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アナログゲーム・デザイン:「シュガートピア」はどのように作られたか

こんにちは、ちゃがちゃがゲームズという福井県のボードゲーム制作サークルで、「うずまきスイッチ」というブランドでボードゲームを制作しているjun1sと申します。

今日は、新作のボードゲーム「シュガートピア」がどのような意図や思考を経て完成に至ったかを、私の記憶が新しいうちにまとめてみたいと思います。同じようにゲームを制作する方の参考になればと思います。

最終的にできあがったゲーム

先に、最終的に出来あがったゲームを紹介します。その後、ここへ到達していった経緯を説明した方が、読み物として面白いでしょう。

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シュガートピアは、お菓子の国をテーマにしたタイル配置ゲームです。

クッキーの形のカードを共通の場に手番ごとに1枚ずつ並べていくと、道によって分断された「草原」がいくつか出来上がっていきます。そのひと繋がりの草原の中にいる「わたがしひつじ」には、勝利点となる「砂糖駒」が1つずつ置かれます。

この砂糖駒を収穫するには、カードに描かれた自分の色のグミベアを、狙ったわたがしひつじがいる草原にくっつけるように配置します。そうすることで、その草原から砂糖駒を1つ、グミベアの上へ移動する(収穫する)ことができるのです。

twitterポスター第二版-02

ゲーム終了時には、草原に残った砂糖駒と、グミベアで収穫できない「ハニー駒」の奪い合いが起こります。これは、その草原に一番多く自分の色のグミベアを送り込んでいたプレイヤーが総取りとなります。

ゲーム終了時を見据えた草原内でのグミベアの争いと、手番ごとの収穫が同時進行する、ちょっと変わったプレイ感の楽しいゲームになっています。

個人的には、ライトゲーマーに、見た目の可愛さで誘いつつ、「ユーロゲームの雰囲気」を味わってもらう為の丁度良いステップアップ・ゲームとしてお勧めのゲームです。

シュガートピアで遊んでみようA4シート-01

シュガートピアで遊んでみようA4シート-02

「缶入りのゲームを作ろう」から始まった


缶パッケージモックアップ_正面-01

シュガートピアは、もともと「缶入りのゲームを作ろう」というところが発端になっています。私はかわいいゲームを作るのが大好きで、どちらかというと男性向けのアートワークが施されているボードゲームが多いなか、女性にも手に取って貰えるような缶入りのかわいいゲームが作れたら良いと考えました。

かわいいものが好きな人が必ずしもそうだとは限りませんが、多くのケースでそれは「ライトゲーマー」だと思います。見た目に惹かれて遊んでくださるプレイヤーさんにも難しすぎないゲームを作らなくてはなりません。

特に今回、アートワーク担当として、かわいいイラストやグラフィックを作られる事に定評のある井上磨(いのうえおさむ)氏(@inoueosamu)に依頼している為、このかわいい見た目に沿う、シンプルでさっと遊べるゲームを目指しました。

シュガートピア_ロゴ-01

「缶」に入ったゲームですから、いくらかわいいからといって、それを「動物がテーマのゲーム」にするのは違和感があります。缶に入っているかわいいものと言えば、「紅茶」や「クッキー」が思い浮かびます。今回は、そういう、スイーツ的なものをテーマにしようと考えました。

タイル配置ゲームにした理由

クッキーが入っていそうな缶の中にはクッキーが入っているべきです。ですので、カードの形をクッキーにして、それを使ったゲームを考案することにしました。形が大事なのですから、手札に持つタイプのカードゲームではなく、それを場に隣接させて並べていく形がベストだと考えました。

このように、カードやタイルを並べて配置していくゲームを「タイル配置ゲーム(tile-placing game / tile-laying game / tile-layer)と呼びます。

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この写真のゲームは、「スプリングメドウ」というゲームです。テトリスのように自分のシート上になるべく隙間なくタイルを配置していく、タイル配置ゲームのひとつです。

タイル配置ゲームの良いところは、数字や文字の情報だけでなく、視覚的な情報を扱えるところです。人間が受け取る情報の大半は視覚情報であり、視覚情報の処理に人は慣れています。最近、ボードゲーム業界ではタイル配置ゲームがまた増えているように思いますが、ボードゲームの裾野が拡がっていくにつれて、そういうタイル配置ゲームの特徴が見直されているのではないかと思います。

ソロプレイか、インタラクションか

タイル配置ゲームと相性が良いのは、本来、「各プレイヤーが、他人に邪魔されずに自分の箱庭を作っていくゲーム」です。タイル配置ゲームの本質は「パズル」であり、パズルを他人に邪魔されるのは、面白さの本質から外れると考えています。つまり、タイル配置ゲームを手軽に作るのであれば、それはソロプレイ的なものにした方が良いと思っています。

しかし今回私が作ろうとしているのは、どちらかというとライトゲーマー向けのゲームであり、そういう場では、ソロプレイ的なものよりも、インタラクション(プレイヤー間の相互作用)が求められることが多いものです。他プレイヤーの邪魔をしたり、邪魔をされたりの方が盛り上がる、ということです。

例えばこの写真のゲーム「通路(Tsuro)」は、共通の場にタイルを配置していきながら互いに邪魔をしあうゲームとなっています。やはり、長期的なパズルの構築よりも、その場をなんとか乗り切る事を目指す「他人との思わぬハプニングを楽しむゲーム」として作られているのが分かります。

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また、今回、クッキーの形のカードをたくさん作る必要があり、そういう特殊カードは製造コストが高い為、安価に提供する為にはカード枚数をあまり多くすることができませんでした。ソロプレイ的にするには、プレイヤー人数×箱庭を作るのに十分な枚数のカードが必要になってしまいます。

そこで今回は、各自が自分の場にカードを並べていく「箱庭ゲーム=ソロプレイ的なゲーム」ではなく、全員で共通の場にカードを並べていくタイプの、インタラクション強めのデザインにすることにしました。

インタラクション+タイル配置

前述の通り、パズル要素の強いタイル配置とインタラクションは相性がよくありません。パズル要素の強いタイル配置ゲームを共通の場でやらせようとしているゲームをたまにみかけますが、大抵の場合、「狙った通りにいかない辛さが優る」「自分の思った通りにいったというより、たまたま他の人がそうしてくれただけ」という感じになってしまっていてうまくいっていないように思います。

なので今回は、その辺を意識してデザインをしていかなければなりません。

テストプレイの重要性(没案)

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六角形のクッキーの形のカードを並べて、お菓子の国を作っていくゲーム、というテーマまで決まり、それを体現するゲームをいろいろと考えて試すことにしました。

ちゃがちゃがゲームズにはとても優秀なテストプレイヤーとして、地元でプロのカメラマン且つ、ボードゲームインストラクターとしての活動をされている山内氏(@FUKUI_YAMANOUTI)と、仕事として経営ゲームを作っている嶋崎氏がいて、ゲームを作っては彼らに何度もテストをしてもらいます。テストプレイはとても大事で、むしろテストプレイによってゲームは作られていくと言っても過言ではないと思います。

山内氏は常に「ライトゲーマーの視点」でゲームを見てくれるテストプレイヤーであり、山内氏に認められれば問題なし、逆に山内氏が難色を示したら、販売はやめた方がいいというぐらいの最高のテストプレイヤーです。

嶋崎氏は「特化戦略を試す」プレイが得意なテストプレイヤーで、ゲームの耐久テストをしてくれるので、こちらも非常に助かる、いてくれないと困る最高のテストプレイヤーです。

ちなみに、上記の写真には6種類のテスト用カードが並んでいますが、それぞれまったく異なるシステムのゲームだったり、少し調整して試したものだったりなど、写真に写っていない裏面への手描きも含めると、相当数のパターンを試しています。

当初は、繋がった草原に存在する「わたがしひつじ」や「グミベア」の数や組み合わせによって、各自が秘密裏に持っている「目標カード」を達成するようにするゲームを考えていました。

例えばプレイヤーAは「赤青黄のグミベアが同じ草原に1セットいるごとに3点」とか「ひつじが1匹もいない草原1つにつき2点」とかのカードを持っていて、プレイヤーBは「赤いグミベアが3匹以上する草原1つにつき3点」とかを持っている、という感じです。

前述の通り、単純に作ってしまうと「他人に邪魔されてストレス」のようなゲームになってしまうので、達成すべき目標カードは秘密裏にして意図的な邪魔は難しくしつつ、「あの人はあの目標カードかなー」という推察で盛り上がるようにしました。また、目標カードの組み合わせもなるべくゆるくして、達成か非達成かのゼロイチ判定ではなく、少なくとも1~2点は取れるようにしてストレスを軽減させています。

このアイデアはなかなかうまく機能したのですが、他人の意図を推察するのが面白さに繋がるゲームなので、プレイ前に全ての目的カードの説明をして全員が理解してからでないと面白くならない事に気が付き、とてもライトゲーマー向けではない、という結論になりました。テストプレイは本当に大事です。

ここまでのプロトタイプは、アートワーク担当の井上磨さんや、その繋がりで、mogwaiの長谷川登鯉さん、ちとさんなど、外部の方にもテストをして頂いています。ちゃがちゃがゲームズ内でのテストプレイとはまた異なる意見(ちゃがゲー内部では不評だったシステムが、そちらでは好評だったりしたのです)を頂き、そこでのフィードバックも大変重要でした。改めてお礼を申し上げます。

なお、プロトタイプにはこれ以外にも、各タイルにアイコンだけが描かれていてそれらをうまく繋いでいくゲームや、いっそ株式ゲームにしたものなどがあったりしましたが、どう考えてもライトゲーマー向きではなく、没にしています。

エリアマジョリティに変更

そこで、もっとシンプルに「草原にいるわたがしひつじから砂糖を収穫する」ゲームにすることにしました。プレイヤーには、草原にどんどん増えていくわたがしひつじをうまく自分のものにする、という事だけに集中できるようにします。

私はカルカソンヌというボードゲームが好きなのですが、このゲームには、「草原ルール」と呼ばれるルールが存在します。道で区切られた草原に、自分の配下の駒をたくさん送り込んだ人が、草原の得点を総取りできる、というルールです。これを導入することにしました。

ただ、カルカソンヌでは木の駒が自分の駒ですが、シュガートピアでは、カード自体に自分の駒(グミベア)が印刷されており、これをうまく配置することで、狙った草原に自分のグミベアを送り込みつつ、同時にひつじの配置も考える、というジレンマを、1枚のカードを配置するというシンプルな手番で楽しめるようになっています。

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ちなみにこの「エリア内で多数を競う」ルールのことを「エリアマジョリティ」というのですが、実は私はカルカソンヌのエリアマジョリティにおける、「駒の数が2位以下のプレイヤーはなんにももらえない」というのがあまり好きではありません。

2位以下がなんにも貰えないと思うと、そのエリアへ後から参入する意欲が減衰してしまい、先に参入したプレイヤーが有利なような気がしてしまうからです。

2位以下のプレイヤーにも何か貰える方が嬉しいのですが、そうするとどうしても点数計算が複雑になってしまいます。

「収穫」アクションの導入

そこで、シュガートピアでは、このカルカソンヌの草原ルールを導入しつつ、同時に、ある「仕掛け」を施しました。それが、「砂糖駒がある草原にグミベアを隣接させると、その時点で1個、砂糖駒をその草原から収穫できる」というものです。

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これによって、砂糖駒がたくさんある草原エリアに後から参入する「動機」が生まれます。「あいつに砂糖をひとりじめさせるわけにはいかん。おひとつ拝借(笑)」という具合です。そして気が付くと、もうそのエリアには砂糖駒が残っていない…という事にすらなります。エリアマジョリティを根幹から覆すルールですね…。笑

もちろん、エリアマジョリティ要素は「ゲームの長期的な戦略」を作る為にも大事だと思っているので、残さねばなりません。そこで、わたがしひつじが草原に出現した時に置かれる「砂糖駒」に、「ハニー駒」という黄色い駒を加えました。このハニー駒はグミベアで収穫することができない為、草原に最後まで残り続けます

この変更が非常にうまく機能して、テストプレイヤーのお二人も「これはいい感じでは(笑)」と楽しんでくれました。ライトゲーマー寄りの山内氏は「砂糖駒をその場で収穫できるのはやっぱり嬉しいね」と短期的な目線での喜びを感じ、どちらかというと長期戦略を立てるのが得意な嶋崎氏は「最終的に高得点になりそうな草原エリアにグミベアを投資させるのは面白い」と感じたようです。

ライトゲーマーとゲーマーが、同時に楽しめるゲームというのは、個人的に常に目指している着地点なので、これはなかなか良い落としどころを見つけられたような気がします。

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ちなみに、収穫した砂糖駒は、このようなマグカップの形のプレイヤーマーカーに、ぽちゃん、と入れてもらいます。笑 ゲーム終了時に、一番甘い紅茶を飲んだプレイヤーが勝利します、という感じです。

お陰様でシュガートピアはとても好評を頂きまして、ゲームマーケット2019秋では、予約分がすぐに埋まり、当日分も1日目の1時間で想定以上になくなってしまったので慌てて締切り、2日目は数分で残り在庫が完売となってしまいました。

購入された方の感想まとめ
https://togetter.com/li/1446182

おまけ:カードデザインの失敗

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実は、シュガートピアの初版では、左のように、クッキーらしさを残したカードデザインになっていました。しかしこの縁の部分のクッキー生地の余白が、隣のカードと隣接した際に「道」に見えたり、そもそも草原同士が隣接した時に、草原が繋がっているように見えなかったりという弊害が生じました。

これはテストプレイ時にわかっていた事なんですが、恐らく私自身がこのゲームに慣れ過ぎていて、初見プレイヤーにとっての視認性の悪さを甘くみすぎていたのが失敗の原因です。初版では、視認性よりも「クッキーらしさ」を優先してしまいましたが、遊びづらいという声を受けて、右側のデザインに変更しました。

ちなみに、初版を購入してくださった方には、希望する100名に郵送で新版カードを無償送付対応しております。ただ、お申込みの際にカンパしてくださった方もたくさんいらっしゃって、お陰様で、それ程の赤字にはならずに済みました(本当に大感謝です!)。

現在流通分、及び今後販売する第二版については、全てこの新デザインのカードになっています

まとめ

以上、この記事では、以下の話をしました。

タイル配置ゲームは視覚的に楽しめる為、ライトゲーマーにも向くゲームになり得る。
・ライトゲーマーはソロプレイ的なゲームよりインタラクションがある方を好む事が多いが、タイル配置を共通の場でやらせるゲームは作るのが難しい
2位以下に何ももらえないエリアマジョリティを緩くする為に、工夫を施した。
テストプレイは本当に大事。
・カードデザインのちょっとした視認性の違いで、遊びやすさはぐっと上がる。

カードデザインも一新した『シュガートピア』は、ネット通販(現在は品薄状態で、再流通は5月頃を想定しています)以外には、3月8日のゲームマーケット2020大阪、4月26-27日のゲームマーケット2020春で、1個2000円で販売します。

公式サイトで予約特典付きのご予約も受け付け中ですので、ぜひチェックしてみてくださいね。

ゲームマーケット大阪_ご予約特典-02

公式サイト
シュガートピア - 道や草原を上手につなげて、わたがしひつじからお砂糖をたくさん集めよう!
https://chaga2.jimdofree.com/%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0/sugartopia/





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