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#24理学療法士の中国リハビリ記録【生後8ヶ月の泣き虫リー君リハビリ奮闘記】その1

秋の初め、朝露に濡れた庭の植物が柔らかな光を受けて揺れていた。リハビリ施設は鳥の声が聞こえる朝。夏休みを終えて、子供たちがいなくなったリハビリ施設は少し寂しく、でも秋らしい和やかな静けさに包まれていた。

ウギャーウギャー!
秋の静寂を突き破るように、鋭い泣き声が施設内に響き渡るーー。その声は、心をかき乱すほどの激しさだった。泣き声の主は生後8ヶ月の赤ちゃん。名前はリー君。

彼を囲む家族たちは疲れた表情で赤ちゃんを抱え、受付にやってきた。

「病院からこの子は脳性麻痺だと言われています。もう手に負えない。この子をどうすればいいのか……」父親が頭を抱える。

母親と祖父母は、心配そうに赤ちゃんを見つめていた。

だが赤ちゃんは、何もかも拒絶するように全身を使って泣き叫んでいる。まるでこの世の全てを拒むかのようだった。

さてどうしようか。なんとか評価だけでもしなければ先に勧めない。
しかし、赤ちゃんの泣き声を聞くと、その先の道のりが容易でないことは明らかだ。

「少し落ち着くのを待ちましょう」と僕。

そう言ったものの、泣き声は一向に収まらない。僕が声をかけようとすると、赤ちゃんはますます激しく泣き始めた。抱っこをしようとしても、手を伸ばすだけで声はより大きくなり、全力で拒絶される。

両親はわかりきっている、そんな表情だった。

「初めて家の外に出たんです……これまで家の中だけで過ごしてきたから、外の環境慣れていなんですよ」

その言葉に、僕は驚きを隠せなかった。赤ちゃんにとって初めての外の世界。それが、このリハビリ施設だとは。慣れない場所、知らない人、全てが彼にとって恐怖に違いない。

無念だったけれど、初日は、何もできないまま終わった。

僕は両親に「もう一度日を変えて来てください」と提案した。

だが、父親は悲しそうに首を振った。

「それは無理なんです。仕事の都合で、次いつ来られるか分からなくて……」

なんてこと……。

彼らにとって、今日が唯一のチャンスだったのだ。

【つづく】

リー君の泣き声に焦った僕。触らせてもくれない。
ヒントを求めて、良さげな教本を取り出して漁りに漁った。

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JUNYA MORI
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