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閉店がきまった、心のふるさとの書店「文禄堂 早稲田店」に行ってきた話

本屋さんって面白いんです。

何を今さらという感じですが、小規模の書店や個人書店などが増えて、本屋さんのバリエーションがすごく広がっています。
選書のオリジナリティだけでなく、コンセプトやお店作りから従来の本屋さんの枠を飛び越えているところもあって、本屋さんという存在の可能性がぐんぐん拡張されているように感じます。

それなのに。
思えば、行くのは通勤途中にある大型チェーンばかり。
仕事の新刊チェックに行くだけで、「本屋さん」という場所にあまり向き合えていなかった気がします。

本屋さんが減っている今こそ、いろんな本屋さんに行って、いろんな本を買って、いろんな人と話していろんなことを考えよう。
そんな当たり前のことを、今年はちゃんとやろうと思います。

というわけではじめた、「おもしろい本屋さんに行こう」企画
モリが訪れた本屋さんを、誰に頼まれてもないのに勝手に紹介していくコーナーですが、第二回は「おもしろい」というか「懐かしい」本屋さんを紹介することにしました。

いきなりコンセプトがちょっと変わりましたが、気にしません。
僕が行きたい本屋さんに行って、紹介したい本屋さんを紹介する。
それが自主企画のいいところです。

今回のお店は、「文禄堂 早稲田店」さん
じつは9月16日で閉店が決まってしまったお店なのです。
(★写真撮影、SNS公開の許可はいただいております)

※※※

今回ご紹介するお店
「文禄堂 早稲田店」

「文禄堂 早稲田店」は、早稲田駅から高田馬場駅のほうに歩いて3分くらいにある、早稲田通りに面したお店。
早稲田中学高校の隣、早稲田大学文学部キャンパスと本キャンパスの真ん中に位置しており、早稲田生に広く愛されてきた書店でした。
もともとは「あゆみBOOKS早稲田店」という名でしたが、2018年に「文禄堂早稲田店」としてリニューアル。店内のオシャレさが増し、イベントの開催も可能になりました。

文禄堂外観。シックな佇まい

……とまあ、なぜ「文禄堂 早稲田店」について詳しいのかと言いますと、何を隠そう、僕が早稲田大学OBだからです。
第一文学部という学部に在籍していたので(学部再編になったので、じつは最後の第一文学部生です)、ほぼ毎日、この文禄堂(当時はまだあゆみBOOKS)の前を歩いて大学に通ったものでした。
行き帰りの途中にぷらっとお店を覗いたり、春にはマイルストーン(後述)を買ったり、就活時はSPIの本を探したり。
なんと言いますか、僕の大学生活の心のふるさとみたいな本屋さんだったのです。

そんな文禄堂さんが、9月16日で閉店するという。

4年間お世話になった身としては、最後にお別れを伝えに行かないといけない。お店の姿を残したいし、あと1か月だとしても、少しでもお客さんがお店を訪れてほしい。
「おもしろい」本屋さんとは少しコンセプトが異なるかもしれないけど、ぜひ紹介しよう! 
そう、思い至ったのでした。

閉店のお知らせ。悲しい

※※

文禄堂さんはサイズ的には小規模に入るでしょうか。昔ながらの街の本屋さん、という印象です。
入口脇には週刊誌が置かれていたり、おススメ本が積まれていたりします。

本屋さんの入口と言えば週刊誌

ちなみに、僕がお店の外観をパシャパシャ記念撮影している後ろで、徹夜明けとおぼしき大学生が盛大にリバースして仲間の人に介抱されていました。とても早稲田らしい、さわやかな光景ですね。

コンクリート打ち付けのようなモダンな店内に入ると、新刊棚と島のような平台がお出迎えしてくれます。

入口の新刊棚。とても分かりやすいです
入口の新刊平台。立体感のあるディスプレイ

おもしろいのは、店内向かって右手に並ぶカレー棚ですね。
いろんな種類のレトルトカレーが取り揃えられており、本のついでに買うことができます。
僕が通っていた時はなかった気がするので、文禄堂になってから取り入れたんでしょうか。
そういえば本屋さんに限らず、雑貨店なども各地のレトルトカレーフェアをやってるところ多いですよね。ニーズがあって日持ちするとか、いろいろ理由があるのかな……

気になるカレー棚

お店の真ん中は雑誌エリアと文房具です。
さまざまなジャンルの雑誌を過不足なく取り揃えてくれています。

充実の雑誌

奥のエリアは文庫やコミックなど。
文庫は棚に並べるのではなく、BOXのようなものに並べられています。
ちらりと丸椅子が映っていますが、このBOXは椅子の収納を兼ねていて、自由に動かすことができます。(たしかそのはず)
ガラガラと移動させて椅子を並べれば、あっという間にイベントスペースに早変わり。他店も同様なので、文禄堂さんの特徴ですね。

こいつ、動くぞ…! この文庫BOX好きです

店内の壁には各ジャンルの書籍が並んでいて、コミックや実用書、資格系などオールジャンルでそろっています。少ないながら洋書も置かれていたりと、品ぞろえの幅がすごいんです。
学生たちの多様なニーズをできる限りカバーしてくれていて、すごく助かった記憶。

おすすめコーナーがいいですね
資格棚。SPIとか面接の本買ったなあ……(遠い目)
洋書もあります

新刊や既刊を本当にきめ細かく抑えてくれているだけでなく、随所で見える「早稲田らしさ」が、僕はすごく好きでした。

たとえばマイルストーン。
早稲田大学には「Milestone Express」という分厚い雑誌が存在します。
早稲田大学マイルストーン編集会という学生サークルが編集している雑誌で、早大生のためのお役立ち情報が詰まっているものです。
授業の難しさや単位の取りやすさ、サークルの男女比や在籍人数、早稲田界隈のおいしいお店情報など、早大生必携の雑誌です。
新学期が始まると学生がこぞって買い求めますが、この文禄堂には必ず売っていたので、通学途中に買った人も多いのではないでしょうか。もちろん僕もその一人。

さすがに8月には完売

本屋としての選書にも早稲田らしさが詰まっていて、新刊島の平台にそっと混ぜられていたこのチョイス。
しれっと『彼は早稲田で死んだ』と『されどわれらが日々』があって、うわー、めっちゃいいな!と笑みがこぼれました。

『されど、われらが日々』は学生運動を描いた名作だよ

大林宣彦の本やサブカル系の特集などもイカしますね。ちょっとこじらせがちな早稲田の文学部生をよく分かっているな~という選書。
……すいません、実体験を元にした偏見でした。

ここいいなあ!

早稲田大学の赤本だけ充実しているのも、すごく「らしい」。
大学おひざ元の本屋さんで赤本を買って、早稲田を目指す気持ちを高めた人もたくさんいらっしゃるでしょう。

ずらりと並ぶ、早稲田の赤本

漫画研究会OBの色紙もありました。

AIとかの本も揃ってます

僕が大学生だった当時は、駅前に成文堂という本屋さんもあったのですが、そこも10年前に閉店となりました。
早稲田の文学部はマスコミ業界に進む人が多く、「本」との親和性は強い場所のように思いますが、そんな早稲田のおひざ元で新刊書店がなくなってしまうのは、なんともいえない寂しさがあります。

ただ、自分の大学時代を振り返ってみると常に金欠だったので、新刊の単行本を買うなんて贅沢はほとんどしたことがありませんでした。
本はめちゃくちゃ読んでましたが、基本的に大学の図書館に籠っていましたし、買うとしても古本。少しだけ安くなる大学購買を活用したり。
なので、文禄堂(あゆみBOOKS)にはよく通っていたけれど、よくお金は落としておらず、あまりいいお客ではなかった気がします。
大学生ってそういう存在じゃん?と言えばそれまでですが、本を愛する一人として、もう少し新刊本も買っておけばよかったなあ……という反省が頭をかすめました。

※※

久しぶりにじっくり回ってみて、本当にいいお店だなあと感じます。
新刊と既刊をちゃんと抑えつつ、棚には多様な学生ニーズに応えるラインナップ。新しい発見があるおススメ本や、ちょっと変わったフェアなど、とても充実した密度の高い本屋さんでした。

大学の購買には新刊本もたくさん置いてあるので、学生が書籍購入に困ることはないでしょうが、街の本屋さんにしかない「出会い」はたしかに存在するはずです。
そしてその出会いが、先々の人生に影響を与えることもあるでしょう。迷いの期間でもある大学時代なんて、特にそう。
今の僕を形作ってくれた要素の一つは、文禄堂(あゆみBOOKS)さんでの「出会い」だったのかもしれません。

なかなか難しいかもしれませんが、早稲田の地に新刊書店が復活することを、個人的に願っています。

文禄堂さんの閉店は9月16日。
まだ1か月ありますので、よかったら遊びに行ってください。

ありがとう、さようなら


▼第一回記事はこちら


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