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今週の推しカルチャー!(2023/7/3〜7/9)
シンタニジュン (Twitter / Threads)がその週に見た推しカルチャーをご紹介!
映画
マルセル 靴をはいた小さな貝(ディーン・フライシャー・キャンプ監督)
わずか3分21秒のショートムービーから、ディズニーの監督へ抜擢された話題作
第95回アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネートの話題作。
アマチュア映画作家のディーンは、靴をはいた、体長およそ2.5センチのおしゃべりな貝のマルセルと出会う。
ディーンは彼が語る人生に感銘を受け、マルセルを追ったドキュメンタリーをYouTubeにアップするのだが……。
ここまでただひたすらに優しい映画を観たのはいつぶりだろうか。
主人公ディーンがたまたま借りた家には、おしゃべりな貝が住んでいた。
「マルセル」と名乗るその子ども(子貝?)は、ディーンと彼の飼い犬に興味津々だ。
ディーンはディーンで「なぜか貝がしゃべるんだ?」なんて野暮なことは気にせず、マルセルと共に過ごし、彼との時間をビデオで記録し始める。
観客が観るのは、ディーンとマルセルが暮らした記録映像、つまりジャンルで言うとドキュメンタリーだ。
ドキュメンタリーというと、実在の人物が台本やセリフがない状態の映像を記録したものを指す。しかし人間の言葉を話す貝は、(残念ながら)今のところ見つかっていない。
そのため、本作ではストップモーション、いわゆる「コマ撮り」という手法でマルセルを撮影している。(「よくわからない」という方は、NHKのどーもくんや「PUIPUIモルカー」を思い出していほしい。人形が本当に動いているように見える映像手法のことだ。)
主人公ディーンは実在の人物。対してマルセルは実在しない貝の人形。
「そんなおままごとみたいな映画が、本当におもしろいの?」
大丈夫。
アメリカでバズりまくった、映画の原作ともいえるわずか3分21秒のショートムービーに、この作品の魅力は詰まっている。
私はこのマルセルの声に一発でやられてしまった。このマルセルの声こそが、本作がアカデミー賞にノミネートされた一因であることは間違いないだろう。
魅力的な声のみではなく、その言動からも目が離せない。
映画本編ではテニスボールに入って家中を移動し、ワンちゃんに食べられそうになり、家を飛び出してドライブに出かけたりと、その可愛さをスクリーンいっぱいに爆発させている。
監督は、主人公ディーン役も演じるディーン・フライシャー・キャンプ。
「マルセル」が大ヒットした彼の次回作は、なんとあのディズニーからのオファーで「リロ&ススティッチ」の実写版を監督することが決まっている。
幼い頃、ぬいぐるみやお気に入りの”なにか”と話していた人、そして大人になってからもついつい”なにか”に魂を与えがちな人、そんな人たちにぜひ観て癒されてほしい一本である。
アシスタント(キティ・グリーン監督)
87分で社会の闇<しくみ>を描き出す、最も”身近な”#MeTooムービー。
名門大学を卒業したジェーンは、映画プロデューサーを目指して有名エンタテインメント企業に就職する。
業界の大物である会長のもとでジュニア・アシスタントとして働き始めたものの、職場ではハラスメントが常態化していた。
チャンスを掴むためには会社にしがみついてキャリアを積むしかないと耐え続けるジェーンだったが、会長の許されない行為を知り、ついに立ちあがることを決意する。
2017年にアメリカで始まり、世界中に広がった#MeToo運動。
性暴力やハラスメントの被害経験をハッシュタグ「#MeToo」をつけて投稿し、沈黙を強いられた経験や、はたまた「共に闘う人がいること」を可視化する流れのきっかけとなった。
あれから7年、まだまだ世界中で闘いは続いているが、ここ日本においてもその波は止まらない。
ジャニー喜多川氏に対する相次ぐ告発や、元自衛隊員の五ノ井里奈さんからの訴えなどは、この#MeToo運動がなければ公にされないままだった可能性もあるだろう。
#MeToo運動の盛り上がりに連動して、映画界でも多くの「声なき声」に光を当てる作品が生み出されてきた。中でも「2023年上半期トップ10」でも取り上げた「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」は傑作のように思う。
「SHE SAID」の主人公は、ニューヨーク・タイムズ紙の記者二人。
社会に声を届ける術を持たない人たちに魂でぶつかり、信頼を築き、彼女たちの声を代弁する記事を作り上げていく様は、本当に胸を熱くさせる。
一方で「SHE SAID」の主人公のように記者ではない人、またはそのような記者に出会うことがない人たちは、どうやって声をあげればいいのだろう。
その方法を考えるきっかけを与えてくれるのが「What can we do?(私たちに何ができる?)」をキャッチコピーに掲げる本作「アシスタント」だ。
主人公ジェーンは有名エンタテインメント企業に入社した新入社員。いつか自分も映画プロデューサーになることを夢見て、夜明け前から夜遅くまで”アシスタント”の業務をこなしている。
本作が#MeToo映画として最も画期的な点は「ある女性が会社に出社してから退勤するまで」、つまり、「ある女性のある一日のことだけ」をフィルムに収めている点だろう。
ジェーンが起床してから退勤して会社を出るまで、カメラは一度もジェーンの元を離れることはない。すると観客は必然的に、彼女の一日を体験しているかのような感覚に陥る。
新人アシスタントの彼女に降りかかるのは「社員から名前で呼ばれない」「エレベーターのボタンを自分以外押さない」「嫌な顧客の対応を同僚から押し付けられる」「上司のためにウソをつかされる」など、人を人として扱わない同僚や上司からの行動の数々。
罪として裁くことはできない、でも確実に人の精神にダメージを与える「人を人として扱わない」数々の態度と行動。ジェーンの一日をスクリーン越しに追体験しているうちに、自分も同じような経験があることに否応なく気付かされるだろう。
監督はパンフレットで以下のように語っている。
#MeTooの報道を見ていて、私が気になったのは加害者だけに焦点を当てていることでした。
マスコミはセクハラや性的暴行が起きる「環境」は問題視していなかった。組織の構造や、日常的な環境が有毒であるならば、加害者だけを排除したところで問題が解決されない。
なぜ構造自体が加害を可能にしているのか、より大きな問題に目を向けたくて、この作品に取り掛かりました。
前述の「SHE SAID」では描いていなかった「環境」を取り上げたことは、#MeToo映画史においても貴重な一作だろう。
そして、パンフレットが尋常じゃない気合いの入った作りようなので、劇場で観た際にはぜひ購入することをお勧めしたい。
多くを語らない映画本編の代わりに、多くの執筆者が「What can we do?(私たちに何ができる?)」を考えるきっかけを与えてくれる、素晴らしいパンフに仕上がっている。
※もしすでに「アシスタント」ご覧になった方で「実際にどうすればいいのかもっと知りたい」と言う方は、Apple TVで配信中の「ザ・モーニングショー」をおすすめしたい。
こちらは「人は変われること」「連帯は力になること」を描ききった傑作である。
スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
「スパイダーマン」という最強コンテンツに詰め込まれた、アニメーション表現の無限の可能性
ピーター・パーカーの遺志を継いだ少年マイルス・モラレスを主人公に新たなスパイダーマンの誕生を描き、アカデミー長編アニメーション賞を受賞した2018年製作のアニメーション映画「スパイダーマン スパイダーバース」の続編。
前作「スパイダーマン:スパイダーバース」を観たとき、劇場で泣きまくった。
ストーリーも素晴らしいのだが、私は違う理由で泣いていた。
アメリカという国が、愛とリスペクトを持って自国の文化(「American Comics・Cartoon・音楽・グラフィティ」などのカルチャー)をアニメーションに宿らせることに成功していたからだ。
もちろん日本のアニメーションも素晴らしいものは多い。しかし、アニメーション自体が「ジャパニメーション」と呼ばれるような一種のカルチャーとなっており「自国の他のカルチャーをアニメーションに取り入れる」という意識を持った作品は少ないように思われる。
そんな号泣しまくった前作から4年。ついに彼らが帰ってきた。
今作は、完全に前後編の前編となっているため、正直この作品のみで評価をするのは難しい。(ぶっちゃけ、途中で終わる。)
しかし後編を観なくても確かに言えるのは、明らかに進化した映像表現だろう。「進化」というよりは「多様化」、つまり「なんでもあり」と言った方がいいかもしれない。
前作でも作品の核であった「マルチバース=今我々が生きている次元とは異なる次元が存在する」という設定を映像で”魅せる”ため、本シリーズでは各次元=バースごとに、映像のタッチが変わる。
水墨画っぽくなったり、白黒になったり、目まぐるしく変わる映像表現の魅力を体験できるのは、映画館の大スクリーンならではだ。
(実際、前作公開終了後「映画館で観なかったことを公開した」という人が続出した。)
私は前後編構成であると知らずに観たせいで「ここで終わるの!?」と思わず声が出そうになってしまった。
唯一無二の映像表現を味わうために、そして私と同じく「ここで終わるの!?」と言うために、ぜひ劇場で鑑賞してほしい。
ラジオ
LAUSBUB「Far East Disco」(AIR-G':FM北海道 80.4)
2021年、Twitterでバズりまくっていた高校生テクノユニットご存知だろうか。
サウンドクラウドですごく良いバンド見つけて笑顔になってたら女子高生だった、すごいhttps://t.co/66U44JbSzN pic.twitter.com/SfOiPTn6CH
— 高値ダイスケ (@kudaranai_tkn) January 18, 2021
彼女たちの名はLAUSBUB(ラウスバブ)。
現在は大学生となり、地元北海道を中心に楽曲制作や他のミュージシャンとのコラボ、フェスやライブへの参戦などなど、精力的に活動を行なっている。
今年1月、東京で開催されたファーストアルバムのリリースライブで、彼女たちのパフォーマンスを初めて生で見ることができた。
満員の会場の中、ライブハウスのカラフルな照明に照らされ、堂々と演奏する二人。
「これは、明らかに海外を目指している・・・!」
そう感じた私は物販でTシャツを購入し、いつの日か海外で彼女たちのライブに立ち会う日を夢に見ながら帰路についたのであった。
そんなLAUSBUBが北海道でラジオを始めるという。
SNSではあまり素の姿を見せず、ライブのトークパートも少なめ。
彼女たちをラジオのパーソナリティに抜擢したラジオ局の方は一体どんな方なのだろうか。(マジでありがとうございます。)
残念ながら北海道住まいではない私は、地方のFMラジオが聴けるradikoの有料会員に迷わず登録し、放送日に備えた。
初回放送の7月4日、ついにその時がやって来た。
「Far East Disco」と題された番組が始まり、radikoから若干緊張されているお二人の声が聴こえてくる。
その瞬間、大げさかもしれないが「歴史の誕生の瞬間に立ち会っている!」と思えたのだ。
番組の内容は
リリースされたばかりの新曲「Michi-tono-Sogu」は「NewJeans」の影響を受けている
二人で初めて遊んだ日に、一緒にイヤフォンで曲を聴いた話
などなど、普段のSNSでは知ることができない裏話(?)が聞けてファンとしては大満足の30分であった。
今年の夏には「RISING SUN ROCK FESTIVAL」への参加も決まっているなど、着々と活動の場を大きな舞台へ移しているLAUSBUB。
毎週火曜「Far East Disco」を聴きながら、彼女たちが世界へ羽ばたく日を楽しみにしている。
@JunShintani(Twitter / Threads)