その52 ほうっておいても 子どもがぐんぐん学ぶ「学習スタイル」コーチング 高橋有希子 著(3055文字)
1 はじめに
学校現場では、「あの子は視覚優位だから、絵に描いて説明してあげるといいのよ」や「あの子は、目で見て理解するタイプだから、図を並べてあげるといいのよ」と子どもの特性に応じた話が、よくなされます。
今回は、このような子どもの特性について深掘りして考えてみます。
2 小さな大きな疑問
しかし、それであれば、昭和から綿々と紡がれる、板書が大量に為される授業スタイルも「目で見て理解する」ことには変わらないので、視覚優位の子どもにも『いい授業』だったはずです。
一斉指導というスタイルも、先生が、多くを説明し、子どもは耳で聴くことになるので、聴覚優位の子どもにも、『いい授業』だったはずです。
これまでの定番、チョークアンドトークの授業が、すべての子どもにとって、負担のないものであったと考えられなくもありません。
しかし、世界を見渡しても、黒板が過去の遺産になりかけていることが、現実のようです。
また、全く板書をしないスタイルの授業で、視覚優位の子が、困っていたのかというと、そうでもない事実もあります。
学力の一側面を図るペーパーテストの結果では、すべての教科において向上が見られることもあり、なんとも不思議でなりません。
どういうことなのでしょう?
何が起こっているのでしょう?
経験豊富な先生や特別支援担当の先生から、視覚優位イコール何か視覚に訴えるものを提示することだと教えていただきました。
経験の浅い先生にとっては、聴覚に対して、視覚という、新しい選択肢を得られたと捉えることができます。
要は、それまでは「聴覚」一択だったところ、若しくは、このようなことに考えが至らなかったところ、新しい概念である「視覚」という選択肢を持てるようになったことになります。
これも一つ教育者としては、子どものプラスになると考えられなくもありません。
一方、教師が、それなりに納得できる側面から見ることで、子ども理解を深めたような気になっていたのだと考えることもできます。
しかし、また別の視点から、教師が理解に至っていない側面から、子どもの事実を見とることも、とても大事だと思います。
なぜなら、そこに、目の前にいるすべての子どもにとって学びやすい環境に、なっていない事実があるからです。
不登校児童・生徒が増え続ける一つの原因なのかもしれません。
学びを深める、子ども理解を深める為には、自分自身が理解できていない側面から、「わからないことはわからない」と言って学ぶことが必要だと今更ながら再認識しているところです。
3 ほうっておいても 子どもがぐんぐん学ぶ「学習スタイル」コーチング
高橋有希子 著
さて、それでは、教師がどのような学びをすればよいのかということになります。
今回は、上記小見出しの書籍である
「ほうっておいても 子どもがぐんぐん学ぶ『学習スタイル』コーチング」(高橋有希子 著)から、多くの気づきを得ることができました。
目の前にいる子ども一人一人にとって、「その子らしい学び方」を見出すために、子どもを見とります。
それを『学習スタイル診断』として述べています。
その方法として『気質』、『優位感覚』、『学習環境』、『興味・関心』、『才能』という『5つの切り口』が紹介されています。
このなかで、今回は、特に『優位感覚』と『気質』という観点について書かせていただきます。
4 『優位感覚』
『優位感覚』とは、情報を脳にインプットする際に、五感によって、どのように把握するのか、ということです。
また、その効果的な方法を、五感から考えるということです。
『学習スタイル診断』では、『視覚優位』、『聴覚優位』、『触覚運動感覚優位』の3つを、更に8つに分類しています。
(1) 『視覚優位』
「活字型」と「ピクチャー型」の2つに分類されます。
◯ 活字型
文字を用いた図解や一覧表
本、問題集、文字による説明書
などを読んで学ぶタイプ
◯ ピクチャー型
絵や図解、動画
絵、図、図形や表などにまとめ直したもの
劇、実演、映画
などをみることで学ぶタイプ
(2) 『聴覚優位』
「聴覚型」と「発話型」の2つに分類されます。
◯ 聴覚型
先生の話
授業、講演会
替え歌
読み上げ機能によるオーディオ教材
などを耳で聞くことで学ぶタイプ
◯ 発話型
自ら口で発した言葉
音読、単語をつぶやく
問題を出し合う、話し合う
などを耳で聞くことで学ぶタイプ
(3) 『触覚運動感覚優位』
「スケッチ型」、「触覚型」、「記述型」、「全身型」の4つに分類されます。
◯ スケッチ型
図や表の作成
講義を落書きにする
図解や一覧表の作成
ホワイトボードにアウトプット
などに、かくことで学ぶタイプ
◯ 触覚型
ブロック・折り紙
模型製作
などに、触れることで学ぶタイプ
◯ 記述型
文字を書く
ノートをまとめ直す
文字で概略や情報マップをつくる
など書くことで学ぶタイプ
◯ 全身型
歩きながら、踊りながら
ロールプレイ
キャッチボールをしながら暗記
フィールドワーク
など体を動かすことで学ぶタイプ
以上から、『視覚優位』と言っても、活字型もあれば、ピクチャー型もある訳です。
問題集で学ぶこともあれば、絵で学ぶこともある訳です。
また、『聴覚優位』についても、他者の声を聞くこと以外にも、自分の発言で学ぶことなどがある訳です。
更に、『視覚優位』の「活字型」や『触覚運動感覚優位』の「記述型」は、次に述べる、2つめの切り口である『気質』の「組織遂行型」と関連性が見られます。
つまり、1つの切り口である『優位感覚』を単独で判断するのでなく、他の切り口である『気質』との関連性もみることで、より深く一人の子どもを見とるということにつながります。
『学習スタイル診断』の奥深さに驚くばかりです。
5 『気質』
『気質』とは、「学びの人格」とも表現されており、5つに分類することができますが、今回は、1つだけ紹介させていただきます。
◯ 組織遂行型 〜秩序や規律の守り手〜
スケジュールに則り、計画的にひとつひとつ順番に取り組めるよう、目標を定めます。
講義を聞いたり、問題集に取り組んだりすることが効果的です。
順序立てて物事を進められる環境が適しています。
このタイプは、人口の23%に留まると言われています。
しかし、日本の教育スタイルに近く、模範的とされていることから、本来の「学びの人格」でないにも関わらず、このスキルを身につけて学びに向き合っているという状況もあるそうです。
6 おわりに
この書を基にして、子どもや教育を捉え直すと、一例ですが、決して「あの子は、目で見て理解するタイプだから、図を並べてあげるといいのよ」とならないことが、よくわかります。
先入観や教師の浅はかさ、十分ではない知識により、子どもの可能性を狭めていた事実に気づくことができます…。
また、『学習スタイル診断』を、方法論として捉えては、いけないこともよくわかります。
決してタイプ、スタイルの類型に当てはめて、子どもを先入観でみることではありません。
大人も子どもも相互に作用し合える、フラットな関係であることが望まれます。
決して、大人は、上から目線の教える人ではないと言えます。
また、『学習が苦手』だったのではなく、『学習の方法が正しくなかった』という本書の言葉から、子どもの人数分だけの子ども理解に向き合う必要性を再認識し、心新たにした今日この頃です。