【67. 水曜映画れびゅ~】"Belfast"~そこには、愛すべき故郷がある。~
"Belfast"は、先週末25日から日本公開されている映画。
今週28日(日本時間)に行われた米アカデミー賞において作品賞・監督賞を含む7部門にノミネートされ、脚本賞を受賞しました。
あらすじ
ケネス・ブラナーの自叙的物語
本作で監督・脚本、そして製作も務めたのがケネス・ブラナー。
シェイクスピア俳優として舞台で活躍し、1989年公開の映画『ヘンリー五世』では監督・脚本・主演を務め、29歳にしてアカデミー監督賞と主演男優賞にダブルノミネートされました。
その後も俳優・脚本家・監督としてマルチに活躍し、近年ではアガサ・クリスティ原作の「名探偵ポアロ」シリーズを映画化した『オリエント急行殺人事件』(2018)と『ナイル殺人事件』(現在公開中)で監督兼主演を務めていることでも有名ですね。
今回の映画は、そんなブラナーの自叙的作品。
自身の故郷ベルファストを舞台に、幼少期の想い出を描いた物語です。
北アイルランド問題に揺れたベルファスト
今回の舞台となったのは、1969年のベルファスト。
当時、その地は北アイルランド問題に揺れていました。
イギリス領地となっている北アイルランドは、イギリスから独立したアイルランドとは別に存在する地域。
北アイルランドはイギリスの植民地下の頃に移住してきたプロテスタント信者が多い一方でアイルランドはカトリックが多数派の国であり、そのような宗教上の違いが併合されていない大きな要因のひとつとなっています。
そしてアイルランド併合を望む少数派のカトリックとプロテスタントが北アイルランドで対立し、1960年代後半からおよそ30年もの間、紛争状態にありました。
北アイルランドの首都であるベルファストも対立による暴動が多発し、多くの住民が「町に残るか、町を去るか」を迫られました。
大好きな町
本作では、当時のベルファストの状況が9歳の少年バディの視点で描かれます。
そこに描かれたのは、紛争による混乱というよりもベルファストへの愛。
誰もが顔なじみであり、誰もがお互いを気遣い合う。
決して大きな町ではないけれども、そこには家族や友達、大好きな人々がいる。
そんな愛すべき日常を目にして、住んだことも行ったこともないのに私もベルファストという町が大好きになりました。
その一方で、避けては通れない紛争という残酷な現実。
大好きな町に残るか、安全のために去るべきか…
そんな葛藤は、ベルファストという小さな町への愛が詰まっているからこそ心に迫るものがありました。
白を基調とした温かい映像
哀愁たっぷりのモノクロ映像で描かれる本作。
ケネス・ブラナーが遠い昔を思い出しながら語り掛けてくれているような感覚を抱きました。
また、画面を占める白色の割合が常に多かったことが印象的。
モノクロのなかで、鮮やかに映える白。
そんなカラーリングで映し出されたベルファストという温かい町と、バディを包み込む温かい家庭。
そんな情景を描き出した本作は誰もが愛したくなる素敵な映画で、私個人としても指折りの好きな作品です。
映画と現在と重ねて…
ということで今回は、愛すべき町を舞台にした物語『ベルファスト』を紹介させていただきました。
映画でも描かれますが、最終的にベルファストからは宗教対立により多くの人々が去りました。
争いにより愛している故郷を去れなければならないというのを想像してみると、本当に辛いです。
私なら絶対に嫌です。
でも、現実問題としてそういった状況下にある人々はいます。
特に現在、ウクライナの人々が生まれ育った町そして国を去らなければいけない状況下に陥り、途方に暮れています。
どれだけそのことが辛いかは想像を絶しますが、可能な限り私たちも支援し、また日本も傍観者となることなく、多くの避難民を受け入れてほしいです。
前回記事と、次回記事
前回投稿した記事はこちらから!
これまでの【水曜映画れびゅ~】の記事はこちらから!
来週は、超傑作なのに今回のアカデミー賞で何もノミネートされなかったミュージカル映画"In the Heights"(2021)を紹介しようと思います。
お楽しみに!