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【167.水曜映画れびゅ~】『ラストマイル』~壊れていたって、構わない~
『ラストマイル』は、先月から公開されている映画。
TBSドラマ『アンナチュラル』と『MIU404』で描かれた世界線と繋がる“シェアード・ユニバース・ムービー”です。
あらすじ
11 月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、
世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく――。巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナは、チームマネージャーの梨本孔と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。
誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?
残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?
決して止めることのできない現代社会の生命線 ―世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?すべての謎が解き明かされるとき、この世界の隠された姿が浮かび上がる。
ブラックフライデーの前夜に
事件はブラックフライデーの前夜に起きた。世界規模のショッピングサイトであるデイリーファスト社から発送された荷物に小型爆弾が仕掛けられ、殺傷事件が起きたのだ。その後も、デイリーファスト社からの荷物が次々と爆発し、警察は連続爆破テロと見て、捜査に動き出した。
爆発した荷物は、全てデイリーファスト社の西武蔵野の物流センターから発送されたものだった。そこでは、ブラックフライデーの日から新しく着任した舟渡エレナがセンター長を務めていた。
物流センターからの発送の停止を警察は要求するが、エレナは社への損害を防ぐために、強引な手法でその要求を突っぱねる。
利益と生命…。その間で対立するなかで、ある人物が犯人として捜査線上に名前が挙る。それは、元デイリーファスト社員の男性だった。
『アンナチュラル』と『MIU404』と繋がる
2018年に放送されたTBSドラマ『アンナチュラル』、2020年に放送された同じくTBSドラマ『MIU404』。この2つのドラマと同じ世界線で描かれるのが、本作『ラストマイル』です。
同2作のドラマで脚本を務めた野木亜希子が脚本、そしてドラマに演出として携わっていた塚原あゆ子が監督を務めています。さらに2つのドラマに出演していたキャストも同じ役で出演するという、今までに類を見ない“シェアード・ユニバース・ムービー”が誕生しました。
大反響を呼んだ2作のドラマからオールキャストが再び集結して、1つの映画が作られる。『アンナチュラル』から引き続き出演した市川実日子が「撮影はご褒美のような時間だった」と語っていましたが、『アンナチュラル』と『MIU404』という素晴らしいドラマを愛した視聴者にとっても、ご褒美のような作品です。
「2024年問題」の渦中にいる私たちへ
『アンナチュラル』と『MIU404』両作品では、社会問題がテーマとなる回がいくつもありました。
過労死、誹謗中傷、イジメ、少年法…。
そんな現代社会にメスを入れるような物語を生み出してきた野木亜希子が本作でテーマとして描いたのは、物流問題でした。
トラックドライバーの時間外労働の上限規制により、輸送能力が不足することが懸念された今年2024年。勤務状況や賃金上昇は改善が間に合わず、ドライバー不足は喫緊の問題となる一方で、便利なショッピングサイトのユーザーからの注文は制限なしに増え続けています。そんな2024年問題の渦中にいるにもかかわらず、平然と便利な生活を享受する私たちへの強烈なメッセージが本作からは伝わってきます。
ポチっと押してから商品の発送されるまで、どれだけの人間がそこに携わっているか?安い商品、安い配送料の裏でどれだけの人が搾取を受けているのか?不在連絡票1枚がどれだけ配送業者の負担になっているか?
この映画を観た後、私はそんな想いを巡らしました。
壊れていたって、構わない
そして本作において語らずにはいられないのは、主題歌。『アンナチュラル』の「Lemon」、『MIU404』の「感電」に引き続き、米津玄師が主題歌を担当しました。
タイトルは「がらくた」。私は映画鑑賞前にこの曲を聴いて感銘を受け、以下の記事を投稿しました。
「壊れていたって構わない」
そんな風な歌詞が歌い上げられます。
私は会社に勤めていた時、過労で倒れ、それから約1年間、何もかも手つかずになってしまうほど精神が落ち込んだ時期がありました。当時は「自分が壊れた」と思いました。そんな自分の姿は劇中の登場人物とも重なり部分があり、胸が苦しくなりました。
そんな時に、この曲の歌詞が頭をよぎりました。
壊れることは悪いことではない。元に戻らなくってもいい。
自分ひとりで背負い込んではダメだ。自分を責めなくていい。
そんな風に包み込んでくれるこの曲がエンドロールで流れた時、自然と涙を流しました。
・・・
最後に。
この作品は様々な伏線が張り巡らされており、ちょっとした違和感が映画に散りばめられているようです。劇中では明らかにされないレベルのこともあり、そういったことを考察されている方もいらっしゃいます。
例えば、この動画。
本作は舟渡エレナを中心としながらも、多くの人々の想いが交差する群像劇となっています。色々な視点で物語を見ていくことで、様々な側面が見えてくると言えます。それも全て計算済みというなら、いやはや野木亜希子 恐るべし。
ドラマから始まり、1つの映画を完成させたことはある種の到達点かもしれませんが、欲を言えばさらなるシェアード・ユニバースの広がりも期待したいです。
前回記事と、次回記事
前回投稿した記事はこちらから!
これまでの【水曜映画れびゅ~】の記事はこちらから!
次回の更新では、『聲の形』(2016)で知られる山田尚子監督の最新作『きみの色』を紹介させていただきます。
お楽しみに!