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『ナミビアの砂漠』(感想)
2024年9月13日(金)
新宿シネマカリテで『ナミビアの砂漠』。
くらったなぁ。
以下、ざっくりとした感想ですが、物語の核心に触れる記述があるかもなのでこれからご覧になられる方は観たあとで読んでいただければと。僕がそうだったように、どんな話か知らずに観たほうが、やられると思うので。
性格や年齢は違うけどカナ(河合優実)のような傾向/症状を持った女性と昔数年間つきあっていたので、カナのたいへんさ、もがく様も、それをなんとか受けとめたいのだけど受けとめきれずにいるハヤシ(金子大地)のたいへんさも実体験としてよく理解できたし、自分のあの時期を思い出すところもあってなかなかに痛切だった(そういえば昔つき合っていた人もときどき鼻血を出していた)。
前情報をなんにもいれずに観たのでしばらくは、これ、なんらかの展開はあるのだろうか、ただただ河合優実という女優を感じるためだけの映画なんだろうか、なんて思いながら観てたんだが、途中から引き込まれまくって、(自分にとっても)ただごとじゃなくなった。そして終盤でくらいまくり、終わってみると前半の描写や言葉が見事に全部活きていることに気づいて、これはすごいと思った。
監督の山中瑶子さんは今27歳なんだそうな。驚いちゃうね。その年齢であんなにもいろんな映画が血肉になっているんだから。ああ、この描写はあのフランス映画のオマージュっぽいなとか(例えばカナの走り方は『汚れた血』のジュリエット・ビノシュぽいなとか)、この画角はあれっぽいなとか、とにかく相当の数、映画を観てらっしゃるんだなと。それでいて「映画なんて観てなんになるんだよ!」ってなキラーフレーズも言わせるんだからたまらない。現代社会批判めいたこともめっちゃ自然にさりげなく言わせてて。若い人にとって何より重要なのは「生存すること」っていうリアルなそれにもビンビンきちゃった(自分的には「わ、紙ストローか」ってボソっと吐き捨てるところ、好き)。
昔の例えばATG作品の桃井かおりとか烏丸せつことか、気まぐれで奔放な女性が主人公の映画はいくつもあったけど、ああいうのは男性(おっさん)を喜ばせるための機能を持つものであって、それとこれ(『ナミビアの砂漠』)とでは訴える対象も果たす役割も根本的に違う。そのへん含めてこういう女性を主人公にした映画はたぶん日本で初めてなんじゃないかと思うんだけど、これを観て救われた気持ちになる(相手への理解度が深まる)人も絶対多いはずで、(PMSに悩まされる女性と、関わる男性を描いた)『夜明けのすべて』と(深刻なそう鬱の女性と、関わる男性を描いた)この作品が2024年に公開されたことの意味って大きいよなぁ、とか思ったりも。
多くの男性には少なからず「振り回されたい欲」と「守ってあげたい欲」の両方があると僕は思っていて、カナみたいな女の子は意識的であれ無意識であれそれを発動させてしまう何かがあらかじめ備わっていたりもするわけだけど、でもこの作品のカナは、例えば『ベティ・ブルー』のベアトリス・ダルみたいなファムファタールなそれではなくて、暴力性もあるけどめっちゃ芯が通ってて彼女のなかでは曲がったことが嫌いで(それがわかるセリフもけっこう散りばめられている)。これはきっと山中監督自身がそうなんだろうけど、なんというか映画としてもある種の気品があるのがいいんですよね。
タイトルを出すタイミングとかルームランナーの描写とか相当斬新なところもありつつ、映画の魔術をすげぇわかってんだなぁこの監督、とかも思ったり。音楽、というか、音の鳴らし方も見事だし。
あと、河合優実さんのリアルな存在感・魅力は言うまでもないけど、登場場面が少ないなかでそれに匹敵するレベルの存在感を印象付けた唐田えりかさんもすごい。まもなく『極悪女王』も始まるし、ようやく彼女が女優として正当に評価されるときがきますね。『寝ても覚めても』で唐田さんにやられた僕としてはそれもたいへん喜ばしいことです。
“甘いのとしょっぱいのが嬉しい“傑作。