【エッセイ】私、穂村弘さんの追っかけしてました。
穂村弘さんのおっかけでした。
10年前までは。
おっかけというのは、
新刊時に開催される
トークイベントやサイン会には
もれなく行ってきたんです。
途中から、穂村さんも
顔を覚えて頂けて、
ファンは圧倒的に
ステキな女性な中で、
私みたいな中年おやじが
混じり込んでるから、
まあ、目立つ訳ですが。
新刊にサインを書いて頂く際も、
2冊は本を買って、
担当していた漫画家さんの分も
お願いしてました。
穂村さんはサイン時には、
ちょっとした言葉も
書いてくれるんです。
まずは私の名前を書いて
その名前を新刊にサラサラと
サインしてくださる、
というのでは詰まらないから、
まず、書いて欲しい名前は、
担当していた女性漫画家さんの
名前をメモに書いて渡すんです。
で、下を向きながら
サインしようとして、
まずメモを見て、
人気女性漫画家の名前に
穂村さんはウワっと驚く。
次に、顔を上げてみたら
そこにはおじさんの私が
立っているので、更に驚くんです。
が、さすが穂村さんです。
咄嗟に
「う、一瞬、時空が歪みましたよ」
と反応なさった。
時空が歪む、という答えは
なかなか出てこないですね。
さすが、言葉の人、穂村さん。
さて。
トークイベントで、
今でもよく覚えているのは、
こんな話です。
話の流れで、
例のウッドベースのような
低めの、しみじみする声で、
穂村さんは言いました。
「私、2時間あったら、
女性を落とす自信があります」
対談相手
「それは何をするんですか」
穂村さん
「川原をゆっくり散歩する。
それだけですが」
それは、穂村さんの声質や
文学的なお話や、
独特の感受性トークが
本好きな女性をうっとりさせるのは
目に浮かびます。
単なるウンチク家を超えた、
柔らかな感性抜群のお話が
特に女性をしびれさせる。
男の私だって、トークイベントを
追っかけしてる位ですから。
穂村弘さんを好きな漫画家さんに
穂村さんのどこがいいですか?
と聞いたら、
「どこを切っても才能があふれる
のに、いつもは自意識過剰で
フワフワしてるってところの
ギャップかな」
単なる自意識過剰なら、
それは魅力にはならない。
才能がしっかり隠れてるのが
ポイントかあ。
あるいは、
なんでも詳しいウンチク家でも
なく、柔らかな独特の感性が
ステキなんでしょう。
2時間、川原を一緒に歩けば
女性はこころとろけてしまう。
なるほど。
ちなみに、
穂村弘さんは独特なエッセイ集を
よく出しています。
それはタイトルによく出てます。
「本当はちがうんだ日記」
「鳥肌が」
「蚊がいる」
「世界音痴」
「君がいない夜のごはん」
「野良猫を尊敬した日」
「もしもし。運命の人ですか」
「絶叫委員会」
「もうおうちにかえりましょう」。
上記はみな、ハズレがない。
面白いエッセイ集です。
どれもハズレはありません。
好奇心が掻き立てられる
タイトルばかりでしょ?
特にいいのは、
「絶叫委員会」と
「鳥肌が」と
「君がいない夜のごはん」
「野良猫を尊敬した日」
あたりでしょうか。
ユーモアと
自意識過剰と、
情けなさと
柔らかさと。
鋭さと。
穂村さんは、
現代文学界における
唯一無二の歌人エッセイストだ。