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【推薦図書】名著は何度も復活する。『なんといふ空』最相葉月エッセイ

2001年頃に、
うつうつと生きた人間にとって
忘れられない本がありました。

ノンフィクション作家・最相葉月が
初めて出したエッセイ集
『なんといふ空』です。

3〜4ぺージの、身近な内容の
エッセイが47篇あつめられている。 
週刊読売などに連載された
叙情的なエッセイでした。
どれにも感情移入できる、
エモーショナルなエッセイなのは
最相葉月が、まだ 
ノンフィクション作家として
道を固める前の、
冴えない会社員として、
人生を悪戦苦闘していた自分を
客観的に扱っているからです。

このような、
最相葉月に惹かれている読者には
即買いのエッセイは、
また逆に言うと、
最相葉月から無縁な読者には
あまり読まれない。
数年したら、絶版となり、
まぼろしの本になっていく。

それが23年ぶりに、
今年、ミシマ社から復刊された。

その復刊のされ方が異例なのは、
23年前の通りの装丁、
23年前の本文構成だということ。

それには、訳がありました。
この『なんといふ空』を
復刊させた編集者が
23年前に読み、愛読した通りに
世に出したかったから。
なかなかの頑固一徹さんだ(笑)。

最相葉月さんの「あとがき」を
読むとその理由がわかります。
「わが家に野崎さん(編集担当)が
来られて、『なんといふ空』が
いかに好きかを力説されたことが
ありました。私は面と向かって
褒められることに慣れていません。
自分ちなのにムズムズして
逃げ出したくなるほどでした」。  

こうした、偏愛が過去の名作を
よみがえさせるんですね。

僭越ながら、私も編集時代、
水木しげるさんや
近藤ようこさんの本を
復刊させて頂いた時の、
もはや頭には復刊しかないと
思い決めた時の自分の中の熱量を
思い出しました。

なお、この『なんといふ空』の  
4ぺージほどの一編を原作に
『ココニイルコト』と言う映画が
制作されました。
まだ無名だった堺雅人が主演でした。
この映画も原作エッセイ同様、
エモーショナルな見事な作品に
なっていました。

色んな人が感銘を受け、
映画監督に映画を作らせ、
役者を突き動かし、
映画『ココニイルコト』は
邦画の映画賞に輝く名作になりました。  

ちなみに『なんといふ空』という
タイトルは、
最相葉月さんが好きな
放浪詩人・種田山頭火の一句から
採られています。 
「なんといふ空がなごやかな柚子の 
二つ三つ」。

今年に新規で発行された本では
ないものの、
23年の時空を超えて復刊された、
さまざまな人の思いがこめられた
貴重な一冊であることは
まちがいありません。

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