男のカッコよさ
休憩中、後輩たちが好みの男性タレントの話をしていた。
聞いたことある名前から、
“ 誰だ、それ… ”
って、知らない名前まで。
カッコよさは見た目のカッコよさと中身のカッコよさってのがある。
20歳頃、勤めてたバイト先に関西出身の50代の社員さんがいた。
名前を思い出そうとしたけど思い出せないので鈴木さんとする。
鈴木さんは170cmない中肉中背で少しお腹が出ている薄毛のおじさんだった。
僕は製造部門で、鈴木さんは施設の管理部門。
バイトの僕が他部署の社員さんと関わることはほとんどない。
廊下とかで会った時に挨拶するくらい。
挨拶すると鈴木さんは、
「おう」
と、返すだけで会話なんてしたことなかった。
「鈴木さん、悪い人じゃないんだけど、あの関西弁がさ。
新潟出身の俺からすると言葉がきついのよ。だから、あんまり近寄りたくないって、いうか」
小休止の時に製造部の社員さんがそう言っていて、他の社員さんも同調していた。
確かに僕の友達も関西弁はきつく感じると言っていた。
関東というか東日本出身の人の大半はそうかもしれない。
でも、僕は父が関西出身で親戚も関西に多いので、関西弁アレルギーは無いので、
『関西出身者以外はそういうもんなんか』
社員さんの言葉には賛同できなかった。
ある日、社員さんに鈴木さんのハンコもらってきてと、書類を押し付けられた。
鈴木さんが苦手だから押し付けやがったな。
バイトだから指示には従うけど、社員がすべき仕事を押し付けるなよ。
表面上は『分かりました』と、従って心でそう言った。
事務所に行き、鈴木さんに書類を渡すと、
「おう。確認するわ。ちょっと待ってろ」
鈴木さんに言われ、その場で待つ。
書類に押印した鈴木さんは、
「じゃあ、田中に返したってくれ」
鈴木さんに書類を渡された時、
『鈴木さんって、ご出身、紀州ですよね?』
鈴木さんは不意打ちの質問に僕の顔を見たがすぐに視線を外してハンコを引き出しにしまいながら、
「なんで、そう思うんや?」
と、訊いてきた。
『前から大阪弁とイントネーションが違うなって、思ってたんです。
父が和歌山出身なんですが、父の言葉と発音が同じなので紀州のご出身なのかなと思って』
そう言うと、鈴木さんはまた僕を見て、
「勝浦や」
和歌山県の勝浦市出身だと教えてくれた。
続けて、
「東京に出てきて25年経つけどな。
俺の言葉が紀州弁って分かった東京の人間はお前が初めてや」
鈴木さんはそう言って笑った。
その日の帰り、飲み物を買おうと食堂に行くと鈴木さんが缶コーヒーを飲んでいた。
挨拶すると、
「今、帰りか?」
そう訊かれたので『はい』と答え、飲み物買って帰ろうかと思って、と言うと鈴木さんは自販機に1000円札を入れて、
「好きなん選べ」
と、奢ってくれた。
お礼を言ってボタンを押すと「じゃあな」と、行こうとするのでお釣り忘れてますと言うと、
「俺の言葉が紀州弁やと当てたご褒美や。気ぃつけて帰れよ」
鈴木さんはそう言って食堂を出て行った。
この時の鈴木さんがものすごくカッコよく感じた。
人によっては、
「どこが?」
と、思うはず。
でも、僕にはあの時の鈴木さんがものすごくカッコよく見えた。
真似できないなと思わされた中身のカッコよさ。って、ヤツが。
ジュースが飲みたいです('ω')ノ