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60歳定年時の再雇用面談 (②) 退職か派遣か

新しい事務所のビルの前に立つとため息が出ました。
「このビルを見るのは今日が最後か?」
入り慣れていないビルの入館にちょっと手間取りながら指定された会議室のフロアにエレベーターで上り、廊下の壁にあったフロアマップで会議室の位置を確認して目指します。
「今日は話を聞くだけ。決めるのは先のこと」
深呼吸してドアを開けると、部屋にはP氏が一人座っていました。
余計な事を言わないように人事部から釘を刺されているようで、資料に沿った、実にお堅いお話でした。
要らんことを言って言質を取られない予防なのでしょう。
この場に来る人はだいたい怒り心頭でやってくるので、少しは愚痴を聞けよって思います。


定年後は派遣会社、退職の二択だけ

言われたことは2点です。
・あなたは60歳以降、会社のポジションはない。再雇用してくれと願っても、協議の余地はまったくない。
・選択肢は2つ。どちらかを選べ
 - 関係会社の派遣会社を紹介するので、派遣労働者として雇用される
 - 来年3月までに退職(60歳の誕生日前となる)

退職の補足説明
 - 退職を選んだ場合は自己都合退職とする。会社都合退職とは絶対に書かない。交渉されてもムリ。
 - 今なら退職加算金を支給する。(ただし、加算額は微妙な数字…)

派遣の補足説明
 - 再雇用は現状の業務を保証するものではなく、定年後は派遣労働者として雇用するのは厚生労働省が認めている。
 - 給料は今の会社に再雇用された場合と同額とする。
 - 派遣先の具体例は示せない。(派遣の取引先に元会社や関係する会社があるのか分からないし、派遣の実態が見えない)

上記の内容が面談で言われたことでした。
悔しいし、長年勤めた最後はこれか?とイライラしました。
聞いても資料以上のことは喋らないし、この場はどうしようもないので嫌味をいくつか吐きつつ後にしました。

前後して面談した人たちと内容の付き合わせすると、みんな一緒でした。
他の事業部でも何人も同様な面談が行われたそうです。

去年の3月、他本部の後輩が会社を辞めましたが、指名されて面談があり、退職を選んだと後日知りました。
10月~12月、または3月頃に退職の挨拶メールを毎年いくつも受け取ってきました。
40歳より若い人はけっこう会社を去っていきますし、純粋な転職もあると思いますが、相当な確率で一般社員の指名解雇をしてきたんだろうと思います。本人に能力がないとかではないと思うんですがね。

キャリア開発室

キャリア開発室のような部署が数年前にできて、異動になった人はリスキルして自身に新しい能力を身に付け、ポスティング応募して新しい居場所を見つけろというものです。
面談の後、気になってキャリア開発室の所属部員の一覧を見たら、同じ事業部の後輩や仕事を通じて知っている人たちがいつの間にか異動していました。ポスティング件数は多いと聞いたことがありますが、ここに異動になった社員、それも40歳代以上の人が応募して受け入れる部署は少ないと思うし、定年を機に追い出される方がマシなのか?と複雑な気持ちになりました。

事務所からの帰り

面談が終わって、慣れていないフロアを歩いていると従業員向けの無料のコーヒーメーカーがあったのでコーヒーを作って飲みました。
席が少なく、空間が広いお洒落な内装なので、フロアに割り当てられている部署の社員数の3割も座れないと聞いたことがあります。コロナが終わっているのにテレワークを解消できない理由ですね。
このサービスは新しい事務所から導入しているのですが、テレワークしているので事務所には来ないため、今まで飲むことはありませんでした。
せこいですが、会社のコーヒーを飲んで、窓からの風景をしばらく眺めていました。
「この会社しか知らんのに外に出たら使い物になるんだろうか?」
未知の世界は何歳でも怖いです。

帰りの電車に乗っている時、なんか終わったなぁとしみじみ思いました。
30年以上勤めた会社では、自殺した後輩は数人いるし、管理職になるとなぜか具合が悪くなって休職する人を何人も見てきたし、体調を崩して会社に来れないまま退職した人も少ならず見てきました。
私も何度か向精神薬のお世話になりつつ、何とか定年を迎えたのは運が良かっただけです。たまたま今の部署に居ただけです。
事業部ごと潰すために別会社になって、全く違う仕事に転職した知人もいました。
会社の言いなりに住処を決め、時間を会社に食いつくされ、人生を捧げる。
面談されてやっと自分の人生について、やりたいことは何だろうと自分に目を向けることにしました。

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