【私立聖S学園中等部】 (2)スパルタ体育授業
新1年生にとって初めての授業は体育だった。本来は運動場で行われるのだが、今日は雨が降っているため体育館に変更との連絡が朝のホームルーム時に担任から伝えられた。
僕たちはホームルームが終わった後、そのまま教室で体操服に着替えた。制服採寸時を除けば入学後に初めて着用する。4月に入り次第に暖かくなリつつあるが、雨の影響もあり少し肌寒く感じられたので、半袖短パンの上にジャージを着ることにした。体操服のデザインや質感は私立の割に質素な方だと思う。白地の丸首半袖シャツにスクールカラーである紫色の短パンで、左胸と左裾部分にそれぞれ学校名が横文字でプリントされている。ジャージは上下とも紫色で、パンツと袖には両サイドに白いラインが入っている。
着替え終わった後、日直が教室を施錠し、体育館シューズの入った袋をぶら下げて僕たちは体育館へ向かった。
1時間目開始時刻は9:00時。僕たちが体育館に到着した頃、舞台横にかけられた時計は8:55分を指していた。入り口の頑丈な鉄扉の前には足ふきマットが敷いてあり、その上で上履きから体育館シューズに履き替えた。
体育館に入ると雨で湿気を含んだ独特の木造の匂いが感じられた。僕たちは特に指示を受けていなかったので、舞台付近に集まりその場に座って会話を楽しみながら先生の到着を待った。
チャイムが鳴ると同時に入り口の鉄扉が閉まる大きな音とともに、上下ジャージ姿で強面の男性教師が僕たちの座る舞台前に向かって来た。学生時代に何かしらのスポーツに打ち込んでいたのだろうか、40代位に見えるが体格はがっしりとしていた。
「いつまで話をしているんだ! 体育員、号令をかけろ!」
「あっ、はいっ。 き、起立っ...!」
入学して初めての授業は怒号で始まった。
体育委員の井上君は突然の怒鳴り声に動揺しながら号令をかけた。
「そんなバラバラだと挨拶ができないだろうが!左が奇数、右が偶数になるように出席番号順に2列で並べ! 」
僕たちは先生の気迫に恐れ慄きながらも指示通り2列に並んだ。
「次からそれが集合形態だから覚えておけ!...礼!」
「《ハイッ。お願いします。》」
僕たち一同は先生の圧に気圧されて、自然に挨拶に力が入り、引き締まった大きな声で行った後、先生は手に持っていた出席簿を開いて一人ずつ名前を呼び出席を取り始めた。先生は名前を呼びながら生徒の顔を確認しているようだった。指定の体操服には上下ともに苗字の刺繍が漢字で入っているが、シャツは左下の裾部分に、ズボンは左上の腰ゴム部分にそれぞれ入っているので他人からは確認し辛い。
「先生は体育科の桜井竜二だ。授業の前に規則だが、俺の授業ではジャージは禁止だ。授業が始まったらどんなに寒くても脱いで半袖短パンになってもらう。寒さに耐えるのもトレーニングになるからな。」
僕たちは体育館シューズを脱いで、着ていたジャージを上下とも脱いだ。脱いだジャージは軽く畳んで舞台に置いた。半袖短パンの体操服はポリエステル生地で速乾性に優れている反面、風通しが良く保温性が悪いので肌寒く感じる。
僕たちは小声で「寒いッ!」と呟きながら再び2列に整列した。
準備が整い、柔軟体操を済ませ、体育館内を大回りで10周した後、本格的に授業が始まった。授業内容は「集団行動」の基礎だった。行進や回れ右などの動作を体得し、先生の号令に従い、クラス全員の呼吸を合わせる必要があり協調性を育む目的がある。
「そこ、遅いッ!! やり直しッ!!」
「行進!!」
「止まれ!!」
「右向け右!!」
「ダラダラするな!!」
「揃ってないだろ!」
「もう一度!!全員揃うまで続けるからな!」
体育館内には桜井先生の怒鳴り声と体育館シューズが床との摩擦で生じるキュッキュッという音が響いていた。
先月まで小学生だった僕たちにとって体力を消費するかなり過酷な授業だった。
「回れ右!」
「コラァッ!! チンタラするな!」
小休止無しで行われ、終わりの見えない集団行動の練習によりクラス全員、疲労が顔にあらわれていた。
「全体止まれ!」
「いちッ!」
「にッ!」
授業終了の5分前ぐらいに全員の動きがビシッと揃い、授業の目標を達成した。僕たちはハァハァと息を切らせて汗を流していた。
「《はぁぁっ、、、やっと終わった...!!》」
全員が内心安堵していたその時だった。
「お前たちは全員揃うまでいつまでかかっているんだ!?」
「.......」
「それにダラダラ行動して... 中学生としての自覚がないのか!?」
「......」
僕たちは気を付けの姿勢のまま返す言葉が見つからず、無言のままだった。体育館には腕組をした桜井先生の叱責の声がこだまする。
「...お前たち全員気合を入れてやる。壁に向かって駆け足!!」
僕たちは言われるがまま体育館の壁に向かって走った。
桜井先生は教師控室に入り、手に竹刀を持って出てきた。
「1人分間隔を空けて、両手を壁に付けろ!!」
「股を開いて尻を出せ!」
出席番号順にクラス全員が桜井先生の命令に従い、細い腕を壁に伸ばし、股を少し開いてお尻を後ろに差し出した。
紫色の短パンのお尻が等間隔に横一列に並んでいる。太ももが半分ほど露わになっており、脚がスラッと長く見える。
「歯を食いしばれッ!」
「バッシィィィン!!」
「いっ...!イタイっ!!」
桜井先生は先頭でお尻を突き出している井上君のお尻に竹刀を思いっきり打ち付けると同時に竹刀の乾いた音が体育館中に響き渡った。自分の番を待っている生徒たちは姿勢はそのままで顔だけ井上君の方を向けていた。
井上君は姿勢を崩し、痛むお尻を両手で押さえていた。
「井上ッ! 皆が終わるまで元の姿勢に戻れ!」
「はいっ、、すみません...」
井上君は再び壁に両手を付いてお尻を突き出した。
桜井先生は竹刀で床をバシバシと叩きながら、隣でお尻を突き出して待っている加藤君の左後方に立った。加藤君の両脚はプルプルと小刻みに震えていた。
「歯を食いしばれッ!!」
「バッシィィィン!!」
「あうっ...!痛っ!!」
隣でお尻を竹刀で叩かれる加藤君を僕は横目で様子を見ていた。
痛みに耐えきれずうめき声を漏らし、脹脛を擦り合わせ痛みを紛らわせているようだった。
いよいよ自分が叩かれる番が近づき、恐怖のあまり鼓動が激しくなった。
「次はお前だ。歯を食いしばれッ!」
僕は目をしっかり閉じ歯を食いしばった。
「バッシィィィン!!」
「はぁうっっ...!!」
産まれて初めて竹刀でお尻を叩かれた。お尻を突き出す姿勢を取らされていたため、骨にまでズシンと重い衝撃が伝わり、予想を上回る激痛が走ったため、意志に反してうめき声が漏れた。痛みは一瞬でピークを迎え、次第に和らいで行き、代わりに叩かれた部分を中心にお尻が火照ったように熱くなった。
僕も加藤君と同じように脹脛と脛を擦り合わせて痛みを紛らわせた。
その後も残りの生徒全員のお尻に桜井先生の力強い竹刀が飛んだ。
「バッシィィィン!!」「あぅっ、、」
「バッシィィィン!!」「ひぃっ...!!」
「バッシィィィン!!」「ひぃっ... イタいっ!!」
「バッシィィィン!!」「あぁっ..!!」
「バッシィィィン!!」「うぐっ...!!痛いっ、、」
「バッシィィィン!!」「あっっ..!!」
「バッシィィィン!!」「うぁっ...!!」
「バッシィィィン!!」「うぅっ... イタイっ...!!」
「バッシィィィン!!」「いぁっっ...!!痛いっ...」
クラス12名全員の気合い入れが終わる頃に授業終了のチャイムが鳴った。
「全員こっちを向け! 今後、いつまでも小学生気分が抜けない態度が見えたらもっと厳しくしてやるから覚悟しておけ!! ...挨拶!」
「《ハイッ...! ありがとうございましたッ!》」
僕たちは礼をした後、舞台にジャージを取りに行き体育館を後にした。
次の授業は国語で教室で行われたが、椅子は木製で座ると硬く、僕たちは痛むお尻を時折浮かせたりモジモジさせたりして授業に臨んでいた。