一枚の地図
台地を縫って
小さな川
いくつも
流れていた
川筋の
谷町
川
その多くは
深い濠
あるいは暗渠となり
ひと
容易に水を
見ることを得ず
しかし
川筋の
谷町
今も
なお
一つの
谷町の
一枚の
地図
手渡される
その場所の
記憶手繰る
旅に出る
谷降りてゆく
その途中
緑の木々に囲まれた
垢抜けた
喫茶店
そして谷底
白壁に
Barと赤い
ネオンサイン
灯す店
臆しつつ
それらの
扉
ひらき
人は老い
若くなった
いま
一枚の地図
指し示す場所
緑のカフェ
赤いバー
ことごとく
現代的な
人の
好みとニーズの
追求に
刷新されて
跡形もなし
しかし地図
あるいはそれが
指し示す地形は
旅人をして
記憶の道を
歩かしめる
旅人は道に
せがまれて
その土地を
ひたむきに
歩いてゆく
川筋の
谷町の
見える路上
見えない路上
を。