マッチングアプリで会った子にぼったくりバーに連れて行かれた話(7)
ゲームをしながらここまでの話を整理して、頭の中でRのプロファイルを組み立てていく。
一見すると我が強いタイプに思えるが、先天的というか本質的な部分では流されて生きてきたタイプに見受けられる。
後天的にというか周りの影響を受けて、我の強いタイプの真似をしている印象。
このタイプは表面だけ見ると自分の意見を言ってるっぽくはあるが実際には意思決定権をどこか別のところに委ねているので、本当に自分で考えた自分の意見を述べるタイプよりも盲目的で融通が利かない。
サンプルデータがひとつしかないとかエビデンスゼロの誰かの意見を絶対的なものと信じ込んで他の人の意見を否定しがちだったりする。
幸いにも考え方は人それぞれというインプットもあったりして他者を否定することはまではしなかったりするが、自分の主張という皮を被った誰かの意見を絶対に譲らない。
自分自身ではなく我の強い何者かを演じているからこそ、柔軟性に欠けており折れることをしないのである。
そして実際には人と意見交換をできるほどの頭もないので、考え方は人それぞれという否定しようのないありふれた一般論で逃げて会話を終わらせて、自分が優位になっている気分を維持しようとするのだ。
下手に他人に憧れたりなんかせず素直に自分の意見はありませんでほんわか生きてたほうが穏やかに生きられるだろうに、社会に毒されてしまったんだろう。
トマトをメロンにみせようとするからにせものになるんだよ。
滑稽だね。
もちろん意見のぶつけ合いみたいなことをしたわけではないが、そんなタイプに感じる。
世の中には意見を言い合うことを楽しむタイプも一定数いて、お互いに我を出すことで仲良くなるパターンも確かにあるのだが、今回はそれは悪手だと見抜いたからこそ僕は相手の価値観に合わせたことしか言わない。
相手の価値観に合わせるために、相手の話をしっかり聞くのだ。
店の中でも小さいRの声に耳を傾けながら酔いの回った頭で頑張って話を聞いて、印象に残っていたエピソードは2つ。
誰かに尾行されていたら気付くという話と、最近財布を失くしたという話。
なぜ印象に残っていたかと言うと、あとになってその話の意味を理解したからである。
まず尾行されていたら気付くという話。
以前マッチングアプリで会った男に解散後に尾行されたが、自分はそういうのに気付けるからタクシーに乗って逃げたエピソード。
これは尾行すんなよって意味だ。
これからぼったくるけど警察に言うために自分の住所とかを特定しようとしても尾けられたら気付くからなと。
次に財布を失くした話。
すぐに見つかって今は友達の家にある、取りに行けば金はあるから今回は立て替えてと。
これはもちろん、現金もキャッシュカードもねえよこれからぼったくるけど自分に頼るなよ残念だったな、の意である。
当然、ゲームしながら話を聞いているこのときの僕はその意味には気付かない。
ただの雑談のネタとして受け取り、どうやって尾行に気付くのかとか深堀する質問をしていたくらいだ。
終盤、次は焼肉を食べに行こうとRから提案をされた。
行きたい焼肉屋があるんだとか。
僕は自分の話はほとんどしていないが、相手のNGを踏まないという方針が功を奏したのか、お気に召してもらえたらしい。
名刺がほしいとまで言われることはそうそうない。
もちろん会社に電話入れてくるようなメンヘラとかサイコパスみたいなやべー女も一定数いることを僕は知っているので、そういう情報は相当仲良くなったとしても渡さない。
それなりに仲良くなると女性側から次回のデートの日程を詰めてきたり食事代を支払ってくれたり名刺を求めてきたりすることがちょいちょいあるが、女性側にもデートのマニュアルかなんかあるのだろうか。
初対面の女性に名刺を渡す男なんかどうせバーチャルオフィスでしょっぱいことやってる奴だろうから名刺を求めるという項目はマニュアルから消したほうがいいと思うが、案外警戒心なくステータス誇示のために名刺を渡してしまう重役なんかもいるのだろう。
会社に誹謗中傷の電話を入れるやばい女、母親がそうだったから僕にとっては身近な話だが、世間一般にはそういう女こそ考慮するに値しないくらい少数なのかもしれない。
今回Rは財布がないからここは僕が出すが、次回の焼肉はRがごちそうしてくれるらしい。
こんなろくなフードもない飲み屋より絶対焼肉のほうが高くなるだろう。
得した気分だ、やったね。
少なくとも相手からまた会いたいと思ってもらえる程度には好感度を上げられていて、次に会う約束もした。
途中素が出てしまって何度もゲームに付き合ってもらったがNGではなかったようで結果オーライ。
悪くない戦果だ。
やっぱり自己主張してくれるタイプは話を聞いて相手に合わせていればいいから得意だな。
今日のところはこんなもんでいいだろう。
バーテンダーのおっさんに会計の意を伝え、伝票を持ってきてもらった。