現在までの降水量が、その地域にとってどの程度珍しい、最近経験していないレベルのものか」を表現することができます。
例えば、「おじいさんの時代、50年前に大雨で崖が崩れたことがあると聞いたことがある、山肌の露出した山」が近くにあるとします。この50年、かなりの大雨でも大きな災害は起きてきませんでした。しかしそこに、「50年に一度の大雨」がいま降っているとすれば、もしかすると、安泰ではないかもしれない、ということです。
これにより、SNS情報も得られず、見に行くこともできないような場所の現在の危険度が推定できたり、特定の場所で検知されたSNS情報とメッシュ情報を同じ時刻にあわせて重ねて見ることで、「同等の被害がどのエリアで想定されうるのか」が、リアルタイムに判断できるのです。
このような大規模なリアルタイムデータ解析は、国の研究機関だからこその成果物と言えます。
再現期間について 出典:防災科研
上記の図は、2023年7月の九州地方を襲った大雨の際の「大雨の稀さ」とSNS投稿をプロットした図です。地図中央の福岡県久留米市周辺を見ると、稀な大雨が降った地域において、冠水などの投稿があることを確認できます。
実効雨量は「貯水タンクのようにそこに溜まっていく雨のモデル」
ここまでは「降水量」がどの程度稀なものであるかを考えてきましたが、土砂災害や浸水などの災害は、降り続けた雨がどれだけその場所に留まっているのか、に応じて発生すると考えられます。
仮にさほど強くない雨でも、長時間降り続ければ、次第に土の中に溜まっている水の量は増え、土砂災害に繋がります。また、普段は下水道を通じて流れていく道路の雨も、一気に降れば排水が間に合わず、冠水に繋がります。
土砂災害の危険度の目安に:半減期72時間実効雨量
「半減期72時間実効雨量」は、土砂災害との相関性が高いと考えられる実効雨量データです。
FASTALERTでは、この計算結果が50mm以上となる地点を最大の色で表現しており、実際に土砂災害が起きてSNSで情報が検知されている箇所との連動性を、特に山間部で確認することが出来ます。
下記の図は、同じく2023年の7月に発生した九州地方の大雨における実際の「半減期72時間実効雨量」とSNS投稿を重ねたものです。危険度の高い地域に被害投稿があることを確認できます。
浸水害発生の危険度の目安に:半減期1.5時間実効雨量
「半減期1.5時間実効雨量」は、地表の表面や浅いところに溜まった水分量の指標で、局地的な浸水の発生に関連する実効雨量データです。
特に都市部では下水道の改修や一時的な貯水設備などの整備が進んでいるかどうかなど、様々な要員で内水氾濫の発生確率は変化しますが、実際のSNS情報の検知情報と重ね合わせてみると、概ね追従していることがわかります。
2023年7月に発生した九州地方の大雨の際の「半減期1.5時間実効雨量」とSNS投稿の図では、危険度の高いエリアが広がるにつれ、被害の投稿が増えていく様子が確認できます。こちらはFASTALERTのHP上で公開しておりますので、以下からご確認ください。
FASTALERTのHP版:
「「◯年に一度の大雨」が頻発する今、気象ビックデータとSNS情報でリアルタイムに災害を捉える」
最後に
JX通信社が強みとし、提供している「AIによって分析されたSNS情報」や「NewsDigestユーザーの投稿」は、現地の様子が映像でわかるため、直感的に状況把握ができます。また、膨大なSNS投稿をベースにしているため、様々な場所で起きた様々な事象を網羅的に把握できるという強みもあります。一方で、こうした情報はあくまで定性的なデータであり、避難指示や避難行動の判断材料とするのは難しいという弱点があります。
防災科研が研究開発する定量のリアルタイムデータは、指標として明確な点がメリットですが、日常あまり使わない単位のデータでもあり、どのような災害につながる状況なのか、読み手の理解や判断に繋げにくいという側面もややあります。 JX通信社が得意とする定性データと、こうした定量のビックデータを、進化した観測技術と計算技術により、リアルタイムに組みあわせることが出来るようになりました。
こうした迅速な意思決定を支援できる仕組みをいち早くご提供することが、昨今の激甚化・局地化する災害に対応する「防災DX」の重要な手段として捉え、当社は積極的に開発を進めています。