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教育的じゃないといけないって、誰が決めた
誰だかすぐに特定されてしまいそうなので、職業名などの事実を一部改変してお届けする。
教師として生徒の前に立った最後の日、私はある小説家と岡山でお酒を飲んでいた。彼女の書いた小説が、岡山をロケ地とする映画になったためで、「撮影に使われたお店にすごく飲みに行きたいんだけど、一人じゃさみしいから、行こー」と、お誘いが来たのだ。
これからカウンセラーになることをそのお姉さんに少しずつ話していたので、ことあるごとに、「聞き方うまくなったね!勝手にどんどんしゃべっちゃうよ~」と私をおだててくれたから、私も饒舌に話した。自分では、カウンセラーというより、雑誌のインタビュアーみたいで、彼女のことなら誰よりいいインタビュー記事が書けそう、なんて調子にのって、いつもより深い話ができた気がする。
その話の中で、アンテナが立ったというか、心に刺さったというか、そういう、彼女の「ことば」があった。大げさで、ありきたりな表現だが、酔った頭をがつんと殴られたくらいの衝撃があった。今でも後遺症があり、それについて考え続けている。
彼女は、とある共通の知人が最近、「小説セラピスト」と自分のことを名乗り、特別な資格をつくり、それを伝導すべくセミナーを頻繁に開催していることに不満があるようだった。
「本をセラピーに使われたのが、自分の作品じゃなくても嫌だったんだよね~」
私はその共通の知人に、「心理師になったのなら、ぜひ勉強に来て!」と、ぐいぐい誘われていて、たまたま行けなくなっただけで、本当は参加してみようと思っていた。本が好きだし、それでセラピーになるなら、いいじゃん!?とすら、思っていた。
「ああ、あれ、結局、参加しなかったんです」
そう答えた私に安堵し、先ほどの本音を語ってくれた。
「私ね、教育的じゃなきゃ本にならない、何かテーマや奥深いメッセージがなきゃ作品にしちゃいけないっていう力みたいなものに、抗おうとしてるんだ。新人さんじゃ、抗えないじゃん?ある程度、出版社に協力してもらえる、お金かけてもらえるポジションを築いたから、できるわけで。だから、それが私の使命だと思ってて、最初から最後まで、ただ読む人が楽しいだけの小説を書こうってね、そう思ってるんだ。脱・教育っぽさ、よ」
教員最後の夜とでも言える日に、脱・教育っぽさ論を聞くことができたのは、とても運命的というべきか。
その方の作品のファンでもあるので、改めて作品をひとつひとつ思い出してみると、合点がいった。抗っている。そこを目指して、抗い続けた、そういう作品になっている。今まで私は、そんなことをわからずに読んでいたなんて。そして、あろうことか、自分で書こうとする作品には、何らかの教育的メッセージが必要であると、呪縛のように思い込んでいた。
じゃあ、教育的メッセージ、教育的じゃないメッセージ、ってどう違いがあるのだろうか?定義づけが難しいけれど。
私はその日に、僭越ながら、教育的メッセージ(=ここでは「お涙頂戴のメッセージ」の意味で)があることを期待しながら読み進めている自分に気づいて、最後にいい意味で裏切られた、心に残っている児童文学の話をした。
うん、うん、と頷いて、聞いてくださった。
「ただ楽しいだけ」という言葉自体が「楽しい」を下に見ている言い方だし、エンターテインメント、という言葉に変換しても違う。
作品でこの境地を追究している方と、1対1でお話することができたおかげで、その境地を貫くむずかしさに気づいたし、その価値を再認識した。
その方からすれば、「作品がセラピーに使われた=その作品は、読む者の心の傷に触れ、過去を問い直し、そのときの自分の気持ちを開示し共有することで、癒されていける作品」ということを意味するのだろう。そういう作品のほうが価値が高いという世界で評価されたくないということだったのだろう。
これって、めちゃくちゃ大きなことじゃないか?
小説や作品だけではない。
一見、「あの人って何してるんだろうね(なんの役に立ってるんだろうね)。たよりないし、暇そうだし、何も得意じゃないよね。でも感じがいいよね」っていう人の価値を、改めて問い直したいと思う今。(いや、それ君だよって言われたら、完全に褒め言葉)
先日、オンラインで発表をさせてもらった勉強会で、私が大御所先生たちに言われた言葉を最後に紹介したい。
「まず思ったのは……岡山で一番とか、公認心理師という職業の新たな仕事の形をつくりたいとか、うーん。カウンセラーってさ、何をもって一番とするの?一番いいのは、あの話に何の意味があったんだろう?って、よくわからないようなカウンセラーだよ。そうだ!あなたは、たよりない、なにしてるかわかんない、だらだらしたカウンセラーになりなさい。人を助けようなんて、おこがましくて、私たちはもう、言えないんだ。それくらいを目指しなさい」