霧雨
2Q2Q年。
世界が何十年もかけて考え、話し合い、労働に励み、時には血の噴き出る争いを繰り返し、ようやく築き上げたこれまでの秩序やモラル、資本主義が今まさに轟々と音を立てんばかりに崩壊している。
金銭的に余裕のあるものは自宅で優雅にワインなど嗜み、サブスクリプション契約した動画配信サービスなどで映画やテレビドラマを鑑賞して嵐が収まる日を呑気に待っている。金のないものは職を失い、明日の暮らしに怯え、彷徨っていた。
情報は津波のように迫りきて、仮にトイレットペーパーが無くなると誰かが言えば、それならば今すぐ買い溜めようと主婦は店に駆け込み、押し合いへし合い揉みくちゃになり、たかがトイレットペーパーのために凌ぎを削りそれを奪い合った。見えない恐怖に対しては妄想は無限大に膨らむ。やり場のない怒りや恐怖は家庭内暴力にも繋がる。何が正しくて間違っているのかわからない世の中で、人々はただ波に飲まれた。支出の無駄を削り、武器購入、土地開発、外交に当てるという政府のこれまでの政策は人手が足りない医療や役所に多大な影響を及ぼしている。非常事態における政府の一連の対応は後手後手の、なし崩しのその場しのぎに過ぎず、多くの国民はただただ呆れ果て、自分の身は自分で守るしかないと認識する。
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