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ラダーですか?@ニューヨーク  It’s small but indispensable.

東京でサラリーマンだった時のこと。今は東京からずいぶん遠い場所から思い出して、この機会にお話したい上司との出会いです。


私が入社5年目くらいの頃、新しい上司のSさんが他部署からやってきた。ちょっとヤクザっぽい感じで、エリート臭の強い社風の中でその個性がちょっと光っていた。とはいっても、彼もエリート中のエリート、東大卒で社内の王道を歩いてきた人だった。

その頃の私は、すでに仕事に慣れて、会社の仕組みを十分理解できるようになり、それなりの人脈もできていたが、様々な壁にぶつかっていた。大きな組織だから官僚的であり、意見や新しいアイデアが通りにくいことや、決裁に時間がかかることもあった。それに、まだまだ、女性は腰掛けでしょ、といった扱いが職場に残っていた。今は昔、1990年代のことだ。

職場の男性たちは、荒波立てずにうまく泳いで出世していこうというタイプが主流だった。私は普通に仕事してると思っていたが、私の発言や行動には彼らの常識では「あり得ない!」という事があったらしい。ただ、本人の私は、決して常道を逸しているとは思わず、かなり正論で勝負していた。

まあ、これがサラリーマンには良くないようだ。
年間業務評価と半年毎の見直しをする際、上司のSさんと話をした。そこで、正論をあまり振りかざすな、と彼は言った。能力をどう顕在化させるかをよく考えろ、とも忠告された。

Sさん: 「せっかくいいことを言っていても、相手がビビったら聞いてくれないからさあ。核心をうまくさあ、こう、にょろにょろって伝えてみてよ。」

私: 「はあ、にょろにょろ、ですか?」

これは私にとっては大きなチャレンジだった。理路整然と、ビシッと伝えることがビジネス上はいいと信じていたのに。にょろにょろって、どうするわけ? 
言葉を選んで押したり引いたり、根回しも怠らず、うまく相手を説得する術のような説明を受けた。私はちょっと落ち込んだ。

しばらく経ってSさんとまた面談をした。面白い比喩をして、私の背中を押して応援してくれた。

「僕はボート部だったからその例えで話そう。ボートにはラダーっていう舵とり部があるんだ。水流を操作して進行方向を変えるための板がついていて、船尾についてる。その板を右に振ると、船は左に旋回する。つまり、反対方向に船は動くんだ。会社にも、ラダーみたいな機能がないと、全体的に真っ直ぐ前進できない。わかる? 船でも、会社でも、流されないように方向修正をして直進するためには、この板が必要なわけさ。あなたはこのラダーなんだなあ。小さいけど必要不可欠なんだ。」

そうか、流れを変える人になれるか、すごいじゃないか。にょろちょろと、流れから方向を修正する役目か、やってみよう、頑張ろう。単純細胞の私は、自分の役割を明確に示されたことで勇気がでた。


ということで、私はそれから長いことその会社にお世話になりました。本当にその役目ができたとは言えませんが、私の生き方に大きな影響を与えてくれた上司の言葉でありました。そして、今考えてみると、Sさんもある意味でラダーの役目をご自分で担っていたのかもしれません。さらにラダーの子分を何人も作って、子分を鼓舞することで、会社の流れを修正していくリーダーだったのかもしれません。

ありがとう、Sさん。あの時、もっともっと感謝しておくべきでした。


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