犬神
昔むかし、いつも優しく自分に語りかけてくれる人間がいた。
そいつの身なりは酷いものだが、中身はどんな着物より負けないような美しさだった。
雨の日も風の日も、食べ物を持って会いに来る。物好きな人間だ。
でもいつ日かパタリと来なくなった。
気になって探してみると、川岸にその人間らしき者がいた。
急いで駆け寄ると、その人間は既に骸の状態だった。
何故だ、何故こんなことに
ふと、人間が以前話していたことを思い出した。
その人間は鬼子で村からは忌み嫌われているのだとか。
次の満月の夜に神の元に身を捧げに行くだとか。
あぁ、今、分かった。
この村はあの人間を人間として見ていなかったのだ。物の怪として見ていたのか。
この身から見れば村人達の方が物の怪であろう。
俺の主人を、よくも殺したな。
この身を捧げ犬神となろうて
この村を焼き尽くす。