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反復練習について

 昨今、ボイトレに関連した情報がどんどん溢れてきています。インパクトの強い言葉が耳目を集めるなんてこともよくある話です。何を信じればいいかわからない、何が正しいのかがわからない、と常に不安と隣り合わせで進んでいかなければいけないという気持ちもよくわかります。そんな中で私は、質の高いトレーニングメニューをとにかくひたすら愚直にきちんと反復練習することこそ、成長や進化の王道だと強く信じています。

 まずは当たり前の話から。どうやったら歌が上手くなるの?と聞かれたら、それはもう「練習あるのみ」としか答えられません。魔法など存在しません。トレーナーなどから教わった練習メニューをひたすらに繰り返す中で、少しずつ進んでいくしかありません。1回のレッスンで大いに収穫のある時もあるでしょう。5回、10回レッスンを受けてもあまり変化がない時もあるでしょう。どのくらいの期間でどのような成果が出るのか、それはやってみないとわかりません。これから練習を積み重ねていくことで少しずつ上達していくんだというポジティブな希望を持って、何か新しいことが出来るようになったら自分がどのように良くなるのかなどを妄想しながら、出来ていない 状態をむしろ楽しみながら進めていきましょう。私自身もかれこれ20年近く同じトレーニングをひたすら繰り返していますが、いまだに新たな発見があるくらいです。「進化」や「熟成」はあっても、「到達」や「完成」は無い世界です。気負いすぎず、焦ることなく、ネガティブになりすぎずに、コツコツと進めていきましょう。

 人間が物事を習得するのには順序というものがあります。私が考える順序は以下の通り。

①知る ②理解を深める ③身体での具現化を試みる ④挑戦と失敗を繰り返す ⑤少しずつ出来るようになる ⑥失敗が少なくなる ⑦無意識に身体が動くようになる ⑧ほぼ失敗しなくなる

新しいことを何か習ってから、お手本のイメージに近づけようと頑張ってみるところからがスタート。あーでもないこーでもないを繰り返すうちに、教えてもらったことをより深く理解することができて、自分なりの長所短所、チェックポイントもわかってきます。最初は失敗が多いかもしれませんが、繰り返し進めていくことで完成度が上がり、最終的には何も意識していない状態(=それをやろうと思わなくても勝手にそう身体が動いている状態)にまでなれば習得していると言えるでしょう。「身につくこと」は「忘れること」です。当たり前のようにできるようになるまで何度も反復し、完成度を上げていきましょう。

 そんな反復練習をするときに気に留めておいていただきたいことがあります。それは「しっかり考えながら練習すること」と「あまり深く考えすぎずに練習すること」の良いバランスを保つ、ということです。一つ一つの練習メニューに意義があって、その意義を噛み締めながら、微に入り細に入り精度を上げるべく集中して、などと書くともっともらしいというか、何だか良さそうな雰囲気も漂いますが、それだけだと足りないと私は考えます。いちいち考えながら練習してしまうと、不自然なところや上手くいっていないところが気になってなかなか先に進めなかったり、悩みすぎて量が稼げないこともありうるからです。考えすぎることでより悪い方向に行ってしまうことだって起こりえます。少々不完全でも構わないので、とりあえず量を稼ぐということも大事です。ルーティーンワークなどをひたすらに繰り返しながら、考えすぎずに量を稼ぐような練習をする中で、何かの拍子にとても良い感触を得られることだってありえます。頭の中を空っぽにして淡々と練習を進めていくことで、自意識も薄れ、無駄な力も抜けていき、よりナチュラルな状態に近づけるというわけです。Don’t think. Feel. というやつですね。数学などで新しい公式や定理を習ったとき、最初はそれを慎重に確認しながら解き進めていきますが、慣れれば何も考えずに計算式に入れ込んで解き進めることができるようになりますよね?テーブルの上にあるコップを取るときに、筋肉や骨の動きをいちいち考えながら腕や身体を動かす人はいませんよね?間違えながら修正しながら覚えていく。スムーズにいくところはどんどん進める。脳みそフル回転で考えまくる時もあれば、とにかく量を稼ぐつもりでぐんぐん進める時もある。「考える」と「考えない」を行ったり来たりしながら反復練習を行っていただければ、最大の効果が望めるのではないか、と私は思っています。理解して、実践する。考えながら、考えすぎない。これをひたすら繰り返すことこそが反復練習です。

 反復練習の効果として期待できることはまだまだあります。自分の特徴や個性をより深く分析することができる、というのも重要なことのうちの一つです。日々のトレーニングは上達するためにやるだけではなく、分析するためにやるものでもあります。毎回毎回同じメニューを繰り返し、その都度細かい分析をやることで、自分の癖やその日の調子が掴めるようになってきます。例えば、練習がしっかりできている時の感じやノドや声帯の調子がいい時の感じと、逆に練習ができていない時の感じや風邪っぽかったりして調子を崩している時の感じは全然違うはずです。また、仕事などで疲れている時の感じや、休日などで疲れが取れている時の感じなど、ストレスのたまり具合や体の疲れ具合でも変わってくるでしょう。朝昼晩のいつなのか、食前食間食後のどのタイミングなのか、などもあるでしょう。それぞれの状況においての自分の発声の感じがどうなのかをしっかりと分析して情報を得るということがより大切になってきます。そんな「今の感じ、どうよ?」的な情報の蓄積が、自分の癖や特徴の理解を深め、たとえ調子を落としていても、それを良い方向に導いていけるコツのようなものが掴めるようになっていくわけです。不完全でも構いませんので、とにかく継続して練習し、分析しながら情報を蓄積させ、自分の良いところがたくさん出せる「勝ちパターン」を作り上げていきましょう。

 また、反復練習すべきメニューを教えてもらう際にトレーナーから、そのメニューの一つ一つがどんな効果が期待できるのか、についての話もあると思います。その時にトレーナー側が話すことというのは、基本的にはそのトレーナー自身がボイストレーニングを積み重ねることによって実感したことであり、レッスンを通して生徒さんがどのように変化していったのかについての経験論も含まれてきます。それをそっくりそのまま受け取って、その通りにならなければならないんだと思いながらトレーニングすると、うまくいかないこともあるかもしれません。一般論がそっくりそのまま全て当てはまるとは限らない、ということです。感覚も個人個人で全然違ってきますし、声質などを含め、声帯のタイプにも個人差がかなりあります。あるトレーニングのメニューをこなした成果というのが、どんな人も完全に同じであるということは絶対にありえません。もし仮にそうだったとしたら、本などを見てボイトレして、「はい、よくできました。おしまい。」でOKとなりますから、トレーナーなんて必要ありませんよね。トレーナーからの話はしっかり理解しつつも参考程度にとどめ、そういった成果が本当に出るのかどうかをじっくり検証していくという姿勢が大事になってくるのではないかと思います。反復練習を繰り返しながら、トレーナーとも綿密に確認していきながら、自分独自の成果を探っていくことこそ良いボイストレーニングであると私は思っています。


 反復練習の大切さ、なんとなく理解していただけたでしょうか?歌を歌うことというのは、誰にでも出来ることですし、誰でも何かしらの機会にやってきたことでもあります。そうであるがゆえに、ちょろっとボイトレのレッスンを受けて何らかのコツさえつかめてしまえば、いとも簡単に上達するものなのではないか、と思われがちです。ボイストレーナーは魔法使いではありませんから、トレーニングを受ける皆さんを支えていくことしかできません。「先生」と呼ばれるから偉いというわけでもありません。例えるなら、伴走者のようなものだと思っていただければと思います。みなさんと一緒に走りながら、良い走り方のフォームや、疲れにくく早く走れるコツなどを教えたり、背中を押してあげられるような時もあれば、しんどい時には立ち止まって一緒に休憩するなんてこともあるでしょう。できることからコツコツと、真摯にトレーニングを積み上げていった先に見える景色を、一緒に楽しむことができると嬉しいです!継続は力なり。無理なく続けていけるお手伝いを精一杯やらせていただきたいと思っています!楽しく、正しく、頑張りましょう♪

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