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『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』感想。

2022年2月14日(月)

新宿ピカデリーで、『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』。

ビリー・ホリデイが44歳で世を去るまでの物語だが、アレサの『リスペクト』のように幼少時から順を追って描く伝記スタイルではなく、「奇妙な果実」の背景とその曲を巡る攻防に焦点を当て、そこからビリーの壮絶な人生を浮き立たせた作品。

苛烈な人種差別、同胞からの摂取、政府による抑圧、FBIの仕掛ける罠…。ただでさえ厳しい巡業の上にこれらが乗っかるのだから、そりゃあドラッグと酒に溺れていくのも無理ないでしょうという感じだが、そうした弱さ、痛ましさに反して、「”奇妙な果実”を歌うな」という圧力には決して屈せず芯を通し続けるのが強い。

2017年からのMe Too運動、それに昨年は日本でも東京五輪組織委員会・元会長の発言に対して「わきまえない女」という声あげがあったものだが、ビリーもあの時代に「わきまえない(黒人)女」「屈しない女」として生きた……というような捉え方だ。

『プレシャス』『大統領の執事の涙 』のリー・ダニエルズ監督による演出は少しクセがあり、ビリーの背景を知らないひとには物語に入り辛いところもあって、カタルシスも得にくい。が、みぞおちのあたりにズンとくる重さがある。

なんといってもビリーを演じるアンドラ・デイがいい。『リスペクト』のジェニファー・ハドソン以上に繊細な演技を求められるも、堂々それに応えてみせているという印象だ。芯の強さ表現も、虚無表現も素晴らしい。歌唱っぷりももちろん(時々ビリーというよりエイミーっぽさが出たりもしてたけど)。

横浜赤レンガ倉庫のブルーノートジャズフェスで至近距離でアンドラ・デイのライブを観たのは2016年9月なので、もう5年半前。ステージ上のその佇まいや動きに女優っぽさを感じたものだけど、ほんとにいい女優さんにおなりになって…(これが映画初出演とは思えない)。でも、できるならまたアルバムも聴きたいし、ライブも観たいものだ。


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