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書評「生きのびるための事務」坂口恭平


20代で出会いたかった本

書店で手にして、この本がマンガだということに気がついた。読み始めたらいっぺんに読んでしまった。マンガだからというわけではない、その読ませる力がすごい。
読後感は「あ、これは20代で読みたかった」だ。でも、これはすべての大人が今から読んでも遅くない一冊だし、きっと誰かに勧めたくなるに違いない。

明日ではなく、今日からはじめるために

坂口さんが「ジム」に出会い「事務」を学んでいく形式で話は進む。
この「事務」はいわゆる、経理や書類といった「事務作業」の話(だけ)ではない。もっと根源的な「段取り」や「計画」の話だと思って貰えばいいだろうか。数字や難しい専門用語は出てこないので気楽に読める。
ジムは「イメージできることは全て現実になるんだよ。ただ誰もやっていないだけ」という。これにガツンと来る人は多いかもしれない。

どこまでが著者の実体験でどこからがフィクション(脚色)なのか、わからない。
この話の展開は坂口さんだからでしょ、と思うような話が次から次へと続いていく。しかし、ジムがいう「事務」の話は難しいことでも、坂口さんだから、という話ではない。
誰でも、今日からはじめることができる、ことだけが書いてある。
本では10年後をイメージして事務を進めるが、これはもっと短いスパンでも有効だろうと思う。一月後でも1年後でも、1週間後でもいいかもしれない。
明日ではなく、今日から実践してみることの大事さに気がつくはずだ。

「坂口さんだから」か、「自分にもできそう」と、思うのか

「これは坂口恭平だから可能じゃないのか」それは一番簡単な感想で、著者が一番嫌がる感想かもしれない。著者は(おそらくは就活で)悩める若い人に読んでもらいたいにちがいない。もっと自由に生きやすく、まして自殺などしなくてもよいのだと、それがタイトルの「生きのびるため」にかかっているのだろう。

「これだったら自分にもできそう」そう気楽に読んでいい。すっかり大人になった、僕やあなただってそう読んでいいはずだ。
「才能」が自分にはあるのだろうか、誰しも一度は悩むことではないだろうか。
それを作中(102p)では「《才能》と《評価》は別なこと」「いつまでも好きなことを楽しく続けられる=《才能》」とシンプルに表現する。この言葉に救われる人も少なくないはずだ。

明日よりも今日は人生で一番若く、今日が人生で一番老いている。それは誰しも同じはずだ。絶対的な年齢を気にしていてもはじまらない。
やりたいことが(もしくは、やりたくないことが)ある人はこの本を手に取って今日から「事務」を実践してみてはどうだろうか。

「生きのびるための事務」坂口恭平=原作 道草春子=漫画(2024年5月16日発行 マガジンハウス)
(2024年8月25日読了)

書籍「生きのびるための事務」は、Jun Kikuchi Graphicでも取り扱っております

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菊地純
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