見出し画像

カレーと読書の金曜日

カレーと読書の金曜日

 いつもなら営業時間は10時から18時のところ、18時以降の営業もしてみた。題して「カレーと読書の金曜日」。週末の仕事帰り、一食夕食を作るのをさぼって参加できる企画。本を持って立ち寄れる場所と時間にしてもらえたらというのがコンセプト。
 初回のメニューは、至って普通の手羽元のチキンカレーに付け合せと、コーヒーにプリンで1,000円。

 考えてみれば「おじさん」たちは飲み屋さんにいくのだろうか。飲まないから気が付かなかったが、飲み屋さんはたくさんあるけど、本を読めるところ、本好きが空間を共有できる場って意外とないではないか。まず、地方に本屋さんがない。
 
 参加は予約制にはしなかった。というか忘れていたのだ。予約制にしておけば、企画する側は数を把握できるし、お客さんは安心して来店できる。イベント企画であれば予約制がいいように思う。多く準備しすぎて翌日から毎食カレーも嫌だし、少なすぎてごめんなさい、するのも何だし。(一応、レトルトのカレーとご飯も用意はしていたのですよ)。迷って結局用意したのは、10食ちょっと、初回は3組5名のお客さまで、残りは家族で食べて丁度いいくらい。

私のための場所

 うちは食堂ではないし、カフェというほどでもなく、そこはやはりギャラリーでアトリエで飲食はおまけなところがある。
 でも、ふと思ったのだ。予約せずにふらっと参加できた方がよくないか。
 予約してしまうと行かなくては行けなくなる。行けなくなったら断らなくては行けない。それはどうも「カレーと読書の金曜日」には合わないような気がする。
 行きたくなったとき、ふらっと行っていい場所がある、ちょっとだけ知っている人がいる、それはこの企画のコンセプトでもあるけれど、ここでアトリエを開く意味でもあると思えるのだ。例え、一度も行くことがなくても、そういう場が地域にあって、「いつでも行ける」ということを知ってもらえるだけで意味があるような気がする。

 誰しも、誰でもない私になりたい時がないだろうか。「上司」でも「部下」でもなく、「ママ」や「お父さん」でもない。「息子」でも「娘」でもなく。誰も知らない、私になりたいとき。
 好きだったカフェがあった。二月に1度くらいしか行けなかったのだけれど、そこでは最後まで自分が何者かを名乗らずに通した。たぶん、人生で子育てと自分の仕事のキャリアが一番辛い時で、誰かに愚痴を聞いて欲しかったはずなのだけれど、そのカフェではついぞ正体を明かさなかった。どこの誰とも知られないことが心地よかったのだ。マスターや常連のお客さんとコーヒーのことやお店の話にまざるだけで楽しかった。
 人生には、誰かに呼び止められない私に戻れる瞬間が必要なのだと思う。遠く異国の地に行かなくとも、二月に1回くらい、隣町のカフェにいくでもいいのだ。

たぶん、やりたいこと

 地域づくりや地域お越しを直接ベタにしたいと思ったことも、してきたつもりもない。やりたいのはおそらく文化だ。やたら射程の長いデザイン。コミュニケーションデザインと言ってしまえばダサく、つまらないが、人と人、人と場所、空間、関わり方のデザインだろうか。
 デザインというほど人為的なものではなくて、環境を設定しておくというのか。庭作りに似ていて、土と光を間違えなければ後は植物同士がいいように成長していく。関係性をつくっていく、それと同じだと思う。
 ときたまのイベント企画は予約でもいい。むしろ予約の方がやりやすいに違いない。それを考えれば営業日に毎日ちゃんと開店する飲食店のなんとえらいことか。
 アトリエを1年間まわして、幸いかな突然の臨時休業という日は1日もなかった。おかげさまで変則な月も多かったが、一応毎月の予定カレンダー通りに開店することができた。

 1年間、営業してきてアトリエに訪れる人も増えた。場は企画したり、開いたりする人だけが作っているわけではない。そこに訪れる人も場や空間をつくっている。
 セミパブリックな場になればいいと思う。公共すぎず、プライベートすぎず。縁側の空間。それをコモンや共有地というのだろうか。

 毎日、営業日通りにお店を開けるというのは、約束事なのだと思う。迎える方と訪れる人との。
 イベント型の企画と、毎日開いているお店の間くらいのことがいいのではないだろうか。それはたぶん、こうだと言い切れるものではなく、曖昧模糊としつつ、その曖昧さがいいように思う。それは、あるようでなく、やりやすいようでやりにくと思う。白でも黒でもなく、量でも質でもなくどちらでもない、言わば中庸なことのように思う。

 日常の中に「非日常」が隠れていて、それに関われる場が「日常」的に用意されている。提供したいのは映画館を出た後のような、ちょっと地面から足が浮いたような感覚だろうか。

次回のお知らせ

「カレーと読書の金曜日」次回は、2024年3月1日(金)、予約は必要ありません。ふらっとお越しください。
 でも、逆に待ち合わせして読書会がしたいです、というのも歓迎です。

サポートや有料記事の売上は、シェアアトリエのリノベ資金にさせて頂きます!