FUJI ROCK FESTIVAL'19 (27日)

フジロック振り返り。7月27日(土)

惨状を呈した第一回目に続いてフジロック史上二番目、苗場におけるフジロック史上としてはまさに最悪の荒天に見舞われ、橋は決壊寸前、一部のテントは水没して難民が出るなどした本番2日目。だが、午前中はまだ晴れていていい天気だったのだ。”夜はやばいらしい“とは聞いていたが、まさかあそこまでになると午前中から想像できた人が果たしていただろうか…。

というわけで、午前中はピラミッドガーデンで友達数人と珈琲など飲みながら、Nabowaの音を聴いたり、クロワッサンサーカスを観たり。ピラミッドガーデンは自分が泊っている宿からすぐ近くの場所にあるにも関わらず、なぜか今まで行く機会がなく。今回初めて行ったのだが、子供たちが遊んでたりとかして、長閑でいいですね。フジにあって朝霧的なユル空間というか。珈琲もトーストも美味しくて、今頃だけど気に入っちゃった。自分的にはなんといっても宿に近いのが最高で、朝ご飯食べたあと、珈琲飲むためだけにさくっとそこに行ってまた宿に帰ることもできる。来年からはこの場所でのライブも踏まえての動きをすることになりそう。

一旦宿に戻ってから会場へ。まず、JAY SOM→CAKE→DYGLと観る。

JAY SOM。よかった!   グワーっとギターかき鳴らしたオルタナティブな行き方とポップな行き方の塩梅が絶妙で、轟音きたかと思えばメロウな雰囲気醸し出したり。ルーズ感のあるところなんかはいかにもインディーっぽいんだけど、メインストリームポップ的なところもときどき顔を出したりして。いつか単独来日公演があったら観に行こうと決めた。

CAKE。出演者発表で今年一番驚いたのが、CAKEが出るということ。2005年のグリーン、2011年のホワイト(「ガンバッテ、ニッポン、YOU CAN DO IT!」って言ってくれたとき)に続く8年ぶりのフジ出演だけど、2011年作『Showroom of Compassion』以降アルバム出てなかったし、これといって動向が伝わってこなかったので、てっきり活動休止してるのかと思っていたのだ。なので「え?  CAKE?  なんでいま?」となったわけだけど、あとで調べたら昨年新曲を配信してたんですね。そんなCAKEはライブも最高で大好きなバンドのひとつ。前から(若い頃から)渋いおっさんバンド的な佇まいだったけど、時間が流れた分だけリアルにおっさん化が進んでて、マックレアさんは口髭真っ白。それによって音の(いい意味での)スカスカ感、ルーズなオルタナ感がますます板についた感じになって、あ~、やっぱ最高やわ~、こんな気持ちいいグルーブあらへんわ~、と。マックレアさんは何度も歌の合間にビブラスナップをカァァァァっと鳴らし、かと思えば前回と同じように観客を二分してコーラス合戦させたり。哀愁のトランペットも相変わらずいい味出してたし、ギターはときにロカビリーチックな行き方もしてて、ああ、この時間がいつまでも続けばいいのにと……思っていたら……後半で雨が降り出し、徐々に強まって、最後のほうは大雨に。もちろんかまわずレインウェア着てカラダ揺らしてたんだが、この段階でけっこうウェアのなかに雨が沁み込んできちゃってね。当初はそのあと急いで動けばヘブンのChar×Chaboに間に合うだろうと考えていたんだが、そこでもうこれ以上濡れたくありましぇんと弱気になってしまい。ひとまず屋根のあるレッドに避難。DYGLを観て、音かっけえな、ずっと前に観たときよりもスケール感増してるなとか思いながらも、濡れたカラダが冷えてくるし、足がだるくて座りたくなったりもして(でも座らなかったよ、レッドで椅子出すのは禁止だからね!)……結局そこで僕はホワイトのコートニー・バーネットを観ることを諦め、一度宿に戻ったのだった。

で、温泉つかってしばし部屋でのんびり。そうしてるうちに、楽しみにしてたジョージ・ポーターJRに間に合うよう再出発する気力も失せてしまって……。でもこれじゃいかんと気持ちを新たに、しっかり着こんで宿を出たのが19時半すぎ。負けてたまるかと土砂降りのなか歩いて会場に着き、観たのは以下の通り。

ダニエル・シーザー→シーア→クルアンビン(DJセット)→ゆうらん船→SUNNYSIDE(少しだけ)→君島大空。

ダニエル・シーザー。レッドマーキーの外は土砂降りの雨がバタバタと音を立てていたものの、なかで鳴っているのはこんな環境じゃなければ夢見心地になりそうなメロウなソウル。とろけるグルーブと内省的とも言えそうなシンガー・ソングライターっぽい歌の調和がたまらない。ただ、レーサーやボクサーに自身が扮した映像の意図はよくわからなかった。歌声の魅力と逆方向に行ってる気がしなくもなかったのだが、はて。とにかく改めてクアトロあたりで観てみたい。

シーア。凄いもの観た感。終わったとき、思わず「おおおおお」と声が出た。未だかつて体感したことのない種類のライブ。アートフォームとして、所謂音楽ライブの範疇を超えたものだった。まずステージの端で顔を見せずに直立不動のまま歌うシーアの、その圧倒的な歌唱表現力。 リズムをとったりなんてことは一切しないで、文字通り身動きひとつせず最後までものすごい集中力のまま歌いきる。その情念とも思えるような歌のチカラと揺らぎのなさが破格だった。そしてシーアのドレスのスカートのなかから”誕生した”マディー・ジーグラー始め、男女何人かによる演劇的なコンテンポラリー・ダンス~パフォーマンス。それがシーアの歌と合わさることで、不安、強迫観念といったものがズッシリ重みをもって伝わってくる。ただでさえ、こちらはそれを強い雨に打たれながら、耐えながら、震えながら観ているのだ。ときに暴力的だったり絶望的だったりの映像や痙攣ががった動きを観ながら、カラダもココロも打ちつけられている感覚に襲われた。スクリーン上に映される曲と曲の間の既にある映像はそのままステージ上のダンサーたちが見せる物語に接続され、そのようにして現実と虚構の境目がなくなり、これはいま起きていることなのか作られたものなのかもよくわからなくなるような感覚…。冷静に考える余裕なんぞは豪雨がとっくに奪っているので、なんか僕はただカラダを震わせながら圧倒され続けているという感じだった。ポカーンとなるような最後のアレ含め、いろんなトリックを用いながら練りに練られた1時間20分。これはライブというフォームに対しての挑戦でもあり揺さぶりでもあるのだなと思ったりなんかもして、翌日になってもこのライブのことをぼんやり考えてしまったり。今回のフジの衝撃のひとつ。

雨はやむ気配を見せないどころかますます強まり、シューズのなかはぐっちょぐちょ、レインウェアのなかのTシャツもびっしょり。これほどの強い雨に長い時間打たれるとなるとゴアテックスも効き目がなく意味をなさないことを知る。過酷だ……。が、午後に十分休んだのだし、このまま終えたら後悔する。というわけで、シーアのあとはクリスタルパレステントとルーキーアゴーゴーを行き来。パレステントでのクルアンビンのDJセットも彼らの音楽の成分がよくわかって面白かったが、それよりもルーキーで観たゆうらん船と君島大空、この2組が素晴らしかった。どちらもバンドとしての強度がすごくて、ルーキーというより最早かなり完成されてる感じ。才能溢れまくり。すげえなぁ、若者たち。君島大空はギターの上手さに加え、ある種のカリスマ性も纏っていて、こりゃ注目されないわけにはいかない、人気が出ないわけにはいかないなと思ったし、実際あとでSNS見てわかったんだけど知り合いの編集者やライターの何人かもそのステージを観ていたようだった。あんなにも豪雨だったのに。で、僕もたいへん惹きつけられたわけだけど、個人的には君島大空よりもゆっくり時間かけてジワジワ信者を増やしていきそうな、どこか不器用さも残るゆうらん船のほうにグググっと思い入れることになってしまった。いやもう、曲が死ぬほどいいんですよ。一回観ただけでもうとりこ。東京に戻ってすぐユニオンでCD買っちゃった。都内でライブがあったら観に行こう。

雨は弱まる気配を見せず、水が沁み込みまくった重い靴と足を引きずってヘトヘトになりながらなんとか2時頃帰宿。で、部屋でツイッターなど見てみると、テントが水没して難民状態になった人たちの悲痛なツイートや自棄になったツイート、濁流の写真や映像がたくさんアップされていた。GAN-BAN などで深夜に予定されていたDJも中止とのことだった。っていうか、こんな状態で明日(最終日)のライブは行われるのか?   もしかして最終日丸々中止になるんじゃないか?   そう不安になったりも。どうかみなさんご無事でありますように。そんなこと思いながら過酷すぎた夜を終えた。

1時間+2時間半+4時間半=8時間。

ベストアクトはシーア。あるいは、ゆうらん船。

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