星の王子様 読書記録 第5節 バオバブの話
星の王子様の著作権は2005年に切れました。ここは私のフランス語学習の場であるとともに、文学を考える場です。
🌈訳
毎日、僕はその惑星のことについて、その出立のことについて、その旅路のことについて学んだ。その過程はとてもゆっくりで、出てきた言葉の断片(ちょっとした言葉)次第であった。そうして、3日目に、僕はバオバブの悲劇を知った。
この時も羊のおかげだった。なぜなら、まるで、ある重要な疑問を感じたように、王子様が唐突に僕に尋ねてきたから。
<羊が低木を食べるというのは、本当だよね?>
ーーうん。本当だよ。
ーーああ!よかった!
🌈単語
✅arbustes 男性名詞 arbusteの複数形 (10メートル以下の)低木、灌木
✅connus connaîtreの過去分詞 形容詞 知れ渡った 周知の ありふれた
✅content 形容詞 …に満足した うれしい、楽しい
✅départ 男性名詞 出発:発車:出航:始まり:開始:辞職:辞任
✅drame 男性名詞 惨事、悲劇的事件
✅doute 男性名詞 疑い
✅hasard 男性名詞 思いがけない出来事 偶然 運命
✅réflexions 女性名詞réflexionの複数形 熟考 考え 小言
🌈熟語
au hasard でたらめに、あてずっぽうに
au hasard de qn/qc[de+inf.] ・・・しだいで、・・・のままに
chaque jour 毎日
fois-ci 倒置形
grâce au grâce à leの短縮形だが、grâce àが大事
(良い結果について)・・・のおかげで、をつかって
quelque chose 何か
n'est-ce pas ~ですね? 英語でいう~ don't you? ~ですね?
cette fois-ci encore この時も
🌈語法
✅doute
多くは複数で⇒疑い、疑念;不信
多くはle~で⇒疑っている状態;迷い
✅grâce au
悪い結果の場合は、par la faute de, à cause de を用いる。
🌈訳
僕はなぜ羊が低木を食べることがそれほど重要であるのかということについてわからなかった。でも王子様はさらにこう言った。
<それなら、バオバブも食べるよね?>
僕は王子様に、バオバブは低木ではなく、教会のような大きな木であること、彼が象の群れでも連れて行かない限り、象の群れでも、たった一本のバオバブの木の先端には達しないことを指摘した。(⇒訳の苦労話)
🌈単語
✅arbres arbreの複数形 男性名詞 木
✅bout 男性名詞 端、先端、先、限界 外れ 果て、終わり、終末
✅églises égliseの複数形 女性名詞 教会、教会堂 聖堂
✅éléphants éléphantの複数形 男性名詞 象
✅remarquer …に注目する、気づく
✅troupeau 男性名詞 群れ
🌈熟語
✅par conséquent したがって、それゆえに
✅faire remarquer (à qn) qc [que + ind.](・・・に)…に付いての注意を促す。指摘する。
✅même si ind. - si même ind.
たとえ・・・でも、・・・であるにせよ
Même si je prends un taxi, je serai en retard.
タクシーに乗ったところで、間に合わないだろう。
✅venir à qc qcの高さに達する、至る、及ぶ
✅venir à bout de qc/qn
(苦労して)・・・に成功する、をやり遂げる;(敵・困難などに)打ち勝つ
🌈語法
troupeau 動物の群れ 特に羊。
人に使うと、悪い意味になる。 群衆。
🌈訳
象の群れの考えは、王子様を笑わせた.
<象を積み重ねなくちゃいけないね。>
でも、彼は賢くも指摘してきた。
<バオバブは、大きくなる前は、小さい状態から育っていくよ。>
<その通り!でも、どうして君は小さいバオバブの木を羊に食べてほしいの?>
🌈単語
✅sagesse 女性名詞 賢明さ;良識;知恵;英知;おとなしさ;節度
✅grandir 自動詞 大きくなる、成長する 増大する
🌈熟語
✅commencer ・・・qc par qc/inf. ~を~から始める。
🌈訳
彼は答えた。
<えっ!ちょっとちょっと!>まるで、彼はそれを自明の理であるかのようにふるまった。そして、僕は、そのたった一つの問題を理解するのに、かなりの知力を必要とした。
🌈単語
✅agissait agirの直接法半過去形第3人称 行動する
✅ben 副詞 えっ、まぁ、ねぇ。俗語 bienの変形
✅évidence 女性名詞 明白さ、確実性;自明の理
✅effort 男性名詞 努力、頑張り 労力
✅intelligence 女性名詞 知性、理解力、優れた知性の持ち主
✅seul 形容詞 ただ一つの、唯一の 一人きりの 孤独な、独特の
✅Voyons! (相手を非難するように)こら、さあさあ、まあまあ。
🌈熟語
🌈構文
✅il s'agir 非人称構文
①(新たな話題の提示)<Il s'agit de qn/qc>…が問題である。話題は・・・のことである。
②(既出の話題についての説明)<Il s'agit de qn/qc>それは・・・である
③<Il s'agit de +inf.> ・・・することが必要である、重要である
✅effort de + 無冠詞名詞
・・・の努力
Faites un petit effort d'imagination.
少し創造力を働かせなさい。
🌈語法
✅il s'agir 非人称構文
①deの後に、代名詞や定冠詞、所有形容詞、指示形容詞+名詞が来ることが多い。
②là、alors,parfois, peut-être, pour qnなどの副詞(句)を伴うことがあり、deの後には多く<不定冠詞+名詞>が来る。
③maintenant, surtout, coûte que coûteなどの副詞(句)を伴うことがあり、また不定詞の意味上の主語を示すには、pour qn, de la part de qnなどの表現が使われる。
🌈訳
つまり、王子様の惑星には、全ての惑星のように、良い草と悪い草がある。従って、良い草の種子と、悪い草の種子がある。でも、その種子は目に見えない。種子たちはそのうちの一つがふとその気になって目覚めるまで、地面の中で眠っている。それから、それは伸びをして、始めは美しくて小さい、無害な小枝を太陽に向かって伸ばす。かぶとか、二十日大根の小枝であるのならば、好きなように伸ばさせておけばいい。でも、悪い植物だと問題で、それだとわかるとすぐに、即刻引き抜かなければならない。王子様の惑星には悪い種子があり、それがバオバブの種子だった。植物の土は、それに荒らされる。それは全ての植物の場所をふさぐ。もしあまりにも遅いと、もう誰も引っこ抜くことができない。その惑星がとても小さくて、バオバブがとても多いと、惑星は破裂してしまう。
🌈単語
✅arracher ・・・を根こそぎにする;引き抜く もぎ取る、引きちぎる
✅brindille・・・ 女性名詞 小枝、細枝、(植物の)切れ端、小片
✅débarrasser ・・・(…を取り除いて)…を片付ける、すっきりさせる、(邪魔なものを)・・・から取り除く
✅dès・・・(時間)・・・からすぐに、早速;からすでに、もう
(順序、階級)・・・から
(場所)・・・からすでに
✅effet 男性名詞 結果、効果、影響 ・・・現象、ブーム 実行、履行
✅encombrer [場所]をふさぐ、混雑させる ・・・の邪魔になる
✅étire 引き伸ばす、伸ばす、散らす、弱める
✅éclater 爆発する、破裂する 分裂する 分割される
✅fantaisie女性名詞 (創造的)空想力;奔放な想像力 気まぐれ;
✅herbes 女性名詞 herbeの複数形 草
✅nombre ((多く複数名詞の前で))多くの、多数の
✅graines 女性名詞 graineの複数形 種子
✅radis 男性名詞 ラディッシュ 20日大根
✅racines 女性名詞 racineの複数形 根 地下部 根源、大本、根底
✅rosier 男性名詞 薔薇;バラ科バラ属
✅réveiller ③事物を活発化させる
✅reconnaître (前に見聞きしたので)…がそれとわかる、記憶にある、を覚えている。・・・を識別する。見分ける;確認する;特定する
…を認める、承認する;調和する。
✅sol 男性名詞 地面 地表 床 土壌 土質 所有地 地所 土地
地方 国
✅secret 男性名詞 秘密
✅su savoirの過去分詞
✅tard 副詞 (普段、定刻より)遅く、遅れて 遅い時期に (タイミングとして)遅い;時刻が遅い
✅timidement 副詞 遠慮がちに;臆病に、おどおどして;はにかんで
✅pousse 女性名詞 (植物が)生えること、発芽;(歯、髪などの)成長
動詞 pousserの第1人称現在形 第3人称現在形 植物が枝などを伸ばす
✅plante 女性名詞 植物;草本 ((複数で))植物界;植物相
✅perforer ・・・に(小さい)穴をあける、パンチを入れる;穿孔する
✅infesté infesterの過去分詞 形容詞 …に荒らされた、の横行する
✅inoffensive 形容詞 inoffensif 害を及ぼさない 無害の
🌈熟語
✅en effet
すなわち;したがって、というのも
もちろん;確かに
古:実際には、事実は
✅il lui prend la fantaisie de qc/inf.
ふと・・・したくなる
🌈訳
生活規則の問題でね。ずっと後になって王子様が言った。朝のお化粧を済ませて、惑星の掃除をしなければならない。生えたばっかりの時にはとっても良く似ているバオバブと、薔薇を見分けるとすぐに、バオバブを引っこ抜かなければいけない。とてもうんざりするような仕事だけど、とても簡単だよ。
🌈単語
✅astreindre …を強いて…に従わせる
✅discipline 学科;規律;生活規範
✅distingue distinguerの第1人称現在形…を区別する 見分ける 識別する
✅ennuyeux 形容詞 退屈な うんざりさせる
✅travail 男性名詞 仕事 職業 労働
✅terminé terminer…を終える、完了する を終了する の最後を過ごす
✅toilette 女性名詞 (人前に出るための)身づくろい;身支度;化粧、改装、清掃、手入れ
✅soigneusement 副詞 丁寧に 念入りに
✅ressembler …に似ている、類似している [性格、行動などが]似つかわしい
✅régulièrement 正式に、合法的に 規則正しく、一定して 定期的に;決まって;きちょうめんに;まじめに
🌈代動名詞
✅s'astreindrer 努めて・・・に従う
🌈熟語
✅distinguerA(de, d'avec + B)Aを(Bから)分ける、特徴づける
🌈訳
ある日、彼はいい絵を上手に描くことに一生懸命になるアドバイスを僕に勧めた。僕の国の子ども達の頭にそれを入れるためだ。彼は僕に言った。もし彼らが一日旅行するのなら、それは彼ら自身に役に立つだろう。時折仕事をずっと後に先延ばしするのもそう困ることにはならない。でも、バオバブの問題であるならば、常に喫緊の課題だ。僕は怠けものさんが住んでいる星を一つ知ってる。3つの低木を放っておいたんだ。
🌈単語
✅appliquer ・・・に[ペンキ、膏薬など]を塗る、張る、押し当てる。
(建造物など)に・・・をくっつける、取り付ける、立てかける
✅catastrophe・・・女性名詞 大惨事、不幸、厄介ごと
✅conseilla conseillerの単純過去 ~に・・・を勧める、推奨する 忠告する
✅entrer・・・入る (仕事・職に)就く;(ある身分、境遇に)なる;(団体などに)参加する
✅inconvénient 男性名詞 不都合、支障、差し障り 難点、短所、欠点
✅négligé negligerの過去分詞 …に気を遣わない …を顧みない、無視する、見逃す
✅réussir・・・・成功する うまくいく 植物が育つ、繁茂する
✅remettre・・・⑨延期する
✅paresseux・・・名詞 男性形 怠け者
🌈代動名詞
✅s'appliquer …を自分の体に塗る、…に適用される、応用される、当てはまる、適応する、適合する。専念する、一生懸命になる。張り付く、くっつく 自分のものにする 横取りする
✅se conseiller …に助言を求める、相談する
🌈熟語
✅appliquer qc à qc/qn [原理・原則・方法など]を・・・に適用する;応用する、活用する、役立てる
✅conseiller de inf ~するよう勧める
✅remettre à plus tard son travail …するのをずっと後に伸ばす
✅négliger de inf …するのを怠る
✅entrer une idée dans la tête ある考えを頭に入れる
✅chez moi 我が家
🌈訳
それから、王子様の指示に基づいて、僕はその惑星を描いた。僕はあまり道徳家の話しぶりは好きじゃない。でも、バオバブの危険性はあまり知られていなかったし、小惑星上で誤った方向に進む(バオバブをほったらかしにするような)人々によるわかり切ったリスクはすごく重大なことだから、一度だけ、僕は僕の慎みのある態度に特例を設ける。僕は言った。:<君たち、バオバブに気をつけて!>僕がうんとその絵を練習したのは、長い時間を経た後で、僕自身のようにその危険性を知ることなく、彼らが直面する危険について、警告するためだ。
あなたは自問自答するだろう。本の中では、どうしてバオバブの絵と同じくらい堂々とした絵がないのか?答えは至って単純だ。試してみたけど、うまくいかなかったから。僕がバオバブを描いた時、僕は焦って駆り立てられていた。
🌈単語
✅attention 女性名詞 注意、関心、集中、緊張、用心
複数で 思いやり、新設、いたわり、配慮
✅avertir ・・・に知らせる;警告する、注意する
✅animé・・・animerの過去分詞 ・・・を活気づける いきいきさせる
✅courus courirの過去分詞 走る、かける 急いでいく 複数形 評判の、人気のある
✅considérables 形容詞considérableの複数形 (大きさ、量、程度などが)かなりの、著しい、相当な
✅danger 男性名詞 危険、危険性、懸念
✅depuis 前置詞 ・・・から ・・・以来、 ・・・・前から、場所、範囲・・・から
✅donnais donnerの直接法半過去形第1人称
✅égarerait égarer ・・・を道に迷わせる ・・・を置き忘れる、見失う・・・だます、惑わす、(正しい方向から)そらす
✅Enfants! 呼びかけで 君!
✅exeption 女性名詞 除外;例外、特例
✅frôlaient frôlerの条件法第3人称複数形 ・・・に軽く触れる、…すれすれに通る (20世紀初頭)・・・を危うく免れる、もう少しで・・・する
✅guère 副詞 ne・・・ ほとんど・・・ない あまり・・・ない
✅grandioses 形容詞grandioseの複数形 雄大な、壮大な、堂々とした、威厳のある
✅indications indicationの複数形 女性名詞 表示 指示、指図、命令 しるし、兆し、表れ、情報、通報
✅leçon 女性名詞 講義、授業 稽古、レッスン、忠告
✅moraliste 名詞 モラリスト、人間研究家 道徳家
✅moi-même 自分自身
✅réponse 女性名詞 返事、応答、答え 返事 返信
✅risques 男性名詞 risqueの複数形 危険;危険性;脅威;おそれ
✅sentiment 男性名詞 感情、気持ち 認識、印象;意識 感性、感受性、感覚 意見、判断、視点
✅ton ②男性名詞 声の高さ、話しぶり、調子 物腰、態度、活力
③英語の計量単位 トン;ヤード・ポンド法による質量の単位 2240ポンド(約1016キロ)英トン、英国ではロングトンともいう。
✅urgence 女性名詞 緊急、急迫、切迫
✅réserve 女性名詞 予備 備蓄 美術館の収蔵品、非公開作品 慎重;遠慮 美術:デッサンで描き残した部分;水糊の上に着彩し、後で糊を取る)かき残し法
✅valait valoirの直接法半過去形第3人称 ~の値段である、値打ちがある 価値がある
🌈代動名詞
✅se demander 自問する
✅s'égarer 道に迷う なくなる 行方不明になる 本題からそれる 自分を見失う
🌈熟語
✅faire attention 気を付ける、注意する、用心する
✅valoir la peine de ~する価値がある
🌈文法
✅La leçon que je donnais en valait la peine
valoir la peine deの、de以下がenになっている。
僕が与えた警告は、それだけの価値があった。
それとは、一度だけ、そのための作品を描いたこと。
🌈語法
✅attention 単数で用いるのは古用あるいは文章語
✅depuis depuisは、過去、現在について用いられ、未来についてはà partir de, dèsなどを用いる。
✅courir 人や動物が主語の時は、 走る 駆ける 急いでいく
ものが主語のときは、早く動く 進む 流れる あちこちに広まる 伝わる;流行する
🌈訳の苦労話
今回は特に訳が難しかった。そして、個人的に日本語の翻訳文を読んでも、何言ってんだろうな?と思ったことのある節だった。今回その理由が分かった気がする。そもそも訳しにくいのだw
✅Je fis remarquer au petit prince que les baobabs ne sont pas des arbustes, mais des arbres grands comme des églises et que, si même il emportait avec lui tout un troupeau d'éléphants, ce troupeau ne viendrait pas à bout d'un seul baobab.
viendraitは、venirの条件法第3人称である。venir à bout de で、(苦労して)・・・に成功する、をやり遂げる;敵・困難などに打ち勝つ、という意味だ。
これをそのまま使うと、その象の群れは、たった一本のバオバブの木に打ち勝つこともできない。という意味になる。この場合打ち勝つと言うのは、低木であった頃に引っこ抜くというくらいだから、バオバブの木を根こそぎ倒す、という意味である。
しかし、この文は、次のように訳すこともできる。boutは、先端という意味があるので、venir à qcで、qcの高さに達する、至る、及ぶと言う意味があるのだ。となれば、象の群れでも、たった一本のバオバブの木の先端には達しない、という訳ができるのである。
さて、一体どっちが正しい訳だろうか。ヒントは、その後の王子様の台詞である。
<Il faudrait les mettre les uns sur les autres…>
象を重ね合わせなくちゃいけないね。
この訳が正しいことは、星の王子様に描かれている挿絵からも理解できる。
本当に象の上に象が乗っているからだ。ということは、正しい訳は、「象の群れでも、たった一本のバオバブの木の先端には達しない」
ということになる。
個人的には、最初はこちらの訳だとは思わなかった。なぜならば、高さが問題となっているのに、象の群れを連れてきてどうするんだろう?と思ったからである。あえて動物を連れてくるなら、キリンがいいだろうとか・・・。
✅C'est pour avertir mes amis d'un danger qu'ils frôlaient depuis longtemps, comme moi-même, sans le connaître, que J'ai tant travaillé ce dessin-là.
avertir mes amisで、僕の友達に警告を与える(ここでは、mes amisと複数なので、王子様だけのことではない。)
d'un danger 危険について
qu'ils frôlaient 彼ら(友達が)差し迫る
frôlerは、かすめる、とかすれすれを通る、この単語は、なんだかわけの分からない意味の動詞だった。
comme moi-même, sans le connaître 僕と同じように、それを知ることの無い、(それ、バオバブの危険性)depuis longtemps 長い時間がたった後で、差し迫る 危険
だから、このような訳になる。
「僕がうんとその絵を練習したのは、その危険性を知ることなく長い時間を経た後で、僕自身のように、彼らが直面する危険について、警告をするためです。」
C'est pour 動詞 que…で、…するのは、動詞のため、と言える。
✅Mais le danger des baobabs est si peu connu, et les risques courus par celui qui s'égarerait dans un astéroïde sont si considérables, que, pour une fois, je fais exeption à ma réserve.
réserveはどう訳そうか迷った。réserveを収蔵品と考えてしまった。僕の美術品の収蔵品に例外を設ける。というと、彼の書いた絵の中でも、例外的な絵なんだ、という意味に思える。だけど何だか変な気がした。サンテグジュペリは、それほど多くの絵を描かなかったから。こういう時は、やっぱり前後の文脈が大切だ。
サンテグジュペリは、道徳家の何かが好きではなかった。tonもいろいろな意味を持つ。後でdis=言う、言ったと言う単語が来ていることから、口調という意味を選ぶ。道徳家の物言いは好きじゃないと。
でも、そうも言っていられない場合があるのだと。だから、例外を設けた(fais exception)。
ということは、道徳家の物言いは、なんだか偉そうで、図が高い印象があったのだろう。すると、傲慢で、慎みがないことになる。ということは、慎み深さに例外を設ける、という訳が適切だと考えるが、なかなかここに気が付かなかった。
✅Mais le danger des baobabs est si peu connu, et les risques courus par celui qui s'égarerait dans un astéroïde sont si considérables, que, pour une fois, je fais exeption à ma réserve.
コンテ訳(さらさら~とした確証のない訳)だが、小惑星の中で道に迷った?それらの人々によって広がるリスクはかなりものだから~
ここを、道に迷ったと訳している本もある。しかし、文脈から判断すると、道に迷って、成長したバオバブに気を付けても意味がない。ここで生じるリスクというのは、バオバブが小惑星であるにもかかわらず成長してしまうリスクのことである。とすると、ここでの、「人々」というのは、そうした小惑星に住んでいる人々であり、かつ、バオバブの危険性について全く知らない人たちのことだ。
とすれば、確かに、s'égareraitには道に迷った、という意味があるけれども道に迷うというのは、ここでは意味が通らない。例えそれで危険に陥っても、バオバブとどう関係しているのかが不明確だ。道に迷った人を取って食うとかいうんなら話は別だが。
ここは、誤った方向に進む、という訳が適切だろう。つまり、すぐに摘み取るのが正しい道なのに、前に話題になった怠け者のように、さぼってほったらかしにしておいたというのが誤った道だ。小惑星に住んでいる人の数だけ、バオバブをそのまま生やしっぱなしにしてしまうリスクはあるから、サンテグジュペリは、出来る限り頑張って、警告をしなければならないと感じるのだった。こう考えた方が、筋道が通る。
✅僕は言った
Je dis : <Enfants! Faites attention aux baobabs!>
ここもちょっと迷った。disは、direの単純過去形であるから、「言った」というのは、普通に直訳なので間違いではない。また、disは、direの現在形でもあるから、「言う」と訳しても、間違いとは言えない。では、どうするべきだったか。
正直、わけのわからない世界だと思っている人にとっては、こういうことをされると余計訳が分からなくなるだろう。サンテグジュペリは、本の中に自分の声を通す。自分の絵を描く。そうすることで、物語の人物たちと関係を持つ。だから、バオバブの木を描いているときに、その世界で生きている彼らが、バオバブの木の危険に気づくことが出来るようにしたと考えられる。
そして、自分をその本の中の主人公として登場させながらも、実際の自分がその物語の世界を創造するものとしての立場も持っている。この言葉を言うのは、まさにバオバブの木を書いているときのことだから、僕は言う、僕は言った、どちらでもいいかもしれない。
サンテグジュペリの言いたいことはおそらく、物事の存在とは自分の心の中に宿っているということ。あなたの身近にあるものだってほら、あなたがその存在を意識しなければ、あなたにとって、全くないものと同じ扱いになる!サンテグジュペリは自分の書いた物語の中に、広大な世界を存在としてとらえている。
✅文学 解説
今回は、文学らしい文学は無いように思う。
王子様が羊を欲しがった理由は、なんとバオバブの木が、低木であるうちにその木を羊に食べさせるためだった。
この話から分かることは、小惑星に住んでいる人は、王子様だけではなかったということ。羊の絵を欲しがった理由は、羊にバオバブの木を食べさせるためだったということ。やっぱり王子様の住んでいる星は、バオバブが育ってしまったら爆発してしまうような小さな星だったという事実だった。
だが、どうしてサンテグジュペリの絵が、王子様にとっては、リアルな物と同じ扱いになるのだろうか。そうした疑問はまだ残っている。
ここで一つ推測してみるのならば、サンテグジュペリの書いた物語の中の主人公や登場人物たちが、サンテグジュペリ自身に語り掛けてきているかのように考えられる。(王子様だけだけど。)
だから、サンテグジュペリが「星の王子様」の中に絵を描いたのも、彼らの世界に、バオバブの木に気を付けるための、出来るだけ大きな絵を描き残したかったのかもしれない。だから羊の絵は、王子様の世界で、本物の羊として、生きていられるのだ。
ちなみに、昔から星の王子様の翻訳って、変な話だな、よくわからんなって思うことが多かったけど、翻訳がちょっと不正確なんですよね。皆が文学ってよくわからんな、とか、外国の文学者ってよくわからんこと書くなって思うことあると思いますが、翻訳を鵜呑みにするのは危険ですね。
追記:
ウィキペディアを見てみたのですが、この本が第二次世界大戦中に書かれたこともあり、バオバブの3本の木は、当時の日独伊3国同盟を表している、という主張があるようです。うん。これは間違いだとは言えない気もします。(間違いだと決めつける根拠はありませんが)ただの背景であり、事実です。文学という意味ではこういう情報はそれほど価値は無いように思います。
文学は何時の時代も通じる普遍的なテーマを言っていますから、いつの時代も通用する話であるはずです。
ここを文学的に解釈するならば、こういうことでしょう。
・成長は、いいものの成長も悪い物の成長も、どちらも意味する。私たちは成長した、というと、良いことばかりがさらによくなったかのように感じるが、実際は、悪いものも成長するものなのである。
・自分達の心には常に、良い種と悪い種が生えるものであって、悪い種を放っておいて、無反省のまま生きていくと、それはどんどん成長して、やがて自分自身を乗っ取ってしまう。
・バオバブはそうした人間の脅威なのである。
・日独伊3国同盟をモデルとして、それをモチーフとして表していたことは確かかもしれないが、4国同盟でも5国同盟でも、文学として伝えたいことに変わりはない。だから、どれだけ日独伊3国同盟を表していたことがわかっても、文学としてはそこまで意味のある話ではないように私自身は考えています。