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グローバル・エリート・サラリーマンが、カバ沼に、なぜハマったのか?

今回の話は、私がカバ(CAVA)、スペインのスパークリングワインの沼にハマった話です。

私の著書【仕事は「数式」で考える】では、仕事に役立つ数式をたくさん、ビビッドなエピソードとともに紹介しています。そして、仕事に直接関係ないかもしれない数式も、すこし紹介しています。

その中の一つに、最近海外で大人気、日本酒(SAKE)のおいしさを表す数式も出てきます。


[私にとってのSAKEのおいしさ] =
(肴のおいしさ)+(SAKEのストーリーのエモさ)+(酒器の気に入り度)+(SAKEの物理特性としてのうまさ)
 

人によっておいしさの構成要素が違うので、自分の「おいしさの数式」を表現して、仲間で持ち寄っていろいろ議論すると、日本酒(SAKE)がもっとおいしくなるよ、という提案をしています。
(なんのこっちゃ?という方は、ぜひ本書を読んてくださいね)

SAKEのおいしさの時は(肴のおいしさ)が最初に来ました。
でも、私にとってのカバのおいしさは、(CAVAのストーリーのエモさ)、が最初に来ます。

それはなぜでしょうか?
かなり長くなりますが、カバ沼にはまった経緯を紹介します。これを読んでいただいて、カバ沼ともだちができるとうれしいです。


30,000フィート上空での、甘美な出会い

スパークリングワインの魅力が、理解できない青二才

20代の頃、スパークリングワインの魅力がいまいち理解できませんでした。

シャンパンとスパークリングワインの違いすら曖昧で、細長いグラスに入った高価な食前酒という印象だけ。「まずくはないけど、どう楽しめばいいの?」と思っていました。

喉越しを求めるならビール、キリッとした味わいなら白ワイン、炭酸が欲しいならジンリッキーで十分。高価で気取った飲み物という先入観もあり、「お金持ちが自慢するための道具なのかな?」なんて思っていました。

ある日、会社の先輩にそのことを漏らすと、
「わかってないなぁ。あれはパーティーの前に気分をアゲるためのものなんだよ」
と笑われました。
でも、私はパーティーピーポーじゃないし、自分には合わないお酒だと感じていました。

シリコンバレーでの、気分がサガる自動車事故

転職して初めてのシリコンバレー出張から帰国する日のことでした。

1日平均5つのミーティングをこなす2週間を乗り切り、ついに帰国の日がやってきました。フライトは正午すぎの出発だったので、午前中は自由時間。いろんな学びがあった2週間を過ごし、気持ちが高揚していました。

「そうだ!帰国前に、カリフォルニアらしい景色を見に行こう」と思い立ち、太平洋を見に行くことにしました。
帰国の便が出発するサンフランシスコ国際空港から近くの太平洋が見られる場所を探すと、ハーフムーンベイが良さそうです。宿泊中のホテルがあるサニーベール市から車で約1時間。朝8時にチェックアウトし、レンタカーで高速道路280号を北上。緩やかな山を越えて、無事にハーフムーンベイに到着しました。

ハーフムーンベイ海岸でぼーっと太平洋を眺めながら、今回の出張を振り返りました。
新しい学びが次々とあり、アドレナリン全開で駆け抜けた濃密な2週間。心地よい疲労感に包まれながら、1時間ほど海を見ていました。
「さあ、早めにレンタカーを返しに空港へ向かおう」と腰を上げ、車に戻りました。

海岸近くの三叉路で一時停止し、他の車がいないことを確認して直進。すると、左側から大きな影が迫ってきました。
「あれ?」と思った瞬間、スローモーションのように時間が流れ、メリメリメリッという衝撃。
気づくと、大型SUVが私のレンタカー、フォルクスワーゲンのジェッタセダンの左側に突っ込んでいました。
アメリカは左ハンドル。つまり、私が座る運転席のすぐ左のドアが、こちら側に収縮しているのです。

幸い、自走は可能だったので、ゆっくりと路肩に停車。自分に怪我がないことを確認していると、SUVからふくよかなヒスパニック系のおばさまが降りてきて、スペイン語と英語でまくし立ててきました

英語部分を聞き取ると、「あなたが飛び出してきたから避けられなかった。あなたのせいよ!」と主張しています。
でも、ここは全方向一時停止の交差点。彼女も一時停止しているはずで、私が飛び出したとは考えにくい。
完全に彼女の前方不注意だと確信しました。

警察を呼んで現場検証が始まりました。
私はまったく悪くないので、正直に状況を説明。スマホで車の損傷や相手の車、免許証などを撮影しました。
警察に求められて、国際免許証を見せました。すると、「これはカリフォルニアで有効なのか?」と聞かれました。ここでうろたえると疑われてしまいます。自信満々の顔で、「もちろんです」と答えました。

現場検証が終わり、レンタカー会社に連絡すると、「自走できるなら返却場所まで来てください。保険に入っているので問題ありませんよ」とのこと。
早めに空港に向かおうとしたおかげで、フライトには間に合う時間に、空港のレンタカーセンターに到着できました。

「やれやれ、太平洋を見たいなんて思ったばかりに、こんな事故に巻き込まれるなんて…」と気分はどんより
レンタカーを返し、空港内を移動するエアトレインで、国際線のチェックインカウンターへ向かいました。

伝説の、ファーストクラス1A

チェックインカウンターへ向かう途中、「このままの気分で日本に帰るのは嫌だなぁ」と思っていました。

搭乗する予定のANAのアプリを確認すると、アップグレードポイントが残っていることに気づきます。
「帰りの便、ファーストクラスにアップグレードしちゃおう!」と決意。
幸運にも、その便のファーストクラスは誰も予約しておらず、利用者は私だけでした。

そしてなんと、あのうわさに聞く、伝説の1Aシートが割り当てられました。飛行機の座席の中で、もっとも位が高い、と言われるシートです。

ファーストクラスで提供される綿のパジャマに着替え、うとうとしていると、シートベルトサインが消えました。

CAさんが優雅な所作でメニューを手渡してくれます。私はこのとき、ファーストクラスに乗るのは初めてでした。
どんなお酒があるのか、期待と好奇心で胸が高鳴ります。
ドリンクのメニューを開くと、最初のページにはシャンパンのリスト。あまり得意ではないけれど、一応チェックしてみることにしました。

「Krug」と書かれています。
たしか、Jay-Zがクリスタルと揉めたとき、Dom Pérignonと一緒に名前が出ていた高級シャンパンです。そんな逸話だけは知っているけど、当然、飲んだことはありません。
ですが、今のこの沈んだ気分を何とかしたい。ここは、気分をアゲるための一杯が必要です

私は決意しました。

高貴なKrug様との出会い

「Krugをお願いします」

注文を告げると、CAさんが静かに微笑み、グラスを用意し始めました。
運ばれてきたのは、私が想像していた細長いフルートグラスではなく、丸みを帯びた白ワイン用のグラスです。その中に、琥珀色のKrugが慎重に注がれます。ゆっくりと揺れる液体が、機内の照明に照らされて美しく輝いていました。

給仕してくれたのは、ベテランの風格漂うCAさん。
どこか、友人の母親に世話を焼かれているような、妙に落ち着かない緊張感があります。

Krugで満たされたグラスを手に取り、上部に鼻を突っ込みました。やんごとなき芳醇な香りが、むわんと脳を侵食してきます。
Krugをそっと口に含むと、シュワシュワと繊細な泡が舌の上で軽やかに踊ります。コクリと喉を通ると、刺激が舌、喉、食道、胃へとゆっくりと広がっていくのが感じられました。加えて、甘さ、辛さ、フルーティーさ、そして気品に満ちた余韻が、全身を包み込みます。

しばらく、自分のココロの中を見つめてみました。
「あー、これが、気分がアガるってやつかー」

飛行機がアラスカ上空に差し掛かる頃には、すっかり上機嫌になっていました。前菜のキャビアとKrugの相性も、まさに最高。ひと口飲んでは、ひと口味わい、そのたびに幸福感がじわじわと染み込んでいくようでした。

そういえば、Krugに出会わせてくれたのは、あのスペイン語で怒鳴っていたおばちゃんのおかげでもあります。まさか、自動車事故のせいで?おかげで?こんな贅沢な体験ができるとは。
あのおばちゃんに対して、ほんのすこしだけ、感謝の気持ちが芽生えました。

シャンパーニュ沼にハマりかけた

シリコンバレーの富裕層イベントへのお誘い

シリコンバレーに住むようになって、気がつけば1年が経っていました。慣れたとはいえ、まだまだ新しい出会いや驚きが尽きない日々。

そんなある日、友人の奥様から思いがけない誘いを受けました。
「急遽、イベントに参加できなくなった人がいて、1席空いてるんだけど、興味ある?」

どんなイベントか聞いてみると、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンから講師を招き、シャンパーニュの講義を受けながら飲み比べをするというものらしい。しかも、参加者はシリコンバレーの富裕層ばかり。そんな機会、そうそうあるわけがない。

「行きます!」
二つ返事で即答しました。

LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンといえば、言わずと知れた世界最大の高級ブランドグループ。ファッション、ジュエリー、香水、酒類など、70以上のブランドを傘下に持ち、その名を聞いただけでラグジュアリーな雰囲気が漂います。
みんな大好きルイ・ヴィトンを筆頭に、クリスチャン・ディオール、ティファニー、フェンディ、セリーヌ、ブルガリなど、誰もが知るブランドがずらりと並びます。
お酒の分野でも、モエ・エ・シャンドン、ドン・ペリニヨン、クリュッグ、ヴーヴ・クリコなど、シャンパーニュの名門がそろっています。さらに、アードベッグ(スコッチウィスキー)、ベルヴェデール(ウォッカ)、なども有名です。
おしゃれと贅沢の王様ですね。

シャンパーニュ好きには夢のような体験

会場に着くと、講義が始まる前の待ち時間に食前酒が振る舞われていました。
なんと、Moët & Chandonのノンヴィンテージ。
食前酒でこのレベルということは、講義中にはどれほどのシャンパーニュが登場するのか、期待が膨らみます。

富裕層の皆さんと雑談をしながら、場違いにならないよう慎重に振る舞っていたものの、気がつけば2杯も飲んでいました。やっぱり美味しいものは美味しい。

講義は着席して聞くスタイル。目の前には、6つの白ワイングラスが並んでいます。
「おお、6種類も飲み比べできるのか…!」

講義は、シャンパーニュのぶどうの種類や製造方法から始まり、造り手の歴史、ヴィンテージの違いなど、多岐にわたる内容でした。
ワイン好きにはたまらない内容ですが、正直、シャンパーニュを飲みながら聞くには情報量が多すぎて、オーバーヒートしそうでした。
でも、実に面白い。

まず最初に登場したのは、Moët & Chandonのヴィンテージシャンパーニュ(何年のものかは忘れてしまいました)。
多くのシャンパーニュはノンヴィンテージで、ぶどうの収穫年が記載されていません。これは、異なる年代のシャンパーニュをブレンドし、毎年同じ味を維持するためなのだそうです。ウイスキーと似ていますね。

次は、Moët & Chandonのロゼのヴィンテージ。なぜこのヴィンテージを選んだのか、講師が詳しく解説してくれました。

そして、いよいよドン・ペリニヨンのヴィンテージ
続いてドン・ペリニヨン・ロゼのヴィンテージ

次は、クリュッグ
そして最後は、憧れのクリュッグ・ロゼ

それぞれのシャンパーニュごとに、ペアリングされた一口サイズの料理が、レンゲのようなスプーンに乗せて提供されました。
一口、といっても、実際にはレンゲに乗ったフランス料理です。

通常、料理に合わせてワインを選びますが、ここでは主役がシャンパーニュ。それに合わせた料理が提供される、という逆転の発想が新鮮でした。

素人質問は良い質問?

少し酔いが回ってきたこともあり、ふと疑問が浮かびました。
「なんでフルートグラス(細長いシャンパングラス)じゃなくて、ワイングラスで飲むんだろう?」

気づくと、頭に浮かんだ疑問を、そのまま口にして質問していました。

その瞬間、周囲の参加者たちが一斉にこちらを注目しました。やばい、もしかして初歩的すぎる質問をしてしまった…?と後悔。

しかし、LVMHの講師はにっこり微笑みながら、
「That’s a great question!」
と褒めてくれました。

「フルートグラスは炭酸が抜けにくいため、一般的にシャンパーニュに使われます。しかし、私たちのシャンパーニュは香りをしっかり楽しんでいただきたいので、口の広いワイングラスを推奨しています」

なるほど。確かに、口の広いグラスの方が、香りをダイレクトに感じられる気がします。
実は他の参加者も気になっていたようで、イベント後に「よく聞いてくれた」と感謝されました。 

イベント終了後、主催者にお願いして、余っていたクリュッグ・ロゼのボトルをちゃっかりいただくことに成功しました。

こうして、甘美で危険なシャンパーニュ沼に片足を突っ込み始めた夜が、幕を閉じました。

カバ沼にはまるきっかけ

西麻布のバーにいた、カバ似の男性

それからというもの、食前にシャンパンを飲む機会が増えました。

でも、あたり前のことにすぐに気づいてしまいます。
「シャンパンって、高いよね……?」

ファーストクラスやシャンパーニュ講義での体験を経て、すっかりその魅力に取り憑かれてしまったものの、このまま続けていたら確実に破産する未来が見えました。
危険です。

しかも、良いシャンパンはたいていボトルでしか注文できません。4人くらいでシェアできればいいですが、一人で1本はさすがに厳しい。そのあとに白や赤も楽しみたいですし。

シャンパーニュ沼にハマるのは危ないよなー、でもおいしいよなー、とブツブツ言いながら、ある日、西麻布のバーにふらりと立ち寄りました。

私は一人でカウンターで飲んでいました。

シャンパンは高すぎるので、代わりに「プロセッコ」なるものを頼んでみました。イタリアのスパークリングワインで、シャンパーニュほどの価格ではなく、手頃に楽しめるらしい。

プロセッコをちびちび舐めていると、隣のカップルの会話が耳に入ってきました。

女性は明るい茶色の巻き髪で、派手めな大学生くらいの年齢。
相手の男性は、体格のいいおじさん。ずんぐりむっくりで顔が四角く、口が大きくて、どことなくカバっぽい。もしかしたら、宴会芸でスイカ丸呑みとかやっているかもしれない。

女性は猫なで声で、おじさんに甘えるように話しかけました。
「私って、カバが好きな人、なんですよぅ」

……これは、告白なのでしょうか? それとも遠回しにバカにしているのでしょうか?
それとも、次のデートの行き先の相談でしょうか。もしこの二人が動物園にいたら、場違い過ぎて、周囲の家族連れはなんとなく距離を取るかもしれません。
ちなみに私は、ゾウさんが大好きです。

カバ沼への入り口へようこそ

そんなことを考えていると、彼女がバーテンダーに向かって、
「カバ、ください」
と言いました。

「カバ?」

動物園の話をしていたのではなく、まさかのドリンクの名前!?

気になってスマホで検索すると、「CAVA(カバ)」というスペイン産のスパークリングワインらしいことが判明しました。しかも、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵の製法で作られているのに、値段は圧倒的に安い。

これだ……!

メニューを確認し、私も「カバ・ロゼ」を注文してみることにしました。

運ばれてきたフルートグラスの中には、サーモンピンクの輝きが美しいロゼスパークリングワイン。細かい泡がきらきらと揺れながら、ゆっくりと上昇しています。
まずは、鼻をグラスに突っ込んで、クンクンと香りを嗅いでみました。ストロベリーやラズベリーのような甘やかで華やかな香りが広がります。まるで春の果樹園ではしゃいでいるようです。
期待を込めて、グラスを傾けてひとくち。
口に含んだ瞬間、デリケートな泡が舌の上で心地よく踊ります。見た目の華やかさから甘口を想像していましたが、意外にも、程よい酸味と果実の風味が絶妙に絡み合い、キリリッとした辛口。

「これは……いい発見をしたかもしれない」

つまみにしていたカラマリ(イカのフライ)との相性がばつぐんだ!
みずタイプでいわタイプを攻撃したかのようです。この場合、カバ・ロゼがみずで、イカがいわなのかな。

……そんなことを酔っぱらいながら考えつつ、グラスを傾けながら、このカバ・ロゼの魅力にじわじわと引き込まれていくのを感じました。

見た目は甘く華やかなのに、味わいは辛口。このギャップがなんとも魅力的で、沼る要素がたっぷりでした。
例えるなら、ふんわりした可愛い雰囲気なのに、実はバリバリ仕事がデキる人、みたいな感じでしょうか。

カバ沼への入り口が、ここに開かれた瞬間でした。

カバの聖地巡礼とカバとカバ

聖地サン・サドゥルニ・ダノヤへ

カバを飲む機会が増えるにつれて、その沼にどっぷりとハマっていきました。
そして、気づいたら「もっとカバのことを知りたい」という好奇心がむくむくと湧いてきたのです。

私は以前、業務のオペレーション改善を専門としていた時期がありました。オペレーション改善で大事なのは、「現場・現地・現物」。つまり、実際にその場に行って、自分の目で見て、体験することが何よりも重要なのです。

ということで、カバ発祥の地であるスペインはバルセロナのサン・サドゥルニ・ダノヤへ行くことを決意しました。
訪れたのは、1月下旬のことでした。

スペイン最古のワイナリー「コドルニウ」

バルセロナ市街から電車に揺られること1時間。カバの故郷、サン・サドゥルニ・ダノヤ駅に到着しました。

駅から目指すワイナリーまでは約2km。上り坂が続いていましたが、聖地巡礼のワクワク感に背中を押され、1月の寒さも気になりません。
30分ほどの酒前ウォーキングを楽しみながら、丘を登っていきました。頬をなでる冬の風に、カバへの期待がますます膨らみます。

やがて、丘の中腹に、目的のワイナリー「コドルニウ」が姿を現しました。

コドルニウは1551年創業の、スペイン最古のワイナリーとして知られています。

このワイナリーのホセ・ラベントスさんが、フランスのシャンパーニュ地方でスパークリングワインの製法を学び、1872年にスペインで初めてカバを製造したそうです。
つまり、ここはカバの歴史が始まった場所なのです。

事前にワイナリーに電話をして、酒蔵ツアーを申し込んでおきました。
1月下旬にワイナリーを訪れる人はほとんどいないらしく、ツアーの参加者は私ひとりでした。

案内をしてくれたのは、明るい茶色の巻き髪の大学生くらいの女性。流暢な英語で、丁寧に説明してくれます。

地下には広大な貯蔵庫が広がっていて、無数のカバのボトルが熟成のために静かに並んでいました。その間を、トロッコに乗りながら巡ります。

「瓶をちょっとずつ回転させて熟成させるんですよ」
そんな説明を聞きながら、興奮気味に質問攻めをしてしまっていました。

夢のテイスティングタイム

そして、待ちに待ったテイスティングタイムです。

目の前には、スペインのぶどう品種「チャレッロ」「マカベオ」「パレリャーダ」を使った伝統的なノンヴィンテージのカバ、長期熟成のリゼルバ、シャルドネを使ったカバ、ピノ・ノワールのカバ・ロゼ、さらにきらきらと輝く瓶に入ったロゼが並びます。

しかも、お客は私ひとり
つまり、飲み放題

「もう一杯ちょうだい」とお願いすれば、すぐにグラスが満たされます。
お土産を選ぶための試飲なのに、もはや試飲という概念を超えていました。しかも、ちゃんとした白ワイン用のグラスで提供されるので、香りも存分に楽しめます。

結局、調子に乗って10杯試飲してしまいました。ほろ酔い気分になりつつ、一番気に入ったのはピノ・ノワールのロゼ
キリッとした味わいが絶品でした。
もちろん、伝統的なカバも素晴らしかったです。

驚きの価格に、くちあんぐり

「この美味しいカバをお土産にしよう」と決め、価格を確認すると……二度見しました。

10ユーロ(約1,500円)

ここはスペイン最古のワイナリーで、カバ発祥の地です。
その由緒正しきワイナリーの、こんなに美味しいカバが、たったの10ユーロ……!?

「これ、儲ける気あるのかな?」
驚きつつも、2本購入して帰ることにしました。

ほろ酔い気分で丘を下り、電車に揺られながらバルセロナの街へ戻りました。

前衛的な料理と、カバシェフ

その夜は、前日に予約していたミシュラン1つ星の創作スペイン料理店で、お一人様ディナーを楽しむことにしていました。

店内に入ると、2人がけのテーブルに案内されます。
飲み物のメニューを開くと、さっき訪れたコドルニウのカバがあるではないですか!

興奮して、思わずボトルで注文してしまいました。一人なのに。

料理の味はどれも正統派の美味しさ。
でも、盛り付けはかなり前衛的でした。

テーブルに運ばれてきたのは、皿の上に金属の重しのようなブロックが2つ。そこに棒が一本ずつ立ち、その棒の頂点をつなぐように針金が張られています。その針金に、燻製サーディンがぶら下がっていました。
……物干し竿に吊るされた洗濯物のようにしか見えません。

どうやって食べるのが正解かわからず、とりあえず手でつまんで食べました。普通に美味しかったです。
後から考えると、バルセロナ名物のロープウェイ「テレフェリコ」を模していたのかもしれません。

そんなユニークな料理を楽しんでいると、メイン料理の直前に、オーナーシェフ(っぽい人)が帰宅の準備を始めました。

厨房でスーシェフに指示を出し、最後に革ジャンを羽織る。すると、なぜか私の席にだけ来て、料理の感想を聞かれました。
たぶん慣れない英語で、「どうでした?」と質問され、盛り付けの独創性を褒めると、嬉しそうな表情に。

でも、なんとなく彼の見た目をじっくり観察すると、体格の良さ、四角い顔、口の大きさ……
なんか、カバっぽい。

私はミシュランの事前調査員でもなんでもないのですが、一人で来て、一番高いフルコースとボトルワインを頼む客は珍しかったのかもしれません。

こうして、カバの聖地巡礼の夜は、更けていきました。

[私にとってのCAVAのおいしさ]の数式をアップデートする

シャンパーニュの代わりのつもりで、軽い気持ちで飲み始めたカバ。
しかし、気づけばカバの聖地巡礼までしていたし、何より、その旅の一つひとつのエピソードが、私の中でカバを特別なものにしていました。

どうやら、「私にとってのCAVAのおいしさ」は、「私にとってのSAKE(日本酒)のおいしさ」とは違う数式になるようです。

[私にとってのCAVAのおいしさ] =
(CAVAのストーリーのエモさ)+(CAVAの物理特性としてのうまさ)+(肴のおいしさ)
 

(CAVAのストーリー)とは、サン・サドゥルニ・ダノヤの丘を登りながら感じた冬の風、地下貯蔵庫でのトロッコツアー、ワイングラスで味わったあのロゼ、驚愕の10ユーロ。

そして、何より、体格の良いカバっぽいおじさんたち
西麻布のバーで出会った「私って、カバが好きな人、なんですよぅ」の女性とカバ似のおじさん。
バルセロナのレストランで、革ジャンを羽織って帰っていったカバっぽいオーナーシェフ。

私のCAVAのストーリーにはどうやら、"カバみ"のあるおじさんがつきもののようです。


さて、スカパーのWOWOWプラス「地球散歩」を見ながら、次にハマる沼でも探そうかな。

シーズン1のエピソード1は、フランスのボルドーかぁ。ボルドーワイン沼は、深そうだなぁ。

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