動物を介した伝染病から考える:COVID-19時代のコピ・ルアクはどうなる?
元記事:The Price of Zoonotic Transfer: Rethinking Kopi Luwak in the Age of COVID-19 - Daily Coffee News [Nick Brown | September 10, 2020]
コーヒー業界にこれまで存在する「from seed to cup」のストーリーの中で、おそらく最も罪深いのは「コピ・ルアク」だろう。
2007 年のコメディ映画「バケット・リスト The Bucket List」(注釈:邦題「最高の人生の見つけ方」)において、ジャック・ニコルソンの演じるキャラクターがモーガン・フリーマンの演じるキャラクターに、あるコーヒーの説明書きを読むシーンがある。「コピ・ルアクは世界で最も高価なコーヒーであるが、一部の人には「話がうますぎる」とも言われている。豆を栽培するスマトラの村には、野生のジャコウネコが暮らしており・・・」
コピ・ルアク — インドネシアのジャコウネコの消化管を通って作られるコーヒー — のビジネスは近年大きく膨らんだ。今では合法なものから極悪非道なものまで何百もの販売業者がコピ・ルアクを取り扱い、さらにインドネシアの一部では、この「うんちコーヒー」を名産品として大々的に宣伝する地域もある。
しかしコピ・ルアクは、もはや野生のジャコウネコによって作り出されるものではない。想像力のない多くの人々の「世界で一番高いコーヒーを飲みたい」という需要に答えるために、病気を持つ個体もいる不潔なケージに閉じ込められたジャコウネコが、餌としてコーヒーチェリーを無理やり食べさせられる(注釈:「フォアグラの強制給餌」と同じようなことです)。
この動物虐待はすでに証拠として文書化されているにも関わらず、コピ・ルアクを求める人はいまだに多い。
またコーヒー産業において、コピ・ルアクは認証制度から締め出されており、ケージ・フリーやコピ・ルアクそのものの正当性を検証することはほとんど不可能に近い。そんな状況のまま、コピ・ルアクの生産は10年以上も続いている。
未知のコロナウイルスが猛威をふるっている現在のような状況においては、「人獣共通感染症」という観点からも、コピ・ルアクというコーヒーの存在について今一度見つめ直すことが必要になっているのではないだろうか。
人獣共通感染症とは、ヒト以外の動物を宿主とする動物からヒトへの病気の伝播のことだ。
非営利の動物愛護団体 PETA は今週インドネシアのバリ島で、PETA の工作員が観光客のふりをして、ケージに閉じ込められたジャコウネコの実態を告発する、というおとり捜査のビデオ報告書を発表した。それは、2010 年代に出回ったコピ・ルアク生産の非倫理性を告発する同様の報告書に似ていたが、今回の報告書で PETA は、次のパンデミックはコーヒー産業から起こるかもしれない、という別の可能性を提示した。
彼らの主張は「ジャコウネコは他の動物などと一緒にケージに入れられ、取引され、地下市場を通って出荷されてくるため、コピ・ルアクの生産は、動物が媒介する新たな病気の繁殖地になりかねない」というものだ。
PETAはこの説を裏付ける確固たる証拠を提示していないが、2004年にSARSウイルスが流行した際、人間に感染する前にコウモリの集団からジャコウネコに感染していた、ということは科学界では広く認知されている。証拠はまだ決定的なものではないが、新型コロナウイルスをヒトに感染させたと考えられている動物の宿主候補たち、そのリストの先頭に立っているのは、うろこ状でおとなしい哺乳類の「センザンコウ」であると考えられている。
ある場所では、センザンコウの肉は珍味として消費されている。特に、珍しいものならば高いお金を払ってでも食べてみたい、という人たちの間で人気だ… おや、どこかで聞いたような人たちではないか。
コーヒー界において、コピ・ルアクだけが「次のウイルス」を媒介する可能性がある、と考えるのは不公平だ。コーヒー業界は今までに熱帯雨林を切り倒し、生態系を破壊し、動物を家畜などで利用することで、未知なる病原菌やウイルスと常に隣り合わせで生きてきた。
しかし、コーヒーを飲むのにスリルを求める人たちにとっても、「死ぬまでにやりたいことリスト」= “Bucket List” から、もはやコピ・ルアクを消去するべき時なのかもしれない。
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junko