『威風堂々 幕末佐賀風雲録』 連載開始! 【歴史奉行通信】第四十七号
こんばんは。
さて、暑い夏がまたやってきました。
私の場合、この8/2から
『威風堂々 幕末佐賀風雲録』の新聞連載が
佐賀新聞で始まったため、
夏休みを返上して仕事です。
それでは今夜も「歴史奉行通信」
第四十七号を
お届けいたします。
〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓
1. はじめにー伊東潤現在の連載一覧
2. 『威風堂々 幕末佐賀風雲録』
連載開始(書き下ろしエッセイ)
3. おわりに / 伊東潤Q&Aコーナー /
感想のお願い
4. お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他
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1. はじめにー伊東潤現在の連載一覧
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ちょうど良い機会なので、
現在の連載仕事について
この場を借りてまとめておきます。
(*連載開始日の早い順ですので、
この順番で本になるわけではありません。)
一.
『北条五代』
「小説トリッパー」(朝日新聞出版)
2016年に急逝した火坂雅志氏の擱筆を、
途中から引き継いで書いている
戦国北条氏サーガ。
私は三代氏康以降を担当しています。
いよいよクライマックスの小田原合戦です。
二.
『もっこすの城 熊本築城始末』
「本の旅人」→「カドブン」(KADOKAWA)
震災に遭った熊本の方々を元気づけたい一心で
書き始めた熊本城の築城物語。
千田嘉博先生への取材も終わり、
いよいよ熊本城の築城が始まります。
三.
『覇王の神殿』
「潮(本誌)」(潮出版)
蘇我馬子を主人公に据え、彼が目指した
「国家の形」とは何だったのかを
描いていく古代史ロマン大作。
書いていて古代史が大好きになりました。
飛鳥を再訪したい!
四.
『凍てつく山嶺』
「中央公論(本誌)」(中央公論新社)
八甲田山雪中行軍隊遭難事件といえば、
新田次郎氏の『八甲田山 死の彷徨』を
思い出す方が多いはずですが、
新田氏が取り上げたこの事件を
伊東流に料理したのが本作です。
同じ山に登るにしても
別のルートをたどれば、
全く別の風景が見えてきます。
五.
『琉球警察』
「ランティエ」(角川春樹事務所)
沖縄の戦後問題を
ミステリータッチで描いていくという
趣向の本作は、
『横浜1963』
『ライトマイファイア』
『真実の航跡』
と同じ作風です。
つまりページをめくる手が止まらないけど、
読み終わったら
問題の核心も理解できているという、
私の新たな方法論に則った作品です。
六.
『悪しき女 室町擾乱』
「野生時代」(KADOKAWA)
日野富子の視点から応仁の乱を描いていく
というのが本作のコンセプトです。
富子が理財(経済)を理解し、
何のために利殖を行ったかを
メインストーリーとし、
応仁の乱で蠢く人々を後景に配する
という歴史経済小説になります。
七.
『威風堂々 幕末佐賀風雲録』
「佐賀新聞」
8/2から佐賀新聞での連載が
始まったばかりの大隈重信の一代記。
大隈という人間の良さも悪さも、
成功も失敗も、政治家としての功罪も、
余すところなく描いていくつもりです。
満を持して挑む伊東潤の『竜馬がゆく』!
早くも代表作になる予感!
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さすがに自分でも、
連載七つは多すぎると思います。
でもいくつかの偶然が重なり、
こうなってしまったのです(笑)。
小説家の仕事は、こうした連載を
書いてしまえば終わりではなく、
校正から返ってきたゲラを直し、
また新作の仕上げや、
文庫化の改稿(私だけか)などもあります。
さらに私の場合、
単発のエッセイ執筆、
テレビ・ラジオ出演、講演、取材
(する方とされる方)が
引きも切らずあるので、連載だけに
集中できるわけではありません。
それでも引き受けたからには、
やるしかありません。
ぜひ応援して下さい!
ということで今回は、
佐賀新聞紙上で8/2から
連載が始まったばかりの
『威風堂々 幕末佐賀風雲録』
について語っていきたいと
思います。
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2. 『威風堂々 幕末佐賀風雲録』
連載開始(書き下ろしエッセイ)
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新聞連載というのは、
毎日欠かさず書かねばならない。
そのため月刊誌などの連載とは
プレッシャーのレベルが違う。
要は「後でやろう」は許されないのだ。
8/2から佐賀新聞で連載が開始された
『威風堂々』は、
公明新聞に連載した『修羅の都』、
16の地方紙+夕刊フジに連載した
『茶聖』に続き、私にとって
三度目の新聞連載になる。
今回は佐賀新聞単独だが、
一カ月遅れでweb上でも全文公開する
つもりだ。
佐賀と言えば「薩長土肥」という
言葉があるように
(佐賀は肥前国と呼ばれていた)、
明治維新の立役者となった藩の一つで、
明治維新政府に多くの人材を送り込み、
比較的恵まれた藩閥という
イメージがある。
薩長ほどではないにしろ、
それは当たらずとも遠からずだ。
しかし佐賀の方々にとって無念なのは、
薩長土三藩出身者を主人公にした
幕末の大河ドラマが、
これまで二度ずつあったにもかかわらず、
佐賀出身者の大河ドラマがないことだ。
その理由が何なのかを佐賀の方々に問うと、
「幕末の志士活動が三藩ほど活発でなかった」
「戊辰戦争時に新政府軍への参加が遅れた」
「旧佐賀藩士の活躍は
明治維新後がメインとなるため、
政治ドラマになってしまう」
「英雄豪傑タイプの人物がいなかった」
「ベストセラーとなる原作がなかった」
といった理由を挙げていた。
こうした多くの原因があり、
大河ドラマなしという「佐賀の悲劇」が
生まれたわけだが、実は幕末から
明治維新にかけての佐賀からは、
次々と凄い人物が登場してくる。
佐賀県自ら
「七賢人」として挙げているのは、
鍋島閑叟(直正)、
佐野常民、
島義勇、
副島種臣、
大木喬任、
江藤新平、
大隈重信
の七人で、いずれ劣らぬ
有能な人物ばかりだ。
理工学部の学部長的な閑叟、
造船所長の常民、
北海道開拓の父義勇、
外交名人の種臣、
教育者の喬任、
法の番人の新平、
そして稀代の民政家の大隈重信
といった面々で、
皆違う方向に長けていたのもいい。
それでも幕末に志士として
活躍していないためか、
長州の吉田松陰、薩摩の西郷隆盛、
土佐の坂本龍馬といった
個性的な偉人たちに比べて、
あまり知られていない。
そんなわけで今回、
佐賀新聞からオファーによって、
佐賀の偉人の誰かを主人公にした
連載を始めることになった。
そこで問題は主人公を誰にするかだ。
まず江藤新平を主人公にしようと思い、
『そして正義を』という
タイトルまで考えた。
ところが江藤の活躍期は短く、
しかも最後は反乱軍の総帥として
斬首刑に処されるという
悲劇的な最期を遂げる。
さらに司馬さんが『歳月』で
江藤のことを描き切っている感がある。
これらのことを勘案して
断念することにした。
続いて鍋島閑叟を
主人公にしようと思ったが、
植松三十里さんが、閑叟を主人公にした
小説『かちがらす 幕末を読みきった男』
という作品を佐賀新聞に連載したばかり
だったので断念した。
植松さんには、『黒鉄の志士たち』という
佐賀藩火術方の奮闘を描いた
群像劇もある。
続いて三重津海軍所を作るなどして、
草創期の明治維新政府に
技術面で貢献した佐野常民にしようか
と思ったが、すでに高橋克彦氏の
『火城―幕末廻天の鬼才・佐野常民』
がある上、常民の史料があまりないので
断念した。
そこで大隈重信となったわけだが、
大隈といえば
「ああ、早稲田大学の創設者ね」と、
すぐに気づいた方は多いと思う。
しかし、ほかに何をやった人かと
問われれば、さっと答えられる人は、
よほどの歴史ファンでないと
いないはずだ。
つまり大隈という人物は捉えどころがなく、
一言で「こういう人」と
語れないところに難点があるのだ。
それでも私は大隈と格闘することにした
(母校の創設者に対して
不遜な言い方だがご容赦を)。
奇しくもこの7/19、
なんと新書では異例の上下巻で
『大隈重信』という研究本が
中公新書から発売された。
著者は幕末から明治維新研究の
第一人者の一人、伊藤之雄先生だ。
全くの偶然だが、
佐賀新聞での連載が終わったら、
私が小説を出すのも中央公論新社なので、
同じ版元ということになる。
実に幸先のよい船出となった。
しかも私の執筆ミッションの一つには、
「自らの仕事や立場に誇りを持ち、
国を造った男たちの足跡を後世に伝えていく」
というものがあり、大隈の人生は、
これにも合致するものになる。
われわれが生きている今の日本は、
過去に生きた方々の努力の集積の上にある。
とくに明治維新期を生きた
政治家の努力により、
近代国家日本は形成されたことを
忘れてはならない。
そうした埋もれかかっている人々の
事績を伝えていくのが、
作家の使命の一つだと心得ている。
かつて『江戸を造った男』で
河村瑞賢を描いたように、
物語を通して大隈の事績を
伝えていきたいと思っている。
かくして執筆が開始された。
もちろん佐賀県の方々が、
大隈の大河ドラマを切望していても、
決めるのはNHKなので、
どうなるかは分からない。
だが少なくとも、
小説という形で世に出すことはできる。
さて、残るはタイトルだ。
大隈の関連書籍を読み、
どのような人物か思い描いたのだが、
まず「寡黙」というイメージが浮かんだ。
それは「不愛想」にも通じるもので、
晩年の写真には笑っているものが少ない
(一枚だけ発見!)。
これは明治人にありがちなことだが、
同じ笑っていない写真でも伊藤博文などは、
温和で達観した高僧のような面持ちなので、
大隈の渋面はよけい目立つ。
つまり大隈は
「苦虫を噛み潰したような」というか、
「柿渋をのみ込んだような」といった
渋い顔をしているのだ。
おそらく自分の思い描いた明治政府に
ならなかったという無念もあるのだろう。
しかしその写真のどれもが、
「思った通りには行かなかったが、
何ら恥ずべきことはない」
といった感じで堂々としている。
そんな大隈を見ていて思いついたのが、
「威風堂々」という言葉だった。
それでサブタイトルに
「幕末佐賀風雲録」と付け、
『威風堂々 幕末佐賀風雲録』という
タイトルにした(本にする際には、
「幕末佐賀風雲録」というサブタイトルは
取るかもしれない)。
ところが大隈の若い頃の写真を見ると、
決して無口で不愛想な人間では
なかったということが分かる。
*大隈の若い頃の写真はこちら↓
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubE
この写真は左から
福岡孝弟、大隈重信、江藤新平
(ないしは大木喬任)、謎の女性となるが、
江藤新平らしき人物が
頬かむりをしているのは、脱藩の罪から
顔を出せないからだと思われる。
さてこの写真の大隈は
足を組んで煙管をふかしており、
いかにも不良大学生という感じが漂っている。
それからすると、とくに豪放磊落な
青年のイメージが浮かび上がってくる。
そうなると晩年のイメージとはかなり異なる。
そこで、こうした大隈の変化を以下の四期に分けてみた。
・青年時代は「走る人」
日本の近代化のために奔走する。
・中年時代は「闘う人」
明治政府を薩長藩閥のものから
民衆の手に取り戻す。
・老年時代は「創る人」
教育こそ国家の根幹だと気づき、
早稲田大学の創設に邁進する。
・最晩年は「聞く人」
「万機公論に決すべし」を実践すべく、
皆の意見を聞く側に回る。
すると自然にテーマも浮かび上がってきた。
・大隈重信を通して、日本が近代国家へと
脱皮していく過程を描く。
・何事にも屈しないことの大切さを描く
・国家にとって青少年の教育がいかに大切かを描く。
今は「反骨の政治家」という
大隈のイメージが垣間見えてきたところだが、
これから史料を渉猟していく過程で、
その実像が輪郭を持って現れてくると
思われる。
(エッセイ終了)
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3. おわりに / 伊東潤Q&Aコーナー /
感想のお願い
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エッセイにつき、「ですます調」なしで
お送りしました。
さて、この連載は
佐賀新聞だけのものとなりますが、
そんなみみっちいことをやっていたら
大隈に笑われます。一カ月か遅れで
ネットでも読めるようにしますので、
しばしお待ち下さい。
なお大隈の事績などについては、
おいおい書いていきたいと思います。
最後に質問コーナーです。
Q.
以前のQ&Aで、
伊東先生が飼われている猫ちゃん
「プーチン」のエピソードに癒されました。
最近のエピソードがあれば教えて欲しいです。
(猛暑 様)
A.
おかげさまでプーチンは元気です。
かれこれ14歳ですので、
かなり高齢になりましたが、
相変わらず近所で幅を利かせています。
とくに面白いエピソードはありませんが、
知り合いの方に頭とおしりの像を
造ってもらったので、写真を添付します。
プーチンの場合、
背中に隠れミッキーがあるので、
後ろ姿も残せてよかったです。
プーチンの写真はこちら↓
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubF
=========
インタラクティブを心がけている
伊東潤のメルマガでは、
皆さまからの質問に最大限にお答えします。
是非お気軽に以下のリンクより
お送りください。
感想やメッセージも大歓迎です。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubG
メールの場合は
info@corkagency.com
までどうぞ。
さて、今回はいかがでしたか。
メルマガ発行日の本日8/7は、
姫路文学館に行き、
「令和の時代に司馬遼太郎を読む」という
講演を行います。
(http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubH)
次回、8/21発行のメルマガでは、
講演の抄録を中心とした
メルマガをお送りいたします。
今回のメルマガの感想や
皆さんが感じる
大隈重信のイメージなど
SNSなどで教えていただければ
幸いです。
尚、アップいただく際は
「#歴史奉行通信」
「#伊東潤メルマガ」
のハッシュタグをつけてください。
皆さんの感想をいつも楽しく
読ませてもらっています。
それでは、また!
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4.お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他
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【新刊情報】
☆『家康謀殺』(KADOKAWA)
好評発売中!
戦国時代の主要な合戦における
人間模様を描いた連作短編集
(紙本は全六作収録)。
電子版はボーナストラックとして
『ルシファー・ストーン』を収録。
作品情報はこちらから
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubI
アマゾンはこちらから
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubJ
☆『横浜1963』文庫版(文藝春秋)
好評発売中!
伊東潤初の近現代物ミステリーが、
3年の歳月を経て遂に文庫化。
連続殺人鬼を追え!
ハーフの日本人と日系アメリカ人が
一回きりのバディを組む。
東京五輪直前の横浜を舞台に描く
社会派ミステリー。
作品情報はこちらから
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubK
アマゾンはこちらから
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubL
【講演会情報】
9/7(土)
「戦国北条氏の城を歩く」
主催 : 三島市図書館
場所 : 三島市民文化会館
開演:10:30~(12:00終了予定)
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubM
その日の午後に第4回城めぐり
「山中城」開催を予定。
(おかげさまで完売となりました。
有難うございました)
【読書会・主催イベント情報】
現在予定している、
読書会および主催イベント情報一覧です。
8/17(土)
第16回「伊東潤の読書会」のテーマは
『横浜1963』に決定しました。
文庫版は7/10発売ですが、
単行本をお読みになった方は、
文庫版を読む必要はありません。
お申し込みはこちらから。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubN
また、今回は読書会にご参加いただかなくても
懇親会のみ参加可のチケットを作りました。
是非チェックください。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubO
9/7(土)
第4回「城めぐりオフ会」講演会
&山中城見学ツアー at 三島
10:30から三島市民文化会館で開催される
伊東の講演「戦国北条氏の城を歩く」
(無料)の後、路線バスで山中城に行き、
見学ツアーを開催します(小雨決行)。
大雨の場合は昼から懇親会を予定。
おかげさまで完売となりました。
有難うございました
10月
第17回「伊東潤の読書会」は
『茶聖』の
プレビュー読書会を予定
【TV / ラジオ出演情報】
☆「マイあさラジオ」
NHKラジオのレギュラー放送は、
いつも通りあります。
私の担当は土曜日で隔週です。
だいたい朝の7:30から始まります。
今は第二と第四土曜になります。
http://fcew36.asp.cuenote.jp/c/b53JaafapVpKaubP
【メルマガバックナンバー】
伊東潤の魅力がたっぷり詰まったメルマガ
「歴史奉行通信」。
途中からご登録いただいた方や
「読み逃した!」という方に向けて、
バックナンバーが読める仕組みを作りました。
以下の伊東潤のnoteのサイトより
バックナンバーの購読が可能になります
(*一部有料)。
一回ずつアップしていきますので、
お楽しみに。
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