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立吉 『カーテンを選ぶように絵も選んで欲しい』 センスの光る昔ながらの喫茶店
今年で42年目になる立吉さんは吉祥寺、井の頭公園に向かう七位橋通りと住宅街の狭間に位置している喫茶店
お父様の代から始まったという立吉は今は娘さんがほとんどお店を切り盛り。
出迎えてくださった時の低姿勢で物腰が柔らかく、
静かにゆったり微笑んでお話する姿が印象的で、『ああ、立吉が愛される理由はここに詰まってるなぁ』と感じたほど。
隣に掛けていた常連さんは幼少期から知っていたということで『いやぁ、可愛かったんだよー!今も可愛いけど、はは』と満面の笑みで、お父様の淹れるコーヒーと共に娘さんに会いに来ていた方もいらしたんだろうなと勝手に想像……🤭
お父様の味
✔︎︎︎︎ブレンドコーヒー ¥500
しっかり濃いめ。
___『お砂糖とミルクは?』
と尋ねられたので「大丈夫です」とお答えしたところ、
___『うちの、結構濃いのでそのままだと濃いって言われることもあるんです……(笑)』
と控えめに微笑む立吉の伊藤さん(娘さん)
「深煎りで濃いめのが好きなので好きなコーヒーです!」とお答えするとまたやんわり微笑んでくださり、
そのほほ笑みを見にまた来たいとひっそり心の中で思う。
お父様のお味を再現するのに苦労しなかったかとお聞きすると、
____『うーん、、でも私がいれると、「父より優しい味だね」って言われることが多いんです』
まろみを感じるのはおそらく娘さんのお人柄が出ているから♡
ふんわりと纏う空気感がこの珈琲を生み出しているのだと思う。
Menu
メニューは手描きでご友人の方に描いていただいたという。
見るとわかる通り、立吉には喫茶店らしくシンプルにコーヒーやココアなど飲み物のメニューだけ。
たまに「お食事メニューないんですか?」って言われてしまうこともあるというが、それは現在のカフェの在り方が飲み物と共に必ず何かしら食事やデザートなどのメニューがついてくるから。
でも飲み物だけで勝負しているというのは、やはり『純喫茶』本来の在り方であるし、
立吉にしかない特徴🎠
それを良いと思える人が増えて欲しいと願うばかりだ。
____『なにからお話したらいいかしら……』
とそわそわなさっているのも可愛らしい方で
まずはお店の始まりをお伺いしたいと言うと、『父が始めたお店だから、その当時のことはそんなによく知らないんだけど……』とポツポツ話してくださった
内装とアートとセンス
____『今のお店よりもう少し広めだったけど、新聞やら雑誌やらが至る所に積んであってもっと煩雑なお店で』
その当時を知る常連さんも「いやぁ、ここ以外そういう喫茶店っていうのが無かったんだよ」と
「吉祥寺駅すぐのスーパーで働くパートの人達なんかの休憩所って感じでさ。
だから今とは違うねぇ」としみじみと語ってくださった。
「今の内装のインテリアや家具はその当時のものですか?」
____『うん、そうね、父の趣味で……。この辺はそうかな』
と指さしてくださったのはカウンターの大きな船の舵やオールドカメラ
家具はアンティークショップで購入したものもあるそうだが、変わらないものも。
ランプも1つずつ異なり、
立吉の内装がお気に入りの方は写真を撮る方もいらっしゃるとか。
カウンターと、そのそばのテーブルに置いてあったカメラがどうしても気になり、ウズウズしていると
____『触って大丈夫ですよ』
と目の前に出してくださった。
『私、触り方すら分からない(笑)』と言って見せてくださったので、是非とも!とレンズを出したり閉じたりさせてもらった。
右側はヤシカフレックスという二眼レフ。
✣二眼レフカメラ……二眼レフカメラは、一般的なフィルムとは違い、中判フィルムカメラの分類に入る。
上側のレンズ(ビューレンズ)から入った光がミラーに反射してファインダーの映像となり、実際に撮影を行うのは下側のレンズ(テイクレンズ)。
構図を決める(ピントを合わせる)レンズと撮影をするレンズが別であるため、ファインダーで見える映像と実写画像にズレが生じるのが特徴🌿
____『もうこれは父の趣味だから、』
と仰りつつ、しっかり残されているのはお父様のお店の良さを継いでいるからだと感じた。
お父様の時代は煩雑だったということだったが、今は店内はこじんまりとして、静かにゆったりできる空間。
娘さんが『綺麗に掃除したの!』と✨
____『とにかく整頓したくて…(笑)』
一輪挿しは娘さんセレクト。
常にお花が綺麗に生けてあるお店って素敵
カップはノリタケと大倉陶器。しっとりした空間で味わうコーヒーは格別である。
またお客さんがいなくなった時に『ぜひ御手洗も見に行ってみて』とお声をかけてくださった
御手洗って素敵でも、なかなか撮影ってできない(しにくい)という面もあったが紹介してくださったのでぜひ覗かせて頂いた。
____『うちのはウィリアム・モリスの壁紙なんです』
ウィリアム・モリスはイギリスのデザイナーとして有名な作家。
【アーツ・アンド・クラフツ】運動という美術運動を率いた。
この運動は、イギリスの産業革命によって溢れた粗悪品に対し、『古き良き、中世の職人たちの手仕事で作られたものがいい』と考えて、その理念に共感してくれる人を集めて芸術活動を行った
特に壁紙はモリスの最たる作品として有名。
____『この壁紙は設計士さんが考えて作ったから私の考えじゃないんだけど、
でもこれは私のセレクトで、!』
と目を輝かせて教えてくださったのが、壁紙の上に掛けられている1枚の大きな紙。
よく見ると点線が…🧐
____『これ型紙なんです』
「本当ですね!わぁ、これどこで…?」
____『恵比寿のアンティークショップでたまたま。私フランスにいた頃があって、その頃は身近に美術があったんです。それが凄く素敵でいいなぁって。
その時ファッションの型紙が印字されたポストカードを買ってて』
それが巡り巡ってたまたま恵比寿に赴いた時にホンモノに出会い、驚いて感動したという
____『ぱっと見ると地図って思われるんだけど……そうじゃないんですよね(笑)』
と。
当時のフランス人女性が着ていた衣類の型紙を選ぶという娘さんのセンスが光る。
これまでの41年とこれから
1979年にお店が始まってから約40年、お店を守ってきたお父様のお店をこれからどんなお店にしたいかお聞きすると
____『壁に美術作品を飾りたいんですよね』と。
なんとびっくり、
美大生としてこんな風に思ってくださる方がいることが嬉しい。
____『若手のアーティストさんとかの作品で、飾って、気に入った方がここで買えるようにしたいんです。』
ちょっとしたギャラリーのようにしたいそう。
____『カーテンを選ぶように絵も選んで欲しいんですよね……』
その言葉に私は感銘を受け、心の中で大号泣。
芸術は生活に必要のないもの、として切り捨てられることもある。そんな中で芸術活動をし続ける人たちが周りにたくさんいる。
コロナ禍でさらに『不要不急』なものでないことは全てが制限された。
不要不急……。
私たちの存在価値は?と
問い質すアーティストも多かった。
喫茶店さんも同じだろう。飲食店が苦労しているというニュースは連日のように報道されていた
____『マンスリーとかで若手のアーティストの作品を変えて展示したくて』
まだ実現していないが、立吉さんで若手のアーティストの作品を展示し、買える空間になれば嬉しい。
最初に名刺をお渡しした際に『私は名刺とか持ってないので……』と渡してくださったマッチ。
喫茶店のマッチもその喫茶店の色合いが出るので、これから私もコレクションしていきたいと思っている。
実は最近プリンやマドレーヌのデザートを少しだが始めたそう。売れ行きがよく、すぐ完売してしまうので気になる方は開店してすぐに訪れてみてほしい。
『あとうちはテイクアウトはしません!!(笑)』
とのことだったので、テイクアウトできますか?とお伺いせずお店でコーヒーやココアを楽しんで欲しい。
episode
____『Amo(私)さんと同じように武蔵美の方が喫茶店が好き、って言ってここに来てくれてて、その子は喫茶店の椅子が好きらしいんです。
だからここ(お店)の椅子も撮らせて欲しいって言われたことがあって』
自分が喫茶店好きだなぁ、と思った時、何が好きなのかと考えたところ、椅子が気になったという。
その方は《喫茶店の椅子シリーズ》で写真の作品作りをするそう。
色んな視点で喫茶店を見ている人達が集う。
「つい長居してしまいました」と後日メッセージを送ったところ、『それはうちのお店と相性が良かったんだと思います』とのお返事が。
自分に合う喫茶店が見つかるとそれだけで幸せな気持ちになれる。
吉祥寺に寄ったら、ぜひ立吉へ
ゆったり静かに過ごしたい方には本当におすすめの喫茶店
お昼からの営業で16:00以降は割合空いているので、その時間帯の立吉も楽しんでいただきたい。
そしてこれからの立吉がどのようになっていくのか、見守っていきたいと思う
店舗情報: 立吉
アクセス▶︎ 吉祥寺駅から徒歩5分
営業時間▶︎ 12:00-19:00
定休日▶︎ 水曜日
https://www.instagram.com/coffee_tatsukichi/