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人の心は解剖できない「落下の解剖学」
気になりながら漸く観に行った作品
落下の解剖学
Anatomy of a Fall
Anatomie d'une chute
原題と英題、邦題の全てが直訳
もうこれ以上の刺さるタイトルは
ないでしょう
これだけでそそられます
大変満足の映画鑑賞について
記します
注)以下、ネタバレを含みます
どうして人が死んでいるの?
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映画の冒頭から不穏です。ポスター通り、人が死ぬところからスタートします。暴力シーンや過激な描写はなく淡々と事実の解明に向けて検証されるストーリー。被害者とされるサミュエルは主人公サンドラの夫です。
第一発見者である11歳の息子ダニエルが愛犬を連れて現場を目撃。視覚障害を持つダニエルは、両親の不仲や父の不審死、母への疑惑が渦巻く中で薄ら寒い大人の世界を否応なしに叩きつけられ不憫すぎる少年です。
トラウマという言葉が陳腐に思えるほどにヘビーな境遇
サミュエルは自殺?
窓から落ちた事故?
...それとも妻サンドラが殺したの?
舞台はフランスの人里離れた山荘という立地のため、事故/事件の目撃者はいません。ダニエルが父親の変わり果てた姿に気づくまで何がどう起こったか、真実は闇の中。
落下した理由を解剖しても人の心は解剖できない
サミュエルの死後、警察や専門家、カウンセラーを総動員して現場がフル稼働中
サンドラは 有罪か無罪か
この検証が興味深く、無罪を主張するサンドラの弁護人と絶対にサンドラが夫を殺したのだろうと強引に主張する有罪側の意見がどちらも筋が通っているから混乱します
本当はどっちなんだろ
状況証拠的に有罪っぽいけど
ミスリードかな...
登場人物の何気ない会話を聞き逃すと後々の伏線回収に出遅れてしまう...頑張って字幕を追います。上映時間152分と結構長めの映画ですが、集中力が途切れることなく最後まで鑑賞できました。俳優さん達の静かな深い演技に惹き込まれること、飽きさせない会話の応酬があってこそだとしみじみ振り返っています。さすがアカデミー賞脚本賞を獲った作品はダレることなく最後まで導いてくれます
有罪 無罪
判決がどちらになっても「真相」は一つだけ。サミュエルは亡くなったという現実があるのみ。専門家が図解や動画で死の現場を分析しても人間の胸の内を解剖するには限界があります。個人的には人間のグレーな感情が解剖されないもどかしさに痺れた瞬間でもあります
あの時、アナタはこう言った
だから今はこうでしょう?
現在地から過去の会話を紐解いてみても、人の感情は全て見えるわけではない
その時はその時
今は今
人の言動は淀みなく流れている
見る角度が違うと景色が変わる
真実は1つ
解釈はいくらでも
法廷のシーンが緊迫感あります。
(実際の法廷はどうかわかりませんが...)
登場人物像が生々しい
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主人公サンドラ
ドイツ人ながら夫の母国フランスへ住むことになり、言語の壁がストレスを生みます。夫との口論でも家族の会話が多言語になる不安定さに苛立ち感情が爆発。弁が立つので夫からの苦言・暴言にも屈しません。
サミュエル
初登場で亡くなっていたため、人柄が分かりませんでした。物語が進むにつれて回想シーンで生きた彼を知り、法廷で証言する精神科医の記憶などから人物像が明らかになっていきます。妻に不満と嫉妬を持っていたことが分かります。
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息子ダニエル
可哀想...な一方で、大人の言うことに黙り続けることはない強い子です。不安の中から自身の記憶を辿り、自ら真相解明に向けて行動を起こすのです。毅然とした態度が母サンドラと少し被ります。(コワさすらある)
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サンドラの友人兼弁護士
ヴァンサン
夫殺人の被疑者になったサンドラにとって、社会的地位と共に1番頼りになる存在。「オレが弁護士だから(今は)必要とされてるのかな」と自信なさげに言う姿が寂しそう。社会的地位が高い人ならではの悩みがありそうな素敵な紳士。
人物描写が繊細でセリフまわしに真実味があります。英語が母国語ではない俳優さんの英語は聞き取りやすく助かりました。
おすすめの映画です。
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Junko Summer