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「新・小説のふるさと」撮影ノートから

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小説のゆかりの地を訪ねて、その世界を写真で表すことを試みました。それぞれの小説の撮影ノートから気づいたこと、感じたことを綴ってみたいと思います。
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#リコーイメージングスクエア新宿

温又柔さんとはなしたこと。写真展「新・小説のふるさと」で。

温又柔さんとはなしたこと。写真展「新・小説のふるさと」で。

「新・小説のふるさと」では温又柔さんの『来福の家』から「好去好来歌」をとりあげさせていただいた。ギャラリーで久しぶりにいろいろお話をした。

 やはり小説の話になってゆく。「物語る」ということに。物語は常に強い磁力を発揮していて読み手はその世界に取り込まれてしまう。時には著者自身も取り込まれてしまうことや、因果律としての物語、口当たりの良い物語。逆に序破急の「破」ばかりやってしまうことなどなど。そ

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写真家の林義勝さんとお話したこと。

写真家の林義勝さんとお話したこと。

 写真家の林義勝さんが写真展にいらした。
 林さんは、伝統芸能や文学・風土といった時の記憶を確かな構図と美しい色使いで活写される日本を代表する写真家で、また林忠彦氏のご子息。
 「新・小説のふるさと」はもちろん林忠彦氏の『小説のふるさと』に多大な影響を受けていることは言うまでもないし、実際、尊敬をこめてタイトルに『小説のふるさと』のお名前を戴いた連載だったわけで、この日ようやく林義勝さんにお会い出

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「新・小説のふるさと」撮影ノートより『奇蹟』について思ったこと。

「新・小説のふるさと」撮影ノートより『奇蹟』について思ったこと。

 伊半島豪雨(平成23年9月初旬)のすぐあと、名古屋でようやく特急の切符を手に入れて新宮へ向かった。駅に着く少し前に列車は熊野川を渡る。かつて筏師(いかだし)が運んできた杉や檜が川面を覆っていた河口は雨が運び来た土で赤茶色に染まっていた。中本の「高貴にして澱んだ」血はこういう色だろうか。この川にかかる巨大な鉄橋を渡って中上健次の世界に足をふみいれた。
 翌日も雨が降っていた。新宮図書館の三階に設け

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「新・小説のふるさと」撮影ノートより『赤目四十八瀧心中未遂』について思ったこと。というよりはちょっと場所の解説

「新・小説のふるさと」撮影ノートより『赤目四十八瀧心中未遂』について思ったこと。というよりはちょっと場所の解説

 赤目四十八瀧は名張川にそそぐ宇陀川の支流、滝川の上流部にある。厳めしい名前に深山幽谷を想像するが、滝を巡る約4キロの道のりは遊歩道が整備され関西、中京の小学生たちも遠足で訪れる場所だ。景観は目くるめく変化し高低差はあるがどんどん歩いて行ける。近鉄赤目口からバスで20分。渓谷の入り口、オオサンショウウオセンターから生島とアヤちゃんが辿った道を行った。
 四十八とはその多さを示すが実際には二十ほどの

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「新・小説のふるさと」撮影ノートより『ミーナの行進』について思ったこと。

「新・小説のふるさと」撮影ノートより『ミーナの行進』について思ったこと。

 とても緻密な小説だと感じていた。
 毎日の生活がエピソードの中に埋没する朗らかなたのしさ。逆にその緻密な世界が楽しすぎて、いざ小説の場所にゆくと何を撮っていいのかわからなかった。芦屋を往還すること数回、ようやく朋子の視点でこの町を歩けばいいのだと思った。

 アンリ・シャルパンティエでクレープ・シュゼットを食べて、乳ボーロにフレッシー(プラッシー)。寒空の下、真っ青な空を見上げて開森橋のバス停か

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