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矢舟テツロー・トリオ @mona records〈遠い天国〉(20231123)

 90年代の息吹を蘇らせた、矢舟流の美意識が踊った祝宴。

 2021年の『うた、ピアノ、ベース、ドラムス。』以来、翌年の仮谷せいらをヴォーカルに迎えたプロジェクト“矢舟テツロートリオと仮谷せいら”としてのアルバム『歌声は風に乗って』を経て、2年ぶりとなる8枚目のアルバム『矢舟テツロー、ベリッシマを歌う』を前日にリリースしたばかりの矢舟テツローが、同作のリリース・パーティ〈遠い天国「矢舟テツロー、ベリッシマを歌う」Release Party〉を東京・下北沢のモナレコードにて開催。結成20周年を迎えた矢舟テツロー・トリオのほか、近年共演を重ねている小西康陽、仮谷せいらとともに、矢舟のニュー・アルバムを祝し、25年を数えてカヴァー作としてシーンに舞い戻ったピチカート・ファイヴの2ndアルバム『Bellissima!』を実感したいファンやリスナーが、モナレコードへ所狭しと集った。若干当日券が出たものの、前売りはソールドアウト。60~70年代のレコードを中心とした宮崎優子によるDJに耳を傾けて身体を揺らす、ピチカート・ファイヴや小西康陽フリークと思しき男女が多くオールスタンディングでフロアを埋めるなか、仮谷のステージから祝宴が幕を開けた。

仮谷せいら

 まずは、矢舟テツローが登壇し、「(普段どおりのライヴをやって)場を温めてもらって」とのフリを受けて、仮谷せいらがステージイン。「ONE S'MORE」からアルバム『ALWAYS FRESH』収録の楽曲を披露していく。

 ミディアム・スローなバラード「本音」に入る前に、「今日もいつも通り元気に行こうかなと思いつつ、ちょっと日和ってしまって」と、それこそ“本音”をポロリとこぼして「なるべく抑えめな曲」として歌い始めたのだが、いつもと異なる客層を前にしているということもあってか、だいぶ緊張していた模様。明るくダンサブルな楽曲でもピッチが乱れず、弾けるようなパフォーマンスが魅力の仮谷だが、全体的に声がうわずったり、歌詞を落としたりと、これまで自分が仮谷のステージで観たなかではあまり見られる光景ではなかった。「話をしようよ」「本音」「HOME」といった展開は、仮谷自身の楽曲のなかでも(ビートやグルーヴに黒っぽさはあるものの)比較的ミディアム・テイストでゆったりと聴ける楽曲群で、そういったセレクトもこの日の客層を意識したものだったのだろう。それが「本音」の前に呟いた「ちょっと日和ってしまって」という言葉にも現れたのだと思う。

 仮谷のファンがメインとなるライヴであれば、イントロがかかった瞬間に歓声が沸き、フックでは合唱が始まる、おなじみのtofubeats「水星」のカヴァーでも、少なくとも周囲では自分以外歌っている人はなく、本人はアウェイな雰囲気をヒシヒシと実感していたはずだ。(「水星」は知らずとも、イントロが流れた段階で「あ、これKOJI1200(今田耕司)の〈ブロウ・ヤ・マインド~アメリカ大好き〉ネタか!」くらいはピチカート・ファイヴあたりを聴いてきた年齢層&音楽好きなら知ってるんじゃないの? あ、それともKOJI1200は「ナウ・ロマンティック」しか知らないって? ええ、つれない客層だな、おい ……と言い出したくなる気持ちを抑えながら……笑)「水星」を口ずさみ音に揺れていると、仮谷は合唱がないと見るや、雰囲気を察して、フロアにクラップを促して、ヴォルテージを高めていく。

 そのようなアウェイ感が漂っていたこともあり、仮谷のライヴでクライマックスを飾ることの多い「Colorful World」は今日は歌わないかもしれない……と脳裏をかすめたが、「水星」を終えると、自分は自分の強みを出そうと覚悟を決めていたのか、「シュドゥダン」から「Colorful World」というアッパー・ダンサーへ展開。「Colorful World」では最後に歌ってくださいと観客に要求して、それまで次第にクラップが波打つようになったなかで、“パーパラパッパッパ”というスキャットが加わり、ようやくフロアが本来の“せいらワールド”に近づいたところでエンディングとなった。

 矢舟テツロートリオと仮谷せいら楽曲ならまだしも、『Bellissima!』愛好家がコアとなる客層のイヴェントで、仮谷のオリジナルというのはなかなかのミスマッチで、矢舟もチャレンジングな試みをするなあとそのサディストぶりを見た気がする。ただ、終始歌唱の不安定さは拭いきれなかったとはいえ、ラスト2曲で自身の色を出そうと、まばゆい微笑み全開でアッパー・チューンをやり切ったところに、可憐な表情の裏にある(自分が勝手に思っているだけだが)仮谷の心底に宿っている負けん気を見たような気もした。

小西康陽

 小西康陽のステージを観賞するのは、昨年12月の矢舟テツロートリオと仮谷せいらのアルバム『歌声は風に乗って』のリリース・パーティ〈歌とおしゃべり 冬物語〉(記事→「〈歌とおしゃべり 冬物語〉@mona records」)以来で、当時も矢舟テツローとの共演だった。実は矢舟のステージを観賞するのもそのリリース・パーティ以来だったことに気づく。普段、SNSで矢舟の近況に触れているからか、1年ぶりの観賞とは思わなかったが、意外と時間が経っていたようだ。

 その時に小西のライヴスタイルを体感しているので、驚くことはなかったが、朴訥も優しい声で曲の途中でも話を挟みながら弾き語っていくスタイル(この日は冒頭曲だけギター、後はキーボードで演奏)。2曲目にピチカート・ファイヴの「陽の当たる大通り」を歌い始めたところで、前列の男性が倒れてしまうアクシデントがあったが、当人いわく「寝ちゃった」ということで、一転して笑いに。小西が「〈寝ちゃった〉というのは嬉しいですよね」とは言いながらも、冗談と本心半分ずつのような感じで「そう言われたらやる気がなくなった」と「陽の当たる大通り」を取りやめて、当初の予定の構成通りにはならず。その後も数回「やる気がなくなった」と冗談めいて漏らしていたから、「嬉しい」というのは字面どおりではないかも。比較的その場のノリや雰囲気で演奏曲目も変わってくることも少なくないタイプで、曲目が変更したとしてもステージを包むムードにそれほど影響はなかったが、個人的には「陽の当たる大通り」は聴きたい楽曲だったゆえ、残念ではあった。

 その後、米ジャズ・シンガーのケニー・ランキンの「ハヴント・ウィ・メット」や、シックの「アット・ラスト・アイ・アム・フリー」(邦題「僕は自由」)のカヴァーを小西流日本語詞で弾き語る。小西の弾き語りカヴァーはテンポも譜割りも独創的ゆえ(音楽的知識がそれほどない自分は元ネタを探すのに苦労してしまう)、「アット・ラスト・アイ・アム・フリー」の邦題タイトルよろしく自由という言葉がピッタリな、リラクシンかつハートウォームな空気で包まれる。自分は「アット・ラスト・アイ・アム・フリー」はシックの曲として知っていたが、小西はロバート・ワイアット版で知ったとのこと。ワイアットは、プログレッシヴロック~ジャズ~サイケ・バンドのソフト・マシーンのドラマー/ヴォーカリストなどで活動後は、シンガー・ソングライターとしてキャリアを重ねたが、観客の嗜好としてはシックよりもソフト・マシーンの方が馴染みがあるのかもしれない。

 シックのオリジナルは70年代後半に発表されたが、ワイアット版は80年代に発表。その楽曲を歌っている合間に、鍵盤のミ(=3度)やシ(=7度)の音を叩きながら、「ここから半音下がったり、上がったり、1曲のなかにそれが入っている曲が好き」「要するに、人生は楽しいこと辛いこと両方ある。それをメロディに置き換えるとメジャーだったりマイナーだったり……そういうのが一緒に入っている音楽が好き、ということです」と語る。
 たしかに、ピチカート・ファイヴの楽曲は「ハッピー・サッド」といったタイトルだったり、「僕が死んだら」みたいな歌詞を明るいメロディで歌う楽曲のイメージがあったりするなあと頷きながら耳を傾けていた。
 音楽的という意味では、徹頭徹尾歌い切ることもなく、途中で気ままに語りを挟んだりと、ガッツリとバンド演奏をするステージとは対照的なライヴだが、小西の制作背景や嗜好、楽曲の逸話などが思いがけずに聞けることもあって、知的好奇心が旺盛なリスナーにとっては魅力的なアクトといえそうだ。

 「先程“寝ちゃった”って言われてやる気がないから、だいぶ早いけれども本日の主役を」として、小西のステージに矢舟テツロー・トリオを呼び込んで、終盤は小西とのコラボレーションでピチカート・ファイヴの「華麗なる招待」と、冒頭に小西がギター弾き語りで歌った「東京の屋根の下」を再び歌唱。

 「東京の屋根の下」は1948年に発表された灰田勝彦のカヴァー。作・編曲が服部良一で、1953年末のNHK『紅白歌合戦』で歌唱されたナンバーだ。2023年10月より、「東京ブギウギ」ほか“ブギの女王”の名で知られる笠置シヅ子をモデルとした趣里主演のNHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』が放送中(ドラマの音楽は服部良一の孫の服部隆之が担当)だが、「東京ブギウギ」の作曲者・服部良一の版権をコロムビアが持っていて、今がジャストタイミングということで服部良一のコンピレーション作を出すそう。その作品に「東京の屋根の下」が収録され、来月矢舟テツロー・トリオにバックをレコーディングするという。「だから、これは公開リハーサルです」として始めると、少しはにかみながら歌い、最後はコンダクターのようにキメポーズで終えるなど、バンド演奏の心地よさを楽しむ、小西の姿が垣間見えた。

 ちなみに、「東京の屋根の下」を完全に意識して作ったのがピチカート・ファイヴの「東京の合唱」なのだそう。野宮真貴と松崎しげるのデュエットにYOU THE ROCK☆のガヤ的なラップが加わる(チェケラッチョ! おしゃれ手帳!)、浅草や屋形船を巡る東京ガイドツアー風のミュージック・ヴィデオも印象的な楽曲とリンクしていたとは、なかなか興味深い話だった。

 小西が矢舟に『Bellissima!』アルバムを作る経緯について尋ねた際には、さまざまな逸話も。当初、矢舟がシンガー・ソングライターのきっかけとなった細野晴臣の楽曲を演奏するアルバムとの提案に、小西プロデュースなら小西の楽曲でと舵を切ったが、たとえばピチカート・ファイヴの楽曲でも、どうしても田島貴男ヴォーカル時代の初期の楽曲に偏ってしまっていたゆえ、それならと小西が『Bellissima!』まるまるカヴァーしたらと再提案し、決まったとのこと。

 そのほか、小西は「オレの楽曲を集めたアルバムをどういったものやるか興味があって、〈スキスキスー〉(細川ふみえ)とか歌うかなと思ったんだけど(笑)」「昨年12月にまほろ座でゆうこりん(小倉優子)の曲をやるつもりだったんだけど、難しくて歌えなかった」(「恋の呪文はパパピプパ」だったらどんなふうに歌うか聴いてみたい気も)などのこぼれ話も。「矢舟さんが細野晴臣楽曲集をやらないから(作詞作曲するようになりたい、レコードをつくるようになりたいと思ったのは、オレも細野晴臣、はっぴいえんどだし)、いつかオレが出します」との宣言も。

 矢舟テツロー・トリオに「『Bellissima!』聴いたことあった?」と聞くき、ベースの鈴木克人の「正直なかった」との回答に「こういう正直な人が好き」と言ったかと思うと、矢舟が「(CDレンタルで借りてダビングした)テープを聴いていた」というと「買えよ!」と被せるように突っ込む場面も。小西が「ピチカート・ファイヴの『couples』がトータルで1400万かかったが、『Bellissima!』はもうちょいかかった。でも、あれ、売れてないんだよ」とぼやくと、矢舟が「SNSでは“俺たちのベリッシマ”みたいな反響ありますよ」と言うも「それなら当時もうちょっと売れてほしかったな」と掛け合い的に話が膨らんでいく。
 その後も「KIRINJIがデビューして、レディメイドラジオのゲストに出た際、『Bellissima!』を超えたいと。上等じゃん!」というエピソードに、「何年か前に『Bellissima!』のリマスターを出すことになって、ライナーを(KIRINJIの)堀込くんに頼んだんですよ……断りました。上等じゃん!」とオチをつけるなど、当時を知るリスナーが思わず顔をほころばせる話が続き、懐かしさと愛着に溢れたトークを繰り広げていった。

矢舟テツロー・トリオ

 トリはもちろん、本日の主役の矢舟テツロー・トリオ。新作『矢舟テツロー、ベリッシマを歌う』をアルバムの曲順通りに演奏するという構成は、『Bellissima!』を愛してやまず、この場所に集ったファンたちとオリジナルの作者である小西康陽への心遣いか。田島貴男の高音ヴォーカルを上手く咀嚼出来ないなどの苦悩もあったようだが、小西からの「歌えない高い音はメロディを変えればいい」といった助言でレコーディングも気が楽になったとも。

 2005年の1stアルバム『ダウンビート』からコンスタントにアルバムを発表してきた矢舟だが、おそらく2015年の6thアルバム『ロマンチスト宣言』以降、パタリとソロ・リリースが途絶えたのは、『ロマンチスト宣言』のセールスが芳しくなかったこともあり、ヴォーカリストよりも演奏者や作家などの裏方的な仕事へと重心を移していったようだ。それから地下アイドル・プロデュースやピアニストとしての演奏・サポート活動を手掛け、トリオの面々との再会も年1回あるかどうかの頻度だったらしい。もう歌はいいかと思い始めた頃、アイドル・シンガーの生バンド伴奏などを通じて、ジャズ弾き語りの良さをあらためて認識し、再びヴォーカリストとして歩み始めたという。そして、小西との出会いがあって今に至ったのは、なんとも不思議な、嬉しい気分であり、そのような紆余曲折を経て、ヴォーカリストとして頑張ろうという信念のもとでの完成させた作品とのことだ(普通ならここで涙の一つも出るといいが、そういうタイプじゃないんでと照れ隠しも)。

 そういった裏話も交えながら披露されていった『矢舟テツロー、ベリッシマを歌う』だが、この新作がリリースされると知った時、自分の中では二つの選択肢が頭に浮かんでいた。一つはオリジナルであるピチカート・ファイヴ『Bellissima!』を聴いて、『矢舟テツロー、ベリッシマを歌う』を事前に聴いて、比較しながら本ライヴを迎えること。もう一つは『Bellissima!』『矢舟テツロー、ベリッシマを歌う』どちらも全く聴かずに、本ライヴを体感しようということだ。なぜその二つを考えたかといえば、『Bellissima!』を聴いてこなかったからだ。タイトル名こそ知ってはいたが、自分は野宮真貴時代からのピチカート・ファイヴに触れてきたので、正直楽曲は知らなかった。であるならば、急ぎ足で『Bellissima!』を聴いて臨むという野暮なことはしないで、矢舟テツローとしてのオリジナルである『ベリッシマ』を先入観なく、しかも初っ端をライヴで体感したいと考えたからだ。小西作品にもそれほど、ジャズは当然明るくない自分が、何の情報もなくシンプルにその場で矢舟テツロー・トリオが奏でる音楽を浴びることが、自分なりの赤裸々な『ベリッシマ』への感情になるはずだと思ったのだ。 

『矢舟テツロー、ベリッシマを歌う』

 3曲目「聖三角形」を終えて、(小西に影響されているのか、タイプが似ているのか)ボソッと矢舟も語り出していく。「『Bellissima!』はセクシャルな歌が多いじゃないですか。だから、「聖三角形」の時はちょっと音量下げたりして聴いたりして」「(詞世界から想像して)小西さん含め、ミュージシャンって3人で“プレイ”したりしてるのかなと本気で思ってた。後で〈だいたい妄想で書いた〉と聞きましたけど」などのエピソードを挟んで、フロアを和ませる。「元々30分強くらいの(尺の短い)アルバムなので、一気に演奏するとすぐに終わっちゃう」ということも考えてのMCタイムでもあったようだ。

 個人的に耳を惹いたのが「ワールド・スタンダード」「日曜日の印象」「これは恋ではない」の3曲。「ワールド・スタンダード」は矢舟のピアノソロを含むビタースウィートなヴォーカル&メロディが、薄っすらとした物悲しさを彩り、「日曜日の印象」はオリジナルとは異なり、モードジャズ風のアレンジを施したのが奏功。粋なロマンティストを夢見る優男といった風の矢舟のヴォーカルとの親和性もあって、矢舟テツロー・トリオ的解釈の『Bellissima!』の真骨頂といえる仕上がりになったのではないだろうか。当初はゆったりとしたリズムでカヴァーしていたらしいが、小西から「(そのアレンジは)好きじゃない」との反応を受けて、スウィンギンなアレンジに辿り着いたのは、正解だったといっていい。

 風雲急を告げるかのごとくの変則的なコードから幕を開ける「セヴンティーン」も洒脱でクールだったが、特に鈴木克人のウッドベースソロを導入とした「これは恋ではない」も艶麗なモードで美味。鈴木が爪弾く体躯に響くウッドベースに柿澤龍介の粋なシャッフルドラムがスッと溶け込むように重なっていく展開はスリリングかつスウィートで、「ベイビー、ベイビー」と歌う矢舟のヴォーカルも軽快で推進力があり、思わず身体を揺らせるグルーヴを湛えていた。

 矢舟テツロー・トリオの魅力は人それぞれ感じ方が異なるだろうが、自分が思うには、鈴木のベースと柿澤のドラムが、決して矢舟のヴォーカルを邪魔せずに、一体感を保っているところだろう。それは矢舟のヴォーカルを立てるとか、ベースやドラムが主張しないというのとは訳が違って、上手く言葉に出来ないが、音の陰影は明確なのだけれども、矢舟のヴォーカルと鍵盤にシンクロしていく浸透性・共感力とでも言おうか。滑らかなリズムも、激しく交錯するサウンドメイクもあるけれど、常に矢舟のヴォーカルを覆うことがない押し引きが卓抜なのだ。それが20周年という時が重ねた、見えざるも解かりあう同士だからなせる業なのかもしれない。

 「神の御業」をもって『矢舟テツロー、ベリッシマを歌う』全曲を終えた後は、オリジナルの『Bellissima!』に当初収録予定だったものの、諸事情により収録が見送られた経緯があったという大瀧詠一のカヴァー「指切り」(先行7インチシングル「惑星」のB面に収録)で『ベリッシマ』をコンプリート。さらに、サーヴィスか『ベリッシマ』コンプリートで終わってしまうことの照れくささからか、立て続けにナット・キング・コール「ラヴ」のカヴァーを演奏(矢舟テツロー2ndアルバム『SMALL COMBO』に収録)。朗らかに放たれる音にクラップが重なったジョイフルな演奏で、本編はエンディングとなった。

 アンコールは、仮谷せいらを招き入れて、矢舟テツロートリオと仮谷せいら名義で発表した「Winter Collection」(オリジナルは矢舟テツロー4thアルバム『Age of vintage』に収録)を。当初の緊張がやわらいだ感の仮谷の弾力性のあるアクトと、本編にてライヴとしては初となる『ベリッシマ』パフォーマンスを完遂した矢舟テツロー・トリオの充実感が寄り添って、フロアともども心弾むフィナーレを演出。温かい拍手に迎えられながら、ステージを後にした。

 前述したが、『Bellissima!』をカヴァーする際、田島貴男の声域の広さ、特にハイトーンの歌唱に苦心したと語っていたのを振り返るまでもなく、矢舟のヴォーカルは、確かに広い声域がある訳ではない。また、ジャズ・ヴォーカリストのように、抜群に圧倒的なパワフルなヴォーカルを携えている訳でもない。どちらかといえば、瀟洒で軽妙、モダンで力感がない。インパクトという意味ではそれほど印象を残すタイプではない。

 しかしながら、ジャズであれ、ポップスであれ、鍵盤とともに普遍的なポップ・ミュージックへと昇華するセンスが、矢舟の音楽性を惹き付ける大きな要素の一つだと思う。ソウルフルでパワフルな、後に引くようなグルーヴを漂わせる田島貴男のヴォーカルとは対照的な、ロマンティストな優男の軽妙モダンな矢舟のヴォーカルで『Bellissima!』の新解釈たる『矢舟テツロー、ベリッシマを歌う』を完成させたことは、かなり面白い実験でもあるのではないか……そんなことを感じながら、矢舟テツロー・トリオの面々からサインを得たアルバムを抱えて、夜の下北沢を後にしたのだった。

◇◇◇
<SET LIST>
《仮谷せいら SECTION》
01 ONE S'MORE
02 話をしようよ
03 本音
04 HOME
05 水星 (Original by tofubeats feat. オノマトペ大臣)
06 シュドゥダン
07 Colorful World

《小西康陽 SECTION》
01 東京の屋根の下 (Original by 灰田勝彦) 
02 陽の当たる大通り (Original by Pizzicato Five)
03 Haven't We Met (Original by Kenny Rankin)
04 At Last I Am Free (Original by Chic)
05 華麗なる招待(with 矢舟テツロー・トリオ) (Original by Pizzicato Five)
06 東京の屋根の下(with 矢舟テツロー・トリオ) (Original by 灰田勝彦)

《矢舟テツロー・トリオ SECTION》
01 惑星 
02 誘惑について
03 聖三角形
04 ワールド・スタンダード
05 カップルズ
06 日曜日の印象
07 水泳
08 セヴンティーン
09 Bass solo ~ これは恋ではない
10 神の御業
11 指切り
12 L-O-V-E (Original by Nat King Cole)
≪ENCORE≫
13 Winter Collection(with 仮谷せいら)

<MEMBERS>
矢舟テツロー・トリオ are:
矢舟テツロー(vo,key)
鈴木克人(b)
柿澤龍介(ds)

小西康陽(vo,g,key)

仮谷せいら(vo)

OPENING DJ:
宮崎優子(DJ)

矢舟テツロー・トリオ(柿澤龍介 / 鈴木克人 / 矢舟テツロー)

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【矢舟テツローのライヴに関する記事】
2017/11/15 MILLI MILLI BAR@代官山WEEKEND GARAGE TOKYO
2018/01/25 MILLI MILLI BAR@北参道STROBE CAFE
2018/05/30 MILLI MILLI BAR@六本木VARIT.
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矢舟テツロー・トリオ @mona records〈遠い天国〉(20231123)(本記事)

【仮谷せいらに関する記事】
2020/01/25 〈FRESH!!〉 @六本木 VARIT.【HALLCA】
2021/05/07 天野なつ ✕ 仮谷せいら @下北沢CLUB251
2021/05/31 〈HOME~Thank You “Daikanyama LOOP” Last Day~〉@ 代官山LOOP
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2022/07/22 仮谷せいら『ALWAYS FRESH』
2022/08/06 HALLCA @代々木LODGE〈Hang Out!!〉
2022/10/10 〈うたの秋味〉@下北沢LIVE HAUS
2022/12/07 〈歌とおしゃべり 冬物語〉@mona records
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矢舟テツロー・トリオ @mona records〈遠い天国〉(20231123)(本記事)


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