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書評「他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ」ブレイディみかこ

「他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ」ブレイディみかこ(文藝春秋・2021)2024年9月4日読了


「他者の靴を履く」という想像力

「他者の靴を履く」という表現をどこかで見聞きし、この本に行き着いた。著者はイギリス在住、2019年に出版した本『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』その本の中で4ページだけふれた「エンパワー」という言葉が一人歩きをしだしたことから、この本が生まれたらしい。
エンパワーとは何か、シンパシーとの違いは。語源からたどり新しい学説や言葉のよう要られ方まで、丁寧に調べ書かれている。その点、第1章は人によっては少し退屈かもしれない。
日本語では「エンパワー」も「シンパシー」も「共感」に訳されがちだという。
この本では主に、「コグニティヴ・エンパシー(想像力をともない、どちらかといえばスキルのようなもの)と「エモーショナル・エンパシー(共感に近く、感情的な)の対比やその扱われ方が書かれている。「エンパシー」を無条件に良いものという前提ではなく、様々な事例ともに読み解かれている。

コロナ禍、海外からの視点として

2021年発行ということもあり、イギリスと日本のコロナ対応の違いや、日本の状況が海外からどう見えていたのか、本から垣間見ることができる。その点においてコロナ禍を振り返る一冊とも言えるかもしれない。
コロナ禍という非常事態における、人々のエンパワーとは何か。災害時に人が利他的になることや、利己的になること。または、経済やジェンダー、ルッキズムといった、様々な事例からエンパワーという言葉を軸に読み解いていく。
そのことは、おおよそ人の関わるところにエンパワーが関係すると言うことがうかがい知れる。

エンパシーから、アナーキズム、民主主義へ

エンパワーから始まった本は、アナーキズムを経て民主主義の大切さへと繋がっていく。どうしてそうなるのかは、ぜひ本を読んでみてほしい。

「アナーキー」は暴力や無常状態と結びつけて考えられやすい。しかし、本来の定義は、自由な個人たちが自由に協働し、常に現状を疑い、より良い状況に変える道を共に探してくことだ。どのような規模であれ、その構成員たちのために機能しなくなった組織を、下側から自由に人々が問い、自由に取り壊して、作り替えることができるマインドセットが「アナーキー」なのである。

「他者の靴を履く」296ページ

そのために、「エンパシー」という想像力が必要不可欠なスキルとして、機能しなくなった組織や、場所、衰退している国などに必要ではないかと著者は締めくくる。

最後に、僕の思う「他者の靴を履く」というのは、「絵を鑑賞する」ということに等しい。つまりは他者の視点(タッチ)を借りて世界を見てみるということだ。「エンパワー」とはアーティストの得意とするスキルの一つと言えるかもしれない。
付け加えて言うならば、他者の視点とは幾つでも持って良いわけで、自分の視点を否定したり、捨てると言うことではない。自分の靴(考えや思い)を一時、棚にでも置くような気持ちで、他者の靴を履いてみればいい。

読書会にもぴったりな一冊。
*今回読んだのは、単行本でしたが、文庫版もでているようです。


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