岡田斗司夫を知らなかった頃に、岡田斗司夫の人生相談の回答を読んで感銘を受けて書いた文章
*これは、2012年頃に書いた文章を加筆修正したものです。
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悩みのある人が人生相談にアクセスしてくる。それにしても、人は本当にいろんなことで悩む。
悩むとは、過去や未来にとらわれていて、「今」がおろそかになっている状態を言う。だけど、自分で文章化できている時点で、相談者もかなりいい線まできていて、最後のひと押しを回答者にしてもらいたいだけなのだとおもう。つまり、「今」自分がやるべきことをバシッと言ってくれることを回答者に求めるのだ。
朝日新聞土曜版beの「悩みのるつぼ」の回答者にはそうそうたるメンバーが並んでいる。
愛のムチでまっとうなことをまっとうに言われたい人には、美輪明宏さん。最近多い母娘問題を喝破してもらいたいなら、上野千鶴子さん。しかし、なんと言っても岡田斗司夫さんが白眉、個人的に。何が本業の人なのか知らないのだが、彼の、変化球からの切り出し、逆説的な論調、アイロニックユーモアにあふれる提案は、回答者を戸惑わせながらも自ら考える方向に導く、非常に高度なテクニックだ。
今週の相談は、小学生以下の子どもを四人育てている41歳主婦から。
「子どもたちには人生を楽しく、好きなことを見つけて自立していって生きていって欲しいと考えて」いる方で、「それほど優秀でない我が子ら」の行く末を案じ、テレビの「勉強をしなかった」けど面白い芸人さんとイマイチな芸だけど高学歴の芸人さんを比べては、「面白い大人になるために中途半端な学歴が邪魔になるなら勉強させないほうがいいのか」と悩んだり、すぐに「子どもが芸人になるとは限らないですが」と自分にツッコミをいれた挙げ句、「今の日本で」「子どもに保険としての勉強(学歴)がどこまで必要か」が悩みなんですって。
そもそも学歴が保険という考え方が間違っています、とバッサリいきたいところだが、斗司夫さんはやさしい。
今日び、「○○さえすれば」という成功戦略はない、だったら「こうすれば負けない」という不敗戦略の提案から入る。
不敗戦略とは「やってはいけないこと」を避ける戦略で、では今、一番やってはいけないことはなにかと言ったら、「自分の好きなこと、やりたいことを、職業として目指す」ことだという。
この時点で、あーなたーのゆーめをーあーきらーめなーいでー♬を聴きながら青春を送ったと思われる41歳主婦は、ちょっぴり違和感をおぼえる。
え、あたしの言ってほしい回答とちがう。
斗司夫さんは続ける。特定の職業にあこがれを持っても、超情報社会においては、同じ夢を持つ子どもは数十万はいる、つまり求人数より希望者数が多いのだから、希望通りの就職は出来ないであろう、と。がっ、彼の本意はここにはないことが、読み進むうちにわかってくる。
斗司夫さんの考える今の時代の「保険」は、「他人の役に立てて、感謝されるのは楽しい」という成功体験だ。
「どんな環境でも、人の役に立つように振る舞える。これが自然にできると、とりあえず自立して生きていけます」と請け合う。
私はうなった。
夢を追いかけろだの、あきらめないでだの、80年代の産んだ♪職業選択の自由アハハ~ン♪幻想が、フリーター文化を助長してきたのかもしれない。大人になれない成人を増やしてきたのかもしれない。
別に夢や好きなことなどなくても生きていけるし、逆に自分の好きなことが他人に明白な迷惑をかけるようならば、それは問題だ。好きなことの表現方法と場所を考え直さねばなるまい。(ねぇ、ジャイアン?)
仮に幸運にも受け入れられば職業にもなるだろうが、それを目指すということは、一歩間違えば、自己満足だということだ。
なにも好きなことをするな、と言っているわけではない。好きなことは、やりたい人はやるだろうし、別に職業にならなくても、とりたてて悲しむ必要はない。
ここまで考えて、先日のさよなら原発10万人集会での瀬戸内寂聴さんの言葉を思い出した。
「人間は人のために働いたり、人を喜ばせるために生まれてきた」というようなことを話されていた、90歳の寂聴さん。