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lazy_planet
#17発泡酒が良い
1人で飲むとき、ビールは少し重い。瓶ビールなんて特にそうだ。コップに注ぐたび、ちゃんとした晩酌をしている気がしてしまう。ジョッキで飲むなら、誰かと乾杯するのが前提みたいなものだし、缶ビールはというと、妙に「飲んでるぞ」という気分を喚起させる。
1人で飲むなら、発泡酒がいい。どこか気軽で、生活の延長線上にある感じがする。冷蔵庫を開けて、何も考えずにプルタブを引き上げる。炭酸の弾ける音が、ちょっとだけ「おつかれ」と言ってくれているような気がする。
味は、まあ、ビールには敵わない。だけど、1人のときはそれでいい。ビールを飲むときの「うまいな」と思う感じが、発泡酒にはない代わりに、「別にうまくなくてもいいか」という気楽さがある。そこがいい。
適当なつまみをつまみながら、テレビをぼんやり眺める。YouTubeで意味のない動画を流す。スマホをいじる。何もせず、ただ缶の水滴を指でなぞる。1人の飲み時間は、そういうものだ。特別なことは何もない。ただ、静かに、発泡酒の炭酸が舌の上で消えていく。
仕事帰り、コンビニの酒コーナーで、ビールに手が伸びかけるときがある。「たまにはいいか」と思って買って帰る。でも、家でひと口飲んでみると、やっぱり何かが違う。1人で飲むには、少しだけ気合が入りすぎているのだ。
発泡酒は、1人の時間の空気になじむ。そこに力みがない。何かを忘れるためでも、何かを祝うためでもなく、ただ1日の終わりに寄り添うだけの飲み物。1人で飲むなら、それくらいでちょうどいい。