土曜日の父子
休日ゆえ、早めに目が覚め、父はそばをゆでた。
水色系、安パジャマゆえ、
半ケツを出しながらごみを出してくる。
それにしても、だ。
お前は何もやらないのか息子よ。
茶の間に現れるなり、
入念な歯磨きと携帯端末いじり。
「むう」としか返事をせんのか、お前は。
お前がそう来るなら、父は、もう工房に籠る。
こもっちゃうんだもん。
でもすぐに飽きたので、茶の間に舞い戻る
もちろん威厳は保ちつつ。
「うまい蕎麦屋を見つけたから、別に連れて行ってやらない事もないが、
どうする?別に用事があるなら、別にこっちは行かなくてもいいのだが。別に」
と、早口にならないように気を付けながら、
そこはかとなく言ってみたりする。
ティーンの息子は憮然と
「別に」
と言う。
「コロナなのに」
とも言ってくる。
「あと、そば嫌い」との事。
じゃあ、威厳もあるわけだから、
お父ちゃんも「別に」だ。
育てたのに。
もう本当に工房にこもり、究極の缶バッチを生み出すと誓う。
次に会うのは、早くて3年後であろう。
缶バッジ頑張って、儲けた莫大な財産はお前にはビタ一文やらず、シチリア島でシチリア産のレモンをしぼったビターな生レモンサワー三昧で晩年を面白おかしく暮らすのだ。
寒い工房で、斜め上を見上げ、禁煙していた煙草に火をつける。
妻は何をしておるのか、
「お前からも蕎麦屋誘え」
とテレパシーを送る。
夕べ遅く帰ってまだ眠っている管理職の妻に向けて。