SPAC『アンティゴネ』空間デザインノート(14)「鎮魂の水舞台」
宮城さんの言葉が続く
「つまり舞台上は『魂の世界』であり、この作品全体がその魂を慰める鎮魂の儀式のようなものである。例えば精霊流しの様なシーンを象徴的に使いたい。」
精霊流しと言えば、水に浮かぶ行燈を川に流す、お盆の行事である。ということは
「舞台上に水を張るということですか?」と私
「そう、いわば『三途の川』だね。古代ギリシャにも『アケロンの川』と言うのがあるから、水辺がこの世とあの世をつなぐというのは、ヨーロッパ人にも感覚的に理解できると思うんだよね。それが舞台のどこかにあるという事かな。」
でも、仮設の舞台でそんなことが可能なのだろうか?と若干、引き気味に構えていると
「舞台にプールを作って水を張るのは技術的には可能ですね。」
と技術監督の堀内さん
なるほど、舞台上に三途の川・・・ならば
「舞台の一部ではなくて、全体に水を張りましょう。そうすれば舞台上にいる全ての俳優が、水の上に浮かんでいる事になる。全員が死者であるという設定が表現できると思います。」と私
「演奏者はどうする?」と宮城さん
「演奏者も含めて全員水の中です。それくらい徹底しないと、この世界観は伝わらないですよ。」
正直な話、その時点で私は確固たる勝算を持ってこの「舞台水浸し案」を提案したのではかった。しかし、「水」を使うなら舞台全てを「水没」させるくらいでなくては、あの巨大な空間には勝てない、という事は直感していた。
いちかばちか、である。
~つづく
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