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不登校の海㊽ 見えないジェット機

2020年5月、新5年生になったばかりの長男が不登校になりました。noteでは長男が9ヶ月かけて学校に復帰するまでの記録を公開しています。

「はじめに」はこちら★


見えないジェット機

6年生になって何度か登校を渋った日もあった長男ですが、5月以降は何事も無く登校していました。

「新しい先生やクラスにも慣れてきたのかな?」と思えてきた頃、夏休み前の懇談を迎えました。
担任の先生とは何度も電話でお話したり、一度付き添い登校の時にお会いしていましたが、ゆっくりお話するのは初めてです。

ちょっと緊張しながら6年生の教室に入り、当時コロナ禍だったためアクリル板を挟んで座ると先生がゆっくり話し始めました。


先生:H君、最近本当に頑張ってます。見てください、テスト、どの教科もほとんど満点に近いです。何をするにも全力で頑張ってるのを、ひしひしと感じます。

わたし:5年生の時はほとんど学校に行くことすらできなかったから、もう学校行けてるだけでわたしとしては万々歳。そのうえ勉強まで頑張ってるとは…。 ㅤ ㅤ

先生:「一人一冊好きな本を紹介してもらってるんですが、H君が“君たちはどう生きるか”っていう本を紹介してくれて。他の子も影響を受けて図書館で借りたり漫画版を読んだりしてるみたいで。なんか急にみんな哲学し始めてるんです!

プログラミング同好会もリーダー頑張ってて、他の子から“せんせい”って呼ばれてるんですよ。
「先生」って呼ばれたから私のことかと思って返事したら、違いました。H君のことでした(笑)

わたし:…

(早くも胸がいっぱいになり「何も言えねえ」状態の私に向かって、先生は続けます。) ㅤ ㅤ

先生:それでね、お母さん。実は同じクラスのK君が学校に来られなくなったときがあって。

その時、H君の方から“ぼくはK君の気持ちがすごくわかるから、K君にお手紙を書いても良いですか?”って言ってくれたんです。

(K君にお手紙を書いた話は、私も長男から聞いていました。だけど、どういった経緯で手紙を書くことになって、どんな手紙を書いたのか?までは知らなかったのです。)

先生:H君、こんな手紙を書いてくれました。 ㅤ

「僕も去年学校を休んでて、休んだ後に学校に来たら誰かに嫌な事言われたりしないかな?ってすごく不安になったから、K君の気持ちすごくよくわかります。でも、学校に来てみたら、何か嫌な事を言う人は誰もいませんでした。だから、きっと大丈夫だよ。」

って。もう、泣けますよね!?

わたし:…!!

(今にも涙が溢れそうな私に向かって、先生はさらに続けました。)

先生:それでね、お手紙渡した次の日、K君学校に来れたんです。

だけど、教室に入るのはやっぱり勇気がいるみたいだったんですけど、そのことを話したらH君と仲良しのO君がK君がいる校門まで迎えに行ってくれたんです。そしたらK君も何事も無かったみたいに学校に入れて。3人で仲良く教室に入っていったから、私はもう何もすることありませんでした。

H君、すごいですね。本当に、なんていうか、優しいお子さんだと思います。やっぱり、周りの人のこと凄く見てて、いろんなことを敏感に感じ取ってます。でも、だからこそ人の気持ちもわかるんでしょうね。

(私はもう、我慢できなくて。ぼろぼろと涙がこぼれて仕方が無いので慌ててハンカチを探したのですが、鞄のなかには財布と携帯しか入ってなくて。仕方なく、涙を指で拭いながらお話しました。)

わたし:先生、K君は長男が去年不登校のとき、休み時間に会議室に会いに来てくれたりして、たくさん助けてくれた子なんです。お互いにとっても繊細なので、気持ちがわかるんだと思います。
長男も偉いなと思うんですが、「お手紙を書きたい」って言えたのも、先生が普段から子どもたちのいうことを否定せずに関わってくださってるからだと思います。いつもほんとうにありがとうございます。



担任のS先生、毎日のように学級通信発行してくれていました。長男もそこに掲載されるのが嬉しいみたいで、自分が掲載されると学校から帰って真っ先に見せてくれました。
長男の自尊心がすごく満たされているのを感じたし、きっとクラスの他の子も、そうなんだろうな…と。
だから繊細な長男も、安心して学校生活を送れているんだろうなと。 ㅤ ㅤ ㅤ

不登校になる前の長男は、何か困ったことがあっても、担任の先生はもちろん、親の私たちにも相談できない子でした。
それに気づいてあげられなかった私自身、とても不甲斐ないのですが。 ㅤ ㅤ

不登校だった9か月間を通して、とにかく長男が安心して「嫌な事を嫌」と言えたり、困りごとを相談できる関りを目指しました。

そのせいか、今では別人のように学校で起こった出来事を話してくれるようになりました。何かわからないことがあったときも、先生に聞くことができているそうです。

「わからないことを先生に聞く」って当たり前のことかもしれないけれど、長男にとってはそれができるようになったことが大きな進歩です。
そしてK君へのお手紙。

きっと長男はもう、自分にしかできないことがあるってわかっているんだと思います。自分にしかできないことがあり、それを活かせる方法を見つけて、実際に行動できたんだなぁって、率直にすごいなって思いました。

自分が悩み苦しんだことこそが資産になるって、こういうことなんですね。

他にもたくさん、S先生は宝物のような言葉を下さったので、私は帰宅してから長男に全て伝えました。嬉しそうにはにかみながらその話を聞く長男を見て「私にできることなんて、もう何も無いんだな」と思いました。

4年前のちょうど今頃、長男に付き添って毎日会議室登校しながら「なかなか進まないな。3歩進んで2歩下がるだな…」なんてやきもきしていた自分に教えてあげたいです。

「大丈夫だよ。今は3歩進んで2歩下がる毎日だけど、じつは長男は見えないジェット機に乗ってるから」

って。


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