淀川十三
揺れる東京 悲しくて 悔しくて 泣いて泣いてばかりいたけれど かけがえのない人に 逢えた東京 やしきたかじん「東京」 作詞:及川眠子 ☆ 渋谷の無限大ホールで関西芸人が多数出ているお笑いライブを満喫した帰りしなに、富士そばに出向き、かけうどんとカレーライスを食べた。外に出たら日は暮れて街にネオンが輝いていた。私は大きくアクビをした。土曜日の夜ということもあり街は活気を賑わせていた。先週から梅雨が明けて夏本番が始まり、夜になってもシャツが汗ばんだ。私はもう疲れたからそろ
壁に蹴ったボールがトゲに刺さって 萎んでいくように 張り合いのない日々が続くけど 跳ね返ってきたところで 受け止められる自信もない あの頃は良かったの あの頃だけが増えて 今日この頃が見当たらない 落ちていく視力 増えていく体重 先が見えないまま 足取りは重くなる 何のために生まれて 何のために喜ぶのか わからないまま終わりそう 言葉を知ることで世界が広がると信じていたのに 気づけば言葉に縛られて 目の前の愛にさえ気づけない 夢の中ではおれは最強 タイムマシーンに乗
カマを掘ろうぜ お祝いしようよ リスク犯してやろうぜ どこまでも突き進めるし すげえところまで行けるから 言っただろ おれが欲しいのはお前だけだって ぜんぶ望み通りになるんだよ だって… ムーンドッグスを連れて行こう あいつらは絶対売れるよ 世界中に広められるよ だって今… ストーンズがやってるロック あいつらパクってるじゃん みんな知ってるよ だから言っただろ おれが欲しいのはお前だけだって ぜんぶ望み通りになるんだよ だって… 風が気持ちいい なんでもできそうな
何年も前から空き地になっているその一軒家の跡地は、夏場になると、雑草や、竹が生い茂り、瞬く間にあたり一面が緑の闇に覆われる。行政も見向きもせず野放し状態が続いており、近隣住民(私も含む)共々辟易としていたのだが、ある時期から誰かの手によって、約20平米のジャングルと化す一歩手前のけったいな空き地が手入れされるようになった。朝、家の外に出てみると、まず5、6本は生えていただろう、4m以上にも育った竹が根元から切り落とされていた。次の日からは空き地の奥から手前に向かって日に数十セ
このバーに来たのは二月ほど前に上司に連れられてきたのが最初で、これが2回目だ。私はふだん酒を飲まないし、こういうオーセンティックなバーに行くこともなかった。店内は間接照明がほのかに灯された薄暗い雰囲気で、ラテン音楽がボリュームを絞って流れていた。マスターは50過ぎだろうか、白髪混じりのおしゃべりな関西人で、常連客と芸能人のゴシップや音楽談義など、楽しそうに話していた。会話の声はうるさい感じではなく、不思議と内装に溶け込んでいた。 マッチングアプリで知り合った女が、静かなところ
「おいガンガン蹴るなって、高級車やぞ?」 「そんなこと言ったって動かへんのやったらただのでかい鉄の塊やん」 「なあ頼むからちょっとは静かにしてくれへん? ただでさえクソ暑いのにお前の声聞いてたらイライラする」 「イライラするのはこっちの方や。ドライブなんか行かんかったら今頃家でテレビ見ながらゴロゴロしてアイス食べてたのに。あー、アイス食べたい!」 「っもう。だから蹴るなって!」 「うるさいうるさいうるさい!」 「黙れ黙れ黙れ!」 「ねえ、アホみたいに寝っ転がってないで、助け呼
自宅を出て左に曲がり袋小路を抜けると大通りに出る。大通りに沿って右に700メートル進むと繁華街だ。駅を中心にして、コンビニ、スーパー、居酒屋、喫茶店、服屋、雑貨屋、ゲームセンター、本屋、マッサージ屋、麻雀屋、会員制バー、スナック、ラーメン屋、ファストフード店等が四方八方に軒並みを連ねる。都心で見かけるスターバックスやユニクロが存在しないのがこの街の特徴だ。個人店に活気があるからだと言われている。おれはこの街が好きだ。 駅から徒歩2分、パチンコ屋の裏手にある雑居ビルの3階にあ
ビートイットのイントロが高らかに鳴り出したところで、トイレから素っ裸の芳賀さんが尻の穴にトイレットペーパーで作ったこよりをねじ込んで現れたその姿を見て、カウンターに座る客たちは笑い転げて中には笑い過ぎて窒息しかける人もいるくらい、しかも、芳賀さん(55歳の妻子持ちだ)の尻の先につけられたこよりは火がついてメラメラと燃えているので、本当に熱そうにしながら狭い店内をぐるぐると走り回るその勇姿がマイケルジャクソンの甲高いシャウトとシンクロして、笑いは絶頂に達し、今年還暦を迎えるマス
ジョゼ・サラマーゴのように書くように指示を受けたがおれはジョゼ・サラマーゴを一冊も読んだことがないとにかく句読点を省いて書いてみろということなので書き進めていくもう10年以上前になるおれは高校2年でサッカー部に所属するイケてるとイケてないを行ったり来たりしてるタイプのつまりほとんど平均的な生徒だった夏休み前の放課後おれは空き教室に忍び込んでクラスメイトの晴子が来るのを待っていた半開きのカーテンの隙間から射す西陽が黒板の中央を斜めに分断していた黒板にはどこぞのアホの生徒が落書き
俺はボールをセットして、1、2、3、4、5と心のなかで数えながら後ろに下がった。フェンスの向こうで応援するチームメイトたちの姿が視野の隅に見える。やがて鳴り響く歓声が徐々に消えていった。俺はぎゅっと手を握った。ドラムビートみたいに心臓がドクドク鳴るのが自分でもわかる。GKはおそらく右に飛ぶだろう、いや左かもしれない…。とにかく思い切り蹴るだけ。。。俺は勢いよく助走をとった。右、いや、真ん中! 思い切り蹴った。悪くない! が、想定した軌道の上をいくボールを見たその瞬間、枠を外し
十三駅東口の繁華街から少し離れたところにあるサウナを出たら空はもう真っ暗になっていた。降ってるのか降ってへんのかようわからんような小雨がたまにぽたぽたと身体に当たる。濡れた道路は辺りのビルのネオンが反射して鮮やかに光っている。10日連続で働くと流石にサウナでも疲労は取りきれないのか、伸びをすると身体中がバキバキに痛んだ。駅前で60分3600円の看板を見てマッサージ屋に行こうかと思ったが、年末年始に旧友と飲みに行ったり旅行したりで出費がかさむことを考えたら財布の紐を絞めたくなっ
ゴダールが死んだ。ジャンリュックゴダール。享年91歳。大往生だ。何者にも惑わされず我が道を進む男に相応しく安楽死を選んだ。彼の意志としては自殺に変わりはないだろう。俺はゴダール映画の世代ではないし、彼に会ったこともない。とはいえ「はなればなれに」「勝手にしやがれ」「男の名前はみんなパトリックというの」といった作品を通じて映画における自由を教わった。ゴダールが死んだ。それは自由が死んだ。あるいは映画が死んだ。とすら思える。訃報を聞いて打ちひしがれていた時、蓮實重彦が朝日新聞に寄
先々月に施行されたAV新法の影響で我が勤め先の編集所への発注も激減。バイトはもはや不要。よって、社長の申し出により、今月は丸々休みに。もちろん補償はない。社長は「9月からまた宜しく」と平然な面で言うてきたが、んなもん、誰が行くかい。なめんなよクソが。 毎日毎日おめこみてカットして繋いで、安い時給でこきつかわれて、不要になったらすぐ捨てて、またいつか戻ってこいって、わしゃおまえの犬ちゃう、どないな神経でそうゆうこと言えるんや。やってられるかい。 とはいえ生きるためには食わな
氷の溶けきったアイスコーヒー2つはもう30分も手をつけられていない テーブルの上に滲み出た水滴が床にぽたぽたと落ちてゆく
カフェのこちら側でたばこを吸うおれ ガラスの向こうはパントマイムの世界 おれはまるで家で一人テレビ番組を観ている気分でここに立つ ウラジミールがこちらを見つめる 本音を隠すならおれもあんたも同罪だ
ちょヤバイやばい。うんこが真っ黒やねん。せやからな、さっきしたババが真っ黒けやってん。病気かって? せやろなあ。調べたら、これ「タール便」言うてな、がんの可能性もあるらしいねん。いや、タバコは関係ないて。身体のどっかで内出血起こってるねん、その漏れた血が酸化して黒なって、うんこに混じってるんや。嘘ちゃうわ、なんでこの状況で嘘つかなあかんねん。必死のパッチやちゅうねん。ちょ、病院行くから金貸して。ない? 3千円くらいあるやろ? そんくらいあったらなんとかなるさかい、はよして。い