
落語、なやむ、誰の言葉か。
「左だよ」 と左京が言った。
「右だよ」 と右京が言った。
うん、ここなんだね、小説ならこれでおっけ。登場人物の多い
シーンで、このテで切り抜けられるわけですよ。
落語は違うよ。会話で成り立つ噺であり、二人までなら容易く
ても三人四人と人影が重なると困ってしまう。
男が二人で一方が人格者の和尚さん、一方が粗忽者の助さん、
そして一人が深川芸者のお姐さん。それぞれ性格が違うならな
んとかなる。
「まあまあ喧嘩はよさぬか二人とも」
「よさぬかってねぇ、うっせいわ、クソ坊主っ!」
「ちょいとあんたっ! 和尚さんに向かってなんて口のききよ
うなんだい、このすっとこどっこい! あっかんべーのヤジロ
ベエだよ、ったくもうっ!」
あー、ま、とやれば誰のセリフかわかるんだが、これが男ばか
り四人の集まりで、四人ともにご年配の大旦那さんてなことに
なりますと、もーわけわからんっ、てなしまつになるわけでご
ざいます。
うん、でね、実際の落語の中の似たようなシーンを観察すると、
男ばかり四人なら間を空けて(距離をつくって)、こっちに二
人、あっちに二人、その双方を二人ずつの会話でまとめるなん
て手法もあるわけで。
神田明神の境内でございます。
こっちに二人、渡海屋さんとピアゴ屋さん。
あっちに二人、越後屋さんとバロー屋さん。
わかりますかねーーー?(笑)
ま、いいや。脳ミソ溶けらぁ。
えー、じつは、ここで悩んでおるわけで。これで三作書いてみ
たんだが、その三作目、男ばっか四人を一か所に集めてしまっ
たために、エライ苦労をしたわけで。
演者のナレーション(語り)を挟まないと誰の言葉かわからな
い。ナレーションが邪魔な場合もありますし、噺にキレがなく
なっちまう。江戸っ子らしく、ぽぽぽーんといきわけで。うん。
そんときね、俺はアタマをぽぽぽーんとハタいておりまして。