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(詩)赤と黒(1830)

彼と彼女は
舞台俳優のように
見る人聞く人へ
呼びかけます

また書き手は
出版者と対話してみせ
小説とは虚構である
しかし
大道に沿って運ばれる鏡
と呼びかけます

フランス人の風俗を真似るが
いつでも五十年の開きがある
と揶揄されるロシア人から譲られた
五十三通の恋文の写しから
彼は恋愛を学び

一方彼女は
その時代のベストセラー
「マノン・レスコー」や「新エロイーズ」で
恋をなぞり

凡庸な恋の神秘を
確信できないまま二人は
故国の偉大な過去という幻に
吸い寄せられ
自分を重ね
満足して死んでいくのです

あれから二百年近くが経ってもなお
恋と祖国のかような感情は生きている
よほど用心して
かからねばなりません。

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