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無名の俳優が魅せた覚悟【インタビュー④】


「自分の芝居で食う」と腹を決め、一人芝居で稼ぐ事で店と自身の価値を創って行こうと躍起になった田中だったが、チケット代を3000円から500円に下げなければならなくなってしまい、客足は激減したそう。
連日満員御礼だった来場者は、少ない時で2人だったと言う。

3000円を払って観に来ていた客から怒られ、店からは疎まれながらも、舞台に立ち続けた田中は一体どんな気持ちだったのだろうか?

客が2人だろうと一人芝居の本番前は必ず嘔吐すると言っていた田中にとって「舞台に立つ」と言う行為は、どんな意味を持つのか?

一年間のロングラン公演を終えた田中惇之は、舞台を東京キネマ倶楽部へと照準を合わせる。



ロングラン公演中の精神状態

ー飛田
「ここで稼いでいいよ」って言われた時の状況と結構変わって来て、正直キツくなかったですか?

ー田中
全然よ!笑
だって初めて自分で書いた作品が評価されて、それを上演出来る場所があるんよ?
まぁでもその頃には、一人だけ楽して稼いでる事に店内で不満が出とるって事がわかったけえ納得しとったね!

歌舞伎町で一人芝居を上演する田中

ー飛田
お店に行くのが気まずかったりしなかったんですか?

ー田中
あ〜、それは一回もないね〜
多分時給稼ぐバイトもじゃけど、給料貰っとる社員からも俺に対して不満って絶対あったのよ!
だって客数に3000円かけたら、バイトの下っ端の俺が一日で稼いどる金額がわかるわけじゃん?
それを許可したのがオーナーだってわかったら、そりゃ不満が出るじゃろ。
「なんでアイツが!」って怒りより「なんで私には!?」って思っとったと思うよ。みんな自分に自信がないんじゃろう。

ー飛田
自信があったんじゃないですか?

ー田中
自分に自信がないと他人が羨ましくなるじゃん?
上の人間に良く思われたいから一生懸命働いて実績出して、そんで給料上げてもらいたいじゃん!
そこを俺がポーンといくとさ「こんなに一生懸命働いてるのに!」って自分の仕事が馬鹿らしくなるじゃん。
俺より余裕で稼いどっても、働いてない人がお金もらっとったらええ気はせんじゃろ。
自分を肯定するために俺みたいな奴は凄く邪魔な存在なんだろうけど、俺は時給を稼ぐために店に出とるわけじゃなかったけえね!
店のカウンターに立っとる時も、その場がある事が嬉しくて?楽しくてやっとった感じはあるかなぁ〜

ー飛田
じゃ自信があった方の人なんですね!
でもやっぱり芝居で稼ぐと言う価値の方が大きかったですか?

ー田中
と言うより、初めて自分の仕事を認めてくれた人が与えてくれた「一年間やる」って機会をフルに活かして次のステージに行くイメージが強かったね!
あ、仕事はホンマに何も出来んかったんよ!笑

ー飛田
それは不満出ますね!!!笑

ー田中
あからさまに嫌いオーラ出しまくる人とかザラにおったよ!
さっきまで楽しそうな雰囲気だったのに、俺の顔見た瞬間帰る人とか!笑笑

ー飛田
お客さんでですか!?

ー田中
むっちゃ店の人!!!笑
可愛いよね!

ー飛田
それ正直めちゃくちゃキツくないですか?

ー田中
向こうの方が絶対キツイっしょ!笑
だって俺に嫌悪感を与えるために自分犠牲にする割に無害なんよ!?

ー飛田
そう言われれば確かにそうですね。
てかそのメンタルヤバいですね!笑

ー田中
そんな事より、確かその頃の抱えとる作品が物凄く自分にとって大きな作品だったのよ!
年間何本あったか覚えとらんけど、主演の舞台だけで8本とかあった年だったんよ!!!
ずっと出演するのを目標にしとった団体の作品に出れたり、とにかく一年通して気が気じゃなかったね!!!

ー飛田
確かその年の年末に初めて東京キネマ倶楽部で一人芝居をやってますよね?

ー田中
そう!!!
マジで店に入るタイミングもなくて、俺のこと嫌いな人はすげープレッシャーかけて来るし、ほなロングラン公演のフィナーレを東京キネマ倶楽部でやって、それでもうバイトも辞めようと思ったわけ。

歌舞伎町から東京キネマ倶楽部へ

ー飛田
元々入れてなかったと言うのもあると思うんですが、何か他にもあったんですか?

ー田中
いや、シンプルにそれだけ!笑
ホンマに時間が割けんかったし、その時一か月に2回は出勤してないとクビって言われとって、そんな状態でお店に入っても、そのまま舞台に立っても稽古場に行っても負のスパイラルしか生まれんじゃろ?

ー飛田
それ言って理解してもらえたんですか?

ー田中
されるわけないじゃーん!笑
すげー怒られたよ!笑笑
「朝までカウンターに立って舞台に立ってる俳優だっているだろ!」って!笑
誰だよ!って笑

ー飛田
実際いたんですか?笑

ー田中
知らんよ!笑
ゴールデン街には俳優やりながら店持っとる人も何人かおったけど「じゃけえどしたん?」って思って聞いとった。笑
「そいつらが質の悪い仕事してるだけだろ」って、その人たちもきっと「明日からスピルバーグの現場です!」ってなったらしっかり家帰って寝とるよどーせ。
ようは仕事が無い人たちでしょ?
そんな人たちと同じスタンスを押し付けられるのが堪らなく苦痛だったね!
「昔あの作品に出たんだよ」って過去を語るようにはなりたくなかった。
俺だっていつそっち側に行くかわからんけど、今死ぬ気で芝居をやらんかったら一生このままじゃ言うんは、この頃から強烈に思い始めたと思う。

ー飛田
それはやっぱり一人芝居がきっかけになった?

ー田中
やっぱそうじゃない?
自分の作品にお客さん呼んで観てもらうって経験が、作品に携わるスタンスを変えてくれたんじゃないかな。

ー飛田
じゃあ最後はお店の人たちも皆んな東京キネマ倶楽部の一人芝居楽しんでくれた感じですか!?

ー田中
ええ質問するね!!!!
むちゃくちゃええ質問!笑
これが誰も観に来んかったんよ♪
一人来たけど、それは俺がお店に誘った元々俳優の子やね!

ー飛田
むちゃくちゃいい展開!
嘘でしょ!?笑
そんなにですか!?

ー田中
面白いよ〜笑
しかもね、なんか割と揉めてて街の人とかもほとんど来てなかったんじゃないかな?
それでも来てくれた人のお店には速攻で飲みに行ったけどね!!!


近所に住んでいるという事もあり、田中惇之と言う俳優と過ごす時間が長くなるほどに、自分の考え方や物事の捉え方が最近なんとなく傾倒して来ているような気がする。

インタビュアーと言うのは客観的な視点を共有すべき立ち位置だと思うが、一般人がやるとこうなるんだろう。

そして何か起きた時「こんな時、田中惇之ならどうするだろう?」と考えてしまっているから仕方ない。

次回は、初めて東京キネマ倶楽部の舞台に立つまでの話をまとめていこうと思う。

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