【感想】モルグ街の美少年
美少年探偵団、まさかの新作刊行決定に衝撃を受けてはや数ヶ月。
これが最終話の後日談で、満と眉美が結婚してたらどうしよう!お赤飯炊かなきゃ!と胸躍らせていたが、結論から言うと、そんなことはなかった。
逆ハー状態にも関わらず、恋愛要素をまったく入れないところがこの美少年探偵団シリーズらしいと言えばらしいし、そこが面白いところでもあるのである意味期待通りではある。期待通り裏切られて、期待通りに貫いてくれた。
そんな今作『モルグ街の美少年』は美少年探偵団のアニメ化に当たり刊行されたらしいのだが、冒頭からアニメ化するから新刊出したよ、と語り部がメタなご挨拶をしてくれて私は飛び跳ねて喜んだ。物理的ではなく、気持ちが飛び跳ねた。心がぴょんぴょんするんじゃ〜という奴だ。違うかな。
何にせよ、なんで新作出したの?どしたの?というファンに先手を打ってくる感じがたまらなく西尾維新で、瞳島眉美だったので、1ページ目にしてこれは面白いぞ、と思えた。
西尾維新の作品はシリーズごとに文体がはっきり分かれていることはファンの間では有名な話だが(ちなみに私は戯言シリーズ全作と化物語シリーズを数冊ほどしか触れたことがない)、中でも美少年探偵団シリーズは地の文が少なめで会話劇っぽいところがあって読みやすいと思う。作中でも「地の文ばっかじゃ疲れるしね」と本題に入っていったくらいだ。
もちろん、こういったユーモアさも私が美少年探偵団シリーズ(ないしは西尾維新)を好きな理由の一つだが、私がやっぱりいいなと思えたのは語り部・瞳島眉美と美少年探偵団の面々の関係性だった。
謎解きを本題と置きつつ、軽快に罵り合いをしている。
眉美はメジャーヒロインには早々ない捻くれ具合だし、団長らの返しはたまにえ?そんなに眉美のこと嫌い?と思ってしまうくらいエッジが効いている。言われたら言われっぱなしではなく、コテンパンに言い返すのが面白い。あの長広でさえも、しっかり言い返す。中でも満はしっかり最後まで眉美を言い負かす。私はここが満の優しさとも思っていて、なんだかんだ最後に俺らじゃなかったら怒られてる、など結局許してあげる場面が多いし、途中で会話を投げ出さずに最後まで眉美に付き合ってあげている。面倒見が良すぎる。
ただ本当に眉美が嫌いなのではないことは彼らの行動から良くわかる。地の文は100%語り部・眉美の目線なので厭世家な捉え方が多いが、十分愛されている。
また、眉美も悪態吐いたりドライで捻くれた発言をする癖に構ってちゃんだったりとても性格が良いとは言えない(むしろ悪い)が、めちゃくちゃ探偵団のことを愛している。
これが背景に見えてくるところが彼らの関係性の面白さだと私は思う。
それで言うと、今作は過去作の中でも眉美と美少年探偵団の面々が話す機会が多かったのでテンポ良い会話が楽しめた。
内容については本格推理を求めているのであれば物足りないとは思うが、意外性があって面白かったと思う。
そもそも美少年探偵団というか西尾維新の推理モノは「そんなのあり?!」なトリックとどんでん返しが特徴的(クビキリサイクルとかわかりやすい)なので、本格推理モノとは全く別物なのだろうけれど。どちらかといえばファンタジーに近いのだろうか。
ちなみに私が今作で一番好きなのは初めに紹介した『まえがき』の部分。今作に限らずプロローグの意見の偏った話が好きで、今作も期待を裏切らずだった。始めにも書いたが、スタイルが一貫しているのだこの作者。ここまでブレずに書けるのは凄いなと毎回感心する。
思いついたことをつらつらと書いていたら収集がつかなくなってきたので、ここらでまとめることにする。
結局のところ何が言いたいかというと、「今作も言葉遊びが秀逸な文体で活き活きとしたキャラが描かれており、とても面白かった」ということです。
西尾維新先生、大好き。