赤い花 序部
風が少し湿気を含んで、黒い背広に纏わりついた。
夜道を歩くと、大粒の汗が滴りおちる。三十を過ぎて脂肪を蓄えた身には堪える暑さだった。
大学時代の後輩が若くして世を去った。
卒業後はSNSでのやり取りが少しあった程度で、彼女がSNSにアップした写真やコメントを眺めているだけのことが多かった。
唐突な知らせを共通の友人から受け取ったとき、耳の奥から彼女の元気な声が聞こえてくる気がした。
斎場に着くと、記帳を済ませて中に入る。聞き覚えのあるクラシックが流れる柔らかい空間だ。
遺族に一礼をして、用意されていた赤い花を献花した。彼女の顔を覗くと少し微笑んでいるように見えたが、今はただ静かに白木の中で眠っている。その姿は白いウェディングドレスに包まれていた。
明るい性格だった。誰からも愛される、感じの良い子だった。神様を信じていなかったけど、どうか天国に辿り着いて欲しいと願った。
献花を終えて再度遺族に頭を下げ、通夜ぶるまいの会場へと移動した。見覚えのある仲間たちが沈痛そうな顔を並べている。
通夜の前々日、まさに急死した直後に彼女の死を知ったわけだが、何人かの彼女の近しい友人たちは病気を患っていたことを知っていたようだった。
自分が事前に知っていたところで、何が出来たわけではないが、あまりにも急な訃報に心の整理が出来ないまま黙々とビールを飲んだ。
「最後は眠るように旅立ったんだってさ。」
少し離れたところにいた、彼女の同級生が優しい声でそう言っていたのが聞こえた。
外では、蝉がまだ鳴いている。
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