「始めるハードル」をハンズオンで突破する
どうも、エンジニアのgamiです。
先日、QAエンジニア勉強会というイベントに呼ばれ、登壇してきました。僕自身はQAエンジニアではないのですが、「主にテスターやデバッガーの参加者のためにプログラミングを体験できる内容で登壇して欲しい」というお題をいただき、Google Apps Scriptを使ったスプレッドシートの自動化についてのハンズオンをしました。
ここ2年くらいの僕はデジタルリテラシー教育周りに強い関心があり、あれこれコンテンツ作成や発信をしてきました。中でも仕事やプライベートで数々のハンズオン・コンテンツを作ってきまして、ハンズオンをともなう学習は入門者向けにとって非常に効果的だなあという思いを強くしています。この勉強会でも、参加者の方から「参加してよかった!」という声を頂き、ハンズオンの価値についての確信が強まりました。
皆さんの中にも、きっと新たに入門したい技術やソフトウェアがあると思います。今回のnoteでは、そんな入門者にとってのハンズオン学習の価値について考えます。
「テストデータ作成をGASとスプレッドシートで自動化する」
QAエンジニア勉強会では、「テストデータ作成をGASとスプレッドシートで自動化する」というテーマでハンズオンをしました。昨今の情勢的に完全オンライン開催に変わり、「これ本当にみんな作業してくれてるんか」という不安を抱えながら45分間虚空に向かって話し続けましたが、結果的にはYouTube LiveのコメントやTwitterでも好意的な反応をいただきました。よかったよかった。
今回のハンズオンでは、テストデータ生成ツールをスプレッドシート上で実装する過程を体験してもらいました。
この自動化を実現するには、Google Apps Scriptと呼ばれる開発環境でJavaScriptプログラムを書く必要があります。JavaScriptに不慣れな人でも最低限の意味を知った上でプロセスを体験できるように、プログラムの修正、動作確認、解説を繰り返す中で徐々にツールが完成に近づくというシナリオになっています。
興味ある方は、僕の個人Webサイトで無料公開しているのでぜひ実際にやってみてください。
なぜ新しい技術やソフトウェアを触るのは億劫なのか?
さて、QAエンジニア勉強会におけるこのハンズオン実施の主目的は「プログラミングをやってみよう」と思うきっかけをつくることでした。
この勉強会の参加者の中には、テスターやデバッガーなどプログラミングをメインの業務で使わないような人もいました。プログラミングに不慣れな人の多くは、漠然と「プログラミングができたらできること広がりそう」とか「GASがいじれたら業務を自動化できそう」などという印象を抱いていても、実際にそれらを自分で触り始めるのに躊躇してしまいがちです。
一方で、プログラミングを得意とする人が「難しくないからとりあえずやってみればいいのに」とか「なぜ自分でやらないのか?」といった素朴な疑問やいらだちを入門者に関して表明している光景も目にします。
他ならぬ僕も、不慣れな技術を触らないといけない状況を自分自身が無意識に避けていると感じることがあります。人はなぜ新しい技術やソフトウェアを触るのを億劫に感じたり躊躇したりしてしまうのでしょうか?
その一番の理由は、それを使って何ができるのか、それがどのくらい大変なのか、といったことがわからないからです。必ずしもやらなくていいことについては、人はリスクやコストを悲観的に見積もってしまいがちです。なぜなら、新しいことに挑戦しない自分を肯定するためには、「リスクが高い」とか「コストが大きすぎる」といった仮説を受け入れた方が都合がいいからです。
たとえば「GASを使えば業務の役に立ちそう」という印象を抱いている人は、同時に次のような不安も抱いています。
入門者が大きな一歩を踏み出すためには、こうした不安の力学から逃れることが必要です。
「これができるのか!」という価値を最初に示す
こうした入門者の不安を拭い去るのに最も有効な手段の1つがハンズオン学習である、と僕は考えています。その理由は2つあります。
1つは、ハンズオンを使った学習では対象の技術がもたらす実際的な価値をすぐに体験できるからです。
単なるマニュアルとは違って、ハンズオンにはシナリオやゴールがあります。ハンズオンをゴールまで体験することで、その技術が自分の目的にとって有益かどうかを早めに知ることができます。
僕が今回つくったハンズオンでは、「スプレッドシートをGASで拡張するとデータ生成を自動できる」というゴールを体験できます。それも単に言葉で理解するだけではなく、実際に動く成果物を触ってみることができます。その体験を得た入門者は、「自分がGASを学ぶと何が嬉しいのか」を具体的に考えられるようになります。
ある技術に詳しい人は、ついつい入門者に対して「ちゃんとその技術について深い理解を習得した上で使うべき」という目線でアドバイスしてしまいがちです。しかし、そもそも「その技術を学んだところで役に立つのか?」という不安を抱えている入門者にいきなり分厚いマニュアルや解説書を渡しても読んでくれません。入門者に「急がば回れ」を強制しても、目的が不明瞭なままではモチベーションが尽きてしまいます。
そうではなく、まずは「これができるのか!」という価値を実感してもらい、自分の時間を投資するだけの価値がありそうだという期待感を醸成するのが重要です。ハンズオンは、まさに「これができるのか!」を最短で体験させる学習形式というわけです。
「自分にもできそう!」という自信は成功体験から生まれる
ハンズオンが入門者の不安を取り払うのに有効である2つ目の理由は、自らの手で成果物を完成させるという経験が得られるからです。
わからないことだらけの入門者は、大きな不確実性に囲まれ多くの不安を抱えています。彼らはちょっとの失敗ですぐに自信を失い、入門を諦めてしまいます。門の先にどんなに魅力的なゴールが見えていても、そこに至るための道のりがあまりにも遠く険しければ、「誰か得意な人にやってもらおう」と考えてしまうのは当然です。
優れたハンズオンは、誰でも手順に沿って作業するだけでゴールを体験できるように作られています。単に作ってみせるのではなく「自分の手で成果物を作ってもらう」というのが、ハンズオンの特徴です。
ハンズオンを通じて自分で価値を感じられる成果物を作ると、「自分にもできそう!」という実感が得られます。その経験こそが、不安に打ち勝って前に進むための自信やモチベーションにつながります。ハンズオンは、小さな成功体験を得るまでの道のりを示す、いわばトレッキングコースです。
「始めるハードル」をハンズオンで突破する
ハンズオンの設計で重要なのは、なるべく簡単で短い経路を通りつつ、十分な価値を感じてもらう場所まで入門者を導くことです。この「簡単である」と「十分な価値を感じられる」の2つを両立するのが、ハンズオン作成の難しくも面白いところです。
これは僕が常々思っていることですが、世の中の入門者向け学習コンテンツには、手段を重視して目的をおざなりにしているものが多すぎます。ある分野の入門者は、大抵は別の分野のプロであり、役に立つかわからない技術の入門にすべてのリソースを割けるほど暇ではありません。まずはその技術を学ぶと何が嬉しいのか、どんな状況に対してどんな価値を発揮しているのかを示すことが、何より重要です。その上で、最低限の価値を得るための最短経路をたどるだけならそこまでハードルが高くないということを示せば、その技術が広く色々な人の手に渡って価値を生むようになるはずです。こうした学習体験に最も適した学習形式がハンズオンをともなう学習であると、2022年の僕は考えています。
もちろん入門者側の立場からすれば、新しい技術やソフトウェアの使い方学び始めるとき、まず良質なハンズオンを探すところから始めるのがおすすめです。自分の不安をうまく飼いならしながら、ハンズオンと共に新しい技術に挑戦してみてはいかがでしょうか。
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