【20.水曜映画れびゅ~】"Two Distant Strangers"~最も恥ずべきことは人の痛みへの無関心である~
"Two Distant Strangers"は2021年からNetflixで配信されている短編映画で、先日行われた米アカデミー賞にて短編実写映画賞を受賞した作品です。
4月22日放送の「町山智浩のアメリカの今を知TV In Association With CNN」(BS朝日)でも紹介されていました。
あらすじ
※日本語字幕のないトレーラーです。
ジョージ・フロイドの死に触発されて
本作の主題は「黒人に対する白人警官の理不尽な暴力」。
近年注目を集めるBlack Lives Matter運動(以下”BLM運動”)において焦点が当てられている問題です。
特に昨年の5月には、アメリカ ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイド氏が無抵抗にも関わらず白人警官に押さえつけられ、頸部を圧迫されて死亡。
その一部始終をとらえた映像が世界的に拡散され、BLM運動はこれまで以上に激化しました。
本作『隔たる世界の2人』の共同監督の一人トレイヴォン・フリーは、フロイド氏の事件から2か月後に脚本の執筆を開始。
本作には、劇中で主人公が白人警官に暴行を受ける際”I can't breathe.”というセリフを繰り返すなど、ジョージ・フロイド事件を思わせる部分がいくつかあります。
黒人差別問題の「暗いニュース」と、「明るいニュース」
このように現在も続くBLM運動ですが、ここ数週間いろんな意味で再び注目を集めています。
暗いニュース
あまりよくない意味での注目としては、今月11日にジョージ・フロイド氏の事件が起きたミネソタ州(ブルックリン・センター)で再び警官によって黒人男性のダンテ・ライト氏が射殺されてしまいました。
警官はテーザー銃(スタンガン的な銃)を使用しようとしたところ誤って発泡してしまったと報道されていますが、たとえそうだとしても命を奪ったことは変わりなく、同じような事件が起きたことが残念です。
ちなみにこの事件のような、警官の過失による黒人の死亡事件というのは過去にも多くあります。
そしてそういった側面も『隔たる世界の2人』に反映されています。
明るいニュース
一方明るいニュースとして、ジョージ・フロイド事件の評決が確定。
白人警官に有罪判決が下されました。
「あれだけの事件なのだから有罪になって当然」と考える人が多いかもしれないですが、歴史的に言えば白人による黒人への暴行事件は無罪になることが多いです。
実際のところ今回の判決はBLM運動による影響が大きかったとも言われており、もしここまで抗議活動が激化していなかったら有罪判決を勝ち取れていなかったかもしれません。
そういう意味では黒人差別問題の大きな進展ともいえます。
しかしその一方で、プロテニスプレイヤーで黒人差別問題に関心の高い大坂なおみ選手はTwitterにて「こんな当たり前のことが喜ばれるのは、悲しい」と投稿し、黒人差別問題の根本の解決にはまだ時間がかかることを示唆しました。
『最も恥ずべきことは人の痛みへの無関心である』
前述したように、本作『隔たる世界の2人』は先日行われた第93回 米アカデミー賞にて短編実写映画賞を受賞しました。
日本でも本国アメリカでも、ちょっとスポットライトが当たりにくいカテゴリーではありますが、その受賞スピーチでのトレイヴォン・フリー監督の言葉が非常に私の心に刺さりました。
よく日本でのBLM運動のデモ行進を撮った写真で「対岸の火事じゃない」というプラカードを目にします。
それは、多くの日本人が人種差別問題に無関心であるゆえだと思います。
しかし日本国内にも人種差別問題はあり、多くの人々が無意識にそのような人々を傷つけている現状があります。
フリー監督が言うように、まず私たちはその無関心から抜け出してその痛みを想像しなければいけないと思います。
その第一歩として、本作をご覧になることをお勧めします。
前回記事と、次回記事
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次回の記事では、日本人作家の東田直樹著作『自閉症の僕が跳びはねる理由』を原作としたドキュメンタリー映画"The Reason I Jump"について語っています。