初心者が陥りがちな視点使い&『蜜蜂と遠雷』
小説には「一人称」と「三人称」というのがあることは皆さんもご存知だと思いますが、それらが誰の視点で描かれるのかということには、意外と無頓着だったりします。
小説の添削をしていてよく見かけるのは、何人もの視点が短期間にコロコロと入れ替わる小説です。
不思議なことに、初心者は必ずと言っていいほど、この方法で書いてきます。
初心者のうちは1人の視点で書こう
今までAの気持ちで書かれていたものが、行の間隔をあけることなくBに乗り代わり、数行で今度はCが心情を話す。初心者に多いのは、こんな感じです。
Aが知らないことについてネタ明かしをするには、BとCの告白が必要だったということでしょうが、突然 視点がかわったら読者は混乱するだけです。
なぜこの書き方をしてしまうのか?
恐らくテレビや漫画の影響ではないかと思うのですが、テレビや漫画は様々なキャラクターたちが、突然一人語りをしても違和感を感じません。
それは映像があるからです。だから読者は誰が話している内容であるかをすぐに理解できますが、小説の場合はそうはいきません。
ただでさえ初心者の原稿は難点が多くて読みにくいのに、視点がコロコロと変わったらさらにわけが分からなくなり、コンクールの審査員だったら先を読む気にはならないでしょう。
「蜜蜂と遠雷」における視点の使い方
しかし、「コロコロと視点が変わる小説もあるじゃないか!」と言う方もいらっしゃると思うので、その例をお話ししたいと思います。
直木賞と本屋大賞のW受賞で話題になった恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』は、たくさんの登場人物の視点で書かれています。
風間塵、栄伝亜夜、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、高島明石といったメインの4人。そして、
風間塵をオーディションの時から見ている審査員の嵯峨三枝子、栄伝亜夜の先輩の浜崎奏、マサルの師匠のナサニエル、高島明石の妻の高島満智子と、近いところにいる立場からそれぞれの側面を伝える4人。
これにテレビディレクターの仁科雅美。
仁科はクラッシックを聴きつけていない普通の人という立ち位置なので、ピアノコンクールや音楽業界といった読者が知らない世界の案内役をしてくれます。
また高島明石がどんな所で練習しているのかを取材というかたちで見せることができ、コンクールでは1人だけ脱落した彼を小説の中では脱落させずに、4人のコンテスタントとして最後まで見せることができています。
さらに分量はかなり少ないのですが、1次審査の1番手を担ったピアニストのアレクセイ・ザガーエフ、ステージマネジャーの田久保寛、ピアノ調律師の浅野耕太郎、風間塵が下宿している花屋の富樫、指揮者の小野寺昌幸の視点でも描かれていて、コンクールの裏側(支えている人々)を知ることもできます。
『蜜蜂と遠雷』は私が記憶しているだけでも、14人の視点が出てくるというわけです。
正直、これだけ視点が変わる小説は、私自身読んだことがありません。
でも、どこを読んでもすぐにその人物の気持ちになることができました。
それは、その人物のバックグラウンドがしっかりと作られていて、心情も丁寧に描かれているからです。また1,142枚の長編だからこそ、視点が何度も変わっても読者に伝わるのです。
この作品は、コンテストに出場するコンテスタント以外の視点で語ることにより、読者もコンサート会場で一緒に見ている感覚になることができます。
また、客観的に外側からもコンクールが語られるので、コンクール自体が大掛かりで壮大なものであることが伝わって来ます。
恩田さんは、この『蜜蜂と遠雷』を書くにあたり、構想に12年、取材に11年、執筆に7年もかかったそうです。
数々の賞を受賞したことがある直木賞作家と私たちは違います。
だから、初心者のうちはまず、1人の視点で書くことをオススメしています。
1人の人物を深く掘り下げる勉強にもなるからです。
単純に計算してみて下さい。
100枚の原稿を2人の視点で書くとしたら、100枚÷2人= 50枚
〃 1人 〃 100枚÷1人 = 100枚
100%の方が、よりその人物に感情移入できますよね。
一人称一元視点(一視点)
三人称一元視点(一視点)
謎を明かす展開の場合は、どうしたらいいのか? そして三人称多元視点、全知視点(神視点)については、また別の機会にお話ししたいと思います。
テキストと添削のご依頼について
こうした具体的なことが書かれたテキスト3,000円(税・送料込)を販売しております。こちらは「公募ガイド」の「超初心者向け小説講座」でも使用しているテキストに10年以上の講師経験から得たものをかなり加筆した内容となっています。
また、Zoom を使った添削も承っており、10:00〜20:00の間の90分間、平日でも土日祝日でも、ご都合の良いお日にちをお選びください。
添削は、あらすじ・プロット・小説・コラム、BL小説も多数添削しており、受賞者も輩出しております。
「あらすじZoom添削」は、12,000円〜 +消費税ですが、原稿の枚数や文字数で異なり、お見積りを差し上げますので、 junko.k.aaa@gmail.com
またはTwitter「黒田順子・小説講座」 @kuroda_jun_ko のダイレクトメッセージにご連絡下さい。宜しくお願いいたします!!
最後まで読んでいただきありがとうございます!! 原稿は色々と書いて持っているのですが、慎重な性格の牡牛座ゆえ!? アップに時間がかかっております(笑)。Twitterでも書くコツを具体的にお伝えしています。@kuroda_jun_ko 宜しければ覗いてみてください。