危機に次ぐ危機:COVID-19が脅かすコーヒー生産者の復興力
元記事:Crisis Upon Crisis: COVID-19 Threatens the Resiliency of Many Coffee Producers - Daily Coffee News [Peter Roberts and Giselle Barrera Carias | April 28, 2020]
過去18か月、私たちはグアテマラとエルサルバドルで、将来を見据えたスペシャルティコーヒーの生産者・支援者ら小さなネットワークと協力してきた。これらコーヒーのプロフェッショナル達は近年のコーヒー価格危機に端を発して、スペシャルティコーヒー生産者がより先進的な国際市場を開拓していくことを目的とした取り組みの一つ「Grounds for Empowerment Business Tools Workshops」の開発・試験的実施に向けて協力を深めている。
三度目のワークショップが3月に終了した直後、COVID-19 による世界的パンデミックがコーヒー農園で働く私たちの同僚をここまで動揺させることになろうとは、ほとんど誰にも知る由がなかった。
COVID-19 への対応が世界中に広がる中、私たちはグアテマラ、エルサルバドルのコーヒー生産者や専門家にここ数週間の彼らのオペレーションがどの程度影響を受けているか連絡を取った。それは、しばしば影に追いやられがちなコーヒーのバリューチェーンの一端に光を当てることとなった。
COVID-19 パンデミックは、現在も続くコーヒー価格危機・2012年に始まったコーヒー葉さび病によるパンデミックによって既に圧迫されていた多くの生産者と事業をさらに圧迫している。グアテマラ、エルサルバドルの同僚からの報告は以下の4つにまとめられる:
1. コーヒー農園で起こる混乱
2. コーヒー輸出遅延で広がる不安
3. 生産者支援システムのひっ迫
4. 生産者のネットワーク構築の必要性
1. コーヒー農園で起こる混乱
人々の移動が難しくなるにつれて、2020年最後の収穫期にある生産者たちはスタッフの配置とスケジュール管理の課題に直面している。COVID-19 の広がりに伴い、グアテマラ、エルサルバドルの両国はロックダウンと外出禁止令の発令に踏み切った。多くの産業が閉鎖されたものの、農業は必要不可欠なものであるとみなされ閉鎖対象にはならなかった。
しかし、コーヒー農園は多くの問題を抱えている。農園・ドライミルの近くに住む労働者は通勤することができるが、そうでない労働者は移動手段を見つけることができずに苦労している。同時に農園主も、銀行の営業時間・サービスの制限により労働者に賃金として支払うための現金の確保に苦労している。
グアテマラにある Gento Coffee の Ashley Prentice は、労働者向けの輸送サービスを新たに契約し、健康・保護措置のために追加投資も行ったことで事業コストは増加していると語った。また多くのコーヒーバイヤーは生産地訪問のキャンセルを余儀なくされ、市場の先行きが不透明であることもあり購入を躊躇したり、購入量を減らすケースが多い。このような流通の不確実性と生産コストの増大が、すべて価格危機にさらにのしかかる形で起こっていることを忘れてはならない。
2. コーヒー輸出遅延で広がる不安
コーヒーは加工され販売された後、市場へと出荷される必要がある。グアテマラコーヒー協会(Anacafé)の Ana Lucrecia Glaesel と Luisa Fernanda Correa は、国際的な規制によって船やコンテナが港に到着できず、いくつかの港で大幅な遅れが生じていると述べた。エルサルバドルコーヒー評議会(Consejo Salvadoreño del Cafe) は現場での勤務者数を制限し、残りは在宅勤務で対応しており、輸出許可の発行には通常よりさらに時間がかかる。
さらに輸出許可がおりていてもコーヒーが港で長期間待たされる可能性があり、早急な出荷を希望するバイヤーへの要望には答えられず、契約のキャンセルが発生する可能性も出てくる。
このような理由から農園収入が減少すると、グアテマラコーヒー協会のようにグアテマラコーヒーの国内・国外への宣伝、技術支援、リサーチセンター、研究所や焙煎所、コーヒースクール等に資金援助を行っている生産者支援団体の収入にも大きな影響が出てくる。キャッシュフローに直接的な影響が出ることは必至だが、今後数か月の間にボトルネックが解消されるのかは未知数である。
PROMECAFE(注釈 1)の René Leon-Gomez によると、生産者は COVID-19 パンデミックがコーヒーの最終的な需要、ひいては価格に与える影響についてさらなる不安を抱いている。加えて、出荷の遅れがコーヒーの品質に影響を与えバイヤーとの関係悪化に繋がってしまうのではないかと懸念している。
3. 生産者支援システムのひっ迫
生産者支援団体は、生産者たちが既に気候変動や価格危機に対処していることを理解しているが、COVID-19 危機は様々な理由で両者にさらなる重圧をかけている。
第一に、技術者が農園に赴き助言をする、といったようなことが不可能になった。グアテマラコーヒー協会の Ana Lucrecia と Luisa Fernanda は物理的距離保持の必要性(distancing)と移動やスケジュールの制約により、3月末には対面での技術的支援を最小限に抑えなければならなくなったと伝えた。期間中に訪問を予定していた農園にSMSやWhatsapp(注釈:LINEのようなメッセージ通信アプリ)、音声・ビデオ通話で対応した。
第二に、支援団体はCOVID-19に関連する緊急事態に備え、予算の見直しを余儀なくされている。エルサルバドルコーヒー評議会、米州農業協力研究所(IICA)の両団体は、緊急事態に備えた資金確保のため数件の投資やトレーニングプログラムを保留にせざるを得なくなった。
第三に、PROMECAFE の René Leon-Gomez は、コーヒーの輸出やその価格と直接的に関係する資金力の低下を原因として、多くの国でコーヒー協会が生産者支援能力の低下に直面していることを指摘した。
農園訪問の禁止、責任の増大、資金の減少という三つ巴の問題が大きく立ちはだかる中、グアテマラコーヒー協会のようなグループは数人のスペシャルティコーヒー生産者の小さなロットを空輸で輸送する支援を行っている。グアテマラでは、グアテマラコーヒー協会と FedEx がマイクロロットのコーヒーを輸出するための特別価格の設定の合意に向けて交渉を進めており、これが実現すれば、いくつかのプレミアムロットのコーヒーが市場に出回り生産者に資金を還元できるようになる。これと平行して、地元での消費を拡大する取り組みも進められている。グアテマラコーヒー協会の Ana Lucrecia は「状況が日々変化している中、一日一日を大切にしたい。現時点における最善のサポートをできていることを誇りに思う」と強調した。
4. 生産者のネットワーク構築の必要性
孤立や社会的距離を余儀なくされるこの期間中、つながりを保つことの重要性をあらためて思い知らされる。エルサルバドルを拠点とする J.Hill y Cig の Gabriela Flores、Belco Café の Marjorie Canjura(注釈:ともにコーヒー生豆輸出企業)は、より深い関係を築いているバイヤーほど契約をキャンセルする傾向が低いと語った。
グアテマラ・ Gento Coffee の Ashley Prentice は、長く取引を続けているバイヤーたちとの会話、仕事の話だけでなく生活全般などの他愛ない会話が心の平穏をもたらしてくれると振り返った。スペシャルティコーヒーの未来への共通認識を持っているという理由から、バイヤーとの良好・長期的な関係を特に築けているコーヒー生産者たちは COVID-19 危機を脱出するための投資を行う上で有利な立場にあると情報筋の間でも確信があり、Ashley は、コーヒーバイヤーはコミュニケーションの間口をさらに広げ、投資を継続していくべきであると提案している。
J.Hill y Cig の Gabriela Flores はさらに「革新的なバイヤーは、将来の収穫量を増やすための見返りの一環として複数年契約を検討すべきだ」と提言した。Belco Café の Marjorie Canjura はさらに、世界中で規制が緩和されるにつれてマーケティングが再び大きな役割を担うだろうと踏まえた上で、生産者に対して自分たちのストーリーを伝え続けつつ、他との差別化方法を探るべきだと促した。
さらに「V字回復」はコーヒーコミュニティによってこそ成立しうることを忘れてはならない。これまでコーヒー生産者に降りかかってきた危機は枚挙に暇がなく、コーヒー葉さび病や価格危機のみならず COVID-19 への対応に伴う物流・経済の問題にまで対処しなければならない。この復興を促進していくためにも、コーヒー生産者はネットワークを構築し、相互のサポート体制を整えていく必要があるだろう。
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注釈 1 PROMECAFE:メソアメリカにおけるコーヒー栽培技術の開発・発展を目的として1978年にグアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラス、コスタリカ、パナマ、ドミニカ共和国、ジャマイカが参加して設立された研究・協同ネットワーク。
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今回の記事を訳すにあたって、意訳・追加説明を多く含めました。原文のニュアンス・意図からは少し外れてしまった可能性もありますが、文章の読みやすさ、意味の通りを優先して記載しました。
junko